英雄の物語
夜、ランタンが灯り、舞台を照らす。
舞台といっても広場に箱で作られた簡易な的な物だ。
そこに集まる数十人の民衆達。
ざわざわと小声で話ながら舞台を見つめる。
すると、その観衆の視線を浴びながら、一人の男が舞台の上に立つ。
服装は奇抜でカラフルなものであり、顔にも奇抜なメイクが施されている。
皆は待ち望んでいたとばかりに、拍手と歓声をおくる。
奇抜な男は恭しくお辞儀をすると、ばっと顔を上げて、両手を広げた。
「お集まりの皆様、大変お待たせ致しました。本日も数あるお話の中でも胸弾む極上のものを、英雄譚を、お話致しましょう!」
観衆からわっと声があがる。
この者はどうやら語り部らしい。観衆は彼の語る物語を聞きに集まっていたようだ。
「さて、今日の英雄譚はどれがいいでしょうか?英雄王ルドルフですか?」
語り部は聴衆に耳を傾ける。
しかし、反応は薄い。
「今夜はこれではなさそうだ。では、烈火の騎士グアテマラはどうです?」
また同じように聴衆に耳を傾けるが、やはり反応はない。
「おやおや、これもお好みではないですか?今宵はそんな気分ではないですね。では、国王直属アルダード一番隊隊長ラルフはいかがでしょうか?」
すると、割れるような歓声があがり、語り部が分厚いメイクでも分かるほどニッコリと笑う。
「分かっておりました。このところ、アルダード以外の話をさせては貰えませんからね。では紡ぎましょう。最高の英雄譚を。史実であり、伝説でもあるお話を。親を殺された悲劇の少年がどうやって英雄となったのかを。ではお話しましょう。始まりはそれほど昔のことではありません。主人公ラルフが孤児院で悪魔と呼ばれた時から始めましょう。では、ごゆっくりお楽しみ下さい」
そうして、また歓声があがる。
語り部はまた楽しそうに一礼した。