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第4話 黒髪の女の子

「凄い白熱しているな!」


 王は楽しそうに目を輝かせて修練場の2階から1階の試合をこっそりと覗く。王が試合を見ていると分かったら、子供達に影響が出るかもしれないとの判断だ。

 軍に入るとはいえ、まだ彼らは12歳。その緊張の中で戦えというのも、まだ酷なことであろう。しかし……。


「今年は怪物級な者が何人かいるみたいですね」

「そうだな。さっきの爆裂炎少女に、マーメイド少女、雷の双子に、鳥のように羽ばたく少年、強靭な肉体の土属性の少年。今見ただけでも、これだけいるとは今年は豊作の年だな。惜しくは光魔法と闇魔法に怪物級はいそうに無いかなといったところか。まあ、闇魔法はその能力ゆえ分かりづらいが。テオ、お前はどう見る?」


 私は手を顎にあて 先ほどまでの何試合を思い出す。


「確かに光属性には例年通り優秀といった子達はいましたが、先ほど王が挙げた子達に比べると数段現時点では見劣りしますね。ただ、闇魔法には気になる子供が2人いました。恐らく、とてつもなく強いですよ」

「ほう。どの子だ?」

「運がいいのか、2人とも決勝まで当たらずに来ています。互いに、どのくらいの力を残してここまで来たのか。それが勝敗を握るでしょうね。ただ次の決勝戦、面白いことになるでしょうね」


 俺は、自分がいつの間にか興奮し始めていることに気が付いた。


「珍しく楽しそうだな」

「そうですか?」


 俺は王の冷やかしから逃れながら舞台に上がる2人を目で追った。

 



 ☆☆☆


 一回戦を不戦勝で勝ち抜いた俺は、二回戦以降も危なげなく勝ち抜いた。

 実戦経験の差かもしれない。リルクブルクでの日々を思い出すと苦笑いが出てしまう。

 しかし、自分が勝ち残れたことも驚きだが、決勝の対戦相手がさっきの小柄な女の子であることには更に驚いた。

 女の子は圧倒的な強さで勝ち抜いてきた。魔法も自分の腕を硬化させる位しか、使っておらず、どのくらいの魔力量があるのかがいまいち分からない。

 その女の子の強さを目の当たりにした瞬間に、何人かの顔が青ざめているのが分かる。多分、彼女を虐めた奴らだろう。多少ながら気持ちは晴れる。

 でも、あんなに強いのに何で虐められっぱなしだったんだ?

 まあ、考えてもしょうがないか。

 俺は舞台に上がり、少女と向かい合う。


「はじめ!」

「宜しくお願いします」


 審判役の先輩が声を掛けるので、頭を下げて挨拶をするが、向こうから返事がくる気配は無い。顔を上げると、女の子も少し頭を下げていたので、ほっとする。


 なんだかなあ。 


 俺は気が進まないものの、軽く足を開き、拳を握って胸の高さまで挙げた。

 すると、女の子は両腕を硬化し、ダッシュして俺を殴りつけようと腕を振る。

 それをかわし、距離を取る。スピードも速いし、殴ることに躊躇が無い。何だか戦い慣れているような気がするな。


 ロリーに会う為には負けるわけにはいかないんだけど、女の子を痛めつける趣味は無いというか、そんなことしたらシスターグロリアにボコボコにされそうだ。

 俺はどうにか穏便に済まそうせないかと考えていたが女の子はそれを許してくれない。手を前に突き出して、俺を闇魔法で強引に引きつける。

 魔法力が弱い相手なら我慢することも出来るが、さすがに決勝に来る子だけあって威力が強い。堪えるタイミングが遅く、俺は女の子へと引き寄せられた。

 そして、女の子は向かってくる俺に合わせて拳をぶつけようと振りかぶる。

 しかし、それは俺を殴ってダメージを与えることが目的ではない。俺も闇魔法使いだから分かるが、あれは恐らく俺に殴る瞬間に闇魔法を流し込んで、精神に干渉することが目的なのだろう。精神を完全に操ることが出来ればその瞬間に闇魔法を送り込んだほうのの勝利が決まる。

 はあ、しょうがない。

 そして、女の子が俺の顔面目掛けて拳を突き出す。


「ばいばい」


 女の子の小さな声が耳に届いた。

 初めて聞く少女の声。なんだ、可愛い声だな。

 俺の頬に拳が当たり、予想通り膨大な魔力が俺に流れ込む。

 やばいな。精神干渉ばっかりに気を取られてたけど、拳自体滅茶苦茶痛い。

 女の子は自分の勝利が確信に変わっても、嬉しそうにする様子は無かった。しかし、その後に起ることに女の子の顔が今日初めて変化する。


「えっ?」


 女の子が拳で頬を振りぬいたのに、俺は倒れなかった。それどころか、拳から頬が離れない。


「これ、引力? でも、この人」


 そう君の魔法が効いていればそんな芸当できないはずだ。

 つまり、俺には精神干渉は効いていない。パンチは痛かったけど……。

 さあ、返すよ。君の魔力を。そして、俺の魔力もおまけにね。

 俺は彼女の魔力に自分の魔力を混ぜ合わせて、繋がったままの頬から魔力を送り返す。


「いや! なんで?」


 動揺する彼女の心に触れる。

 頬が滅茶苦茶痛かったから、少しだけお返しをしようかな。

 俺は彼女の過去の記憶をを少し呼び起こす。その中の、嫌だった出来事を。

 それは、ちょっとのいたずら心だったんだ。頬の痛みの軽い仕返しのつもりだった。


「きゃあああああああ!」


 しかし、次の瞬間、彼女は急に大声で奇声を発し、暴れだした。


「なっ!」


 俺は思わず、引力を解く。そんなに強力な精神干渉はしていないのに。

 彼女を見ると、身体から尋常じゃない量の黒い靄状の闇魔法が放出されていた。


「なんだこれ?」


 彼女は顔を抑えながら、際限なく闇魔法を放つ。


「うわああ!」


 右側から叫び声が聞こえたので見てみると、放出された闇魔法が周りの人に襲い掛かり始めていた。


「ぎゃあ!」

「ぐあああ!」


 いたるところで闇魔法に犯されて、発狂したり失神する人が続出している。


「みんな、逃げろ! 長時間巻き込まれたら精神が壊れるぞ!」

「こいつはヤバイ」


 ……どうしよう。



☆☆☆


 親がいないといっても、理由は人それぞれ。

 戦争で死んだ。事故で死んだ。病気で死んだ。

 私はそのどれとも違う。

 私は親に捨てられた。

 5歳の頃、両親は私を孤児院に預けた。

 親はギャンブル好きの酒好きで、ほとんど酔っ払っていた思い出しかない。しかも、機嫌が悪いときは、よく私を殴った。機嫌が悪い理由は大抵ギャンブルに負けたとかそんなんだったと思う。ストレス解消だと思うけど、単純に殴るのが好きだったのかもしれない。私はなるべく親の逆鱗に触れないように縮こまって生活していた。

 そんなある日、母に連れられて外出した。外に連れて行ってくれることなんてほとんど無かったから、嬉しかったのを覚えている。

 でも連れて行かれた場所は孤児院で、今日から私はここに預かってもらうからと言われた。私は、何も言わず、首を縦に振った。

 本当はやっぱり寂しかった。自分は必要でない子なんだと実感した。でも、少し安心もした。ああ。これ以上寂しくはならないんだと。正直、1人のときより、両親がいる時の方が寂しかったから。

 孤児院の生活が始まっても、生活は変わりはしなかった。

 私は友達の作り方なんて良く分からなかったし、ほとんどの時間1人でいた。しかも、この孤児院では将来軍人になるのだからと、戦闘訓練が義務付けられていた。親に殴られない代わりに、周りの子供に殴られた。でも、親に殴られるよりはましだった。気持ち的にもそうだし、今度は私も殴り返してよかったから。

 9歳になる頃には私に勝てる子は誰もいなくなった。年上の子供どころか偶にやってくる大人にもいなかった。どうやら、私は元々魔力量が多いようで、模擬戦では魔力を注げば勝てるようになった。

 私は正直なところ、強くなりたかったわけじゃなかったから、別にどうでもよかったんだけど、周りの子は違った。

 周りの子は神父様に認められたい一心で強くなりたいみたいだった。でも、どんなに頑張っても私には勝てなかった。すると、周りの子達は私を虐め始めた。ご飯の中身をゴミにすりかえられたり、洋服がいつの間にか裂かれていたり、物を盗まれたりした。

 私は神父様に相談した。無関心は楽だが、悪意を向けられるのは面倒くさかった。

 神父様は最初は真摯に私の話を聞いてくれていたが、彼は慰めてあげようといって、私の身体を触り始めた。神父様はいつも優しい人だった。その彼の行動がショックで、普段ならすぐに闇魔法で叩きのめしている所だが、そのときは頬へのビンタという拒絶と警告だけで抑えた。しかし、神父様の私を見る目はそれから憎悪へと変わり、他の子と一緒に私を虐め始めた。

 私は、感情表現の薄い子供だった。昔は泣いたり笑ったりすると、親が殴ってくるから、自然とそうなったんだと思う。それでも、多少の感情表現はあった。しかし、そのころには、全く感情が外へと出なくなった。

 もう私に関わらないでほしい。

 私もあなた達に関わらないから。

 そんなことを毎日願った。

 ただ、私にも希望はあった。

 12歳になれば軍に入る。孤児院から出られるし、今度こそ新しい生活で何か変わるかもしれないと思った。

 でも、軍にきてたった3日の他の子たちとの共同生活で、私にはそんなことは起らないのだと悟った。

 私はここ数年でどうしたら上手く話せるか分からなくなっていた。元々上手く話せるタイプではないが、相手に嫌われないように考えていると、何も言葉が出なかった。

 あっと言う間に、私は皆の虐めの対象となった。何も話さず下を向いている私は気持ち悪いのだそうだ。殴り返しても良かったが、まだ仲良くなれるかもしれない。私はその一心で反撃はしなかった。

 洋服以外で孤児院から唯一持ってきた絵本を毎晩読んで寝た。

 それは、親から唯一貰ったモノ。

 困っている人、泣いている人、救いを求めている人がいたら、助けに来て皆を笑顔にしていくヒーローの話。

 私もいつかヒーローに助けてもらえるかもしれない。笑顔にしてもらえるかもしれない。それが私の希望。

 ああ。でも、無理なんだろうな。

 私は困っていてもそうは見えないらしいし、泣かないし、救いなんて絶対に誰にも求めない。

 ヒーローも私には気が付かないよね。

 これからも変わらない。何も変わらない。

 でも、私は……。




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