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決闘(デュエル)

世界には優しさという毒が充満している。彼女は蔓を編み人の形を作っていたが、表皮の緑色は変えられなかった。それでもそういう病気だとか説明すれば、肌のことを言う人はいない。彼らは差別主義者と言われないために、防衛として口をつぐむのだ。口を開くことは、毒を吸い込むこと。賢明な大人は、息を殺してやりすごす。だがものを知らない子供たちは、その限りではなかった。

終業のチャイムが鳴った。一斉に動き出す教室の中、少年たちは噂する。

「緑女が出たらしいぜ」

「何だよそれ」

「妖怪だよ。緑色で草でできていて、捕まったら死ぬんだと」

「いるのか、そんな奴」

「ああ、見た奴がいっぱいいるんだ。探しに行こうぜ」

「嫌だよ、そんなのいるわけがない」

「もしかして、ビビってんのか」

「ビビってない。死にたくないだけだ」

「ビビってんじゃねぇか」

「じゃあ、そうだ。カハラに行かせるってのは」

「はっ、それも面白いかもな」

「それで、いつ行くんだ。悪いが夜中は行けない、門限があるからな」

「夕方に決まってるだろ。妖怪が出るのは夕方って聞くし、だいたい夜中に出歩いたら怒られる」その日の夕方、カハラは夕暮れの道を歩いていた。彼らに半ば強制的に送り出されたのだ。そして運の悪いことに、ヒスイと遭遇してしまう。彼女は朦朧とした意識で、ふらふらと徘徊していた。「出、出た。許して、食べないで」

「誰」

「僕じゃないんです。あいつらが」

物陰から覗く二者の存在に気づく。彼女は蔓を伸ばし、彼らを捕らえた。

「何か、したのですか」

「何もしてない。ただ心配でついてきただけで」

「早く、帰った方がいい」

カハラの方を振り返る。

「お姉さん、何なの」

彼はどこか怯えているようだった。彼女はまた、どこかへと歩き出す。


うるさい声に、タカノは目を覚ました。拡声器越しに聞こえてくる。

「出てこい、タカノ」

声は近づき、遠ざかってゆく。どうやら叫び回っているらしかった。そして問題は、それがタカノの祖国の言語を使っていたこと。探しているのは自分だと、タカノはすぐに悟った。

「行くぞ、ヒスイ」

反応がない。彼女はまだ眠っているらしかった。

「疲れてんのか、まあいい」

外に出ると、一体の機神がいた。こちらに向かってくる。

「タカノ、俺と決闘しろ」

「嫌だよ、そんなに暇じゃない。だいたい誰だよ」

「裏切り者を処罰しにきた」

「嘘だな、ルジアルにそんなことをする余裕はない」

「半分は本当だよ。お前を倒すために、俺はこいつの適合者を引き受けた」

「だから、誰なんだよ」

「俺はベンタ。君に奪われた者、とでも言おうかな」

ハッチが開く。乗っていた男に見覚えはなかった。彼は続ける。

「君がお世話になってた兵長、彼女の婚約者だよ。彼女は君を拾ってから、君のことばっかり。それだけの愛を受けたくせに、なぜ彼女を守ってやれなかった」

「守りたかったさ、僕だって」

「知るか。お前の事情じゃない、俺の事情なんだ」

再びハッチが閉じられ、機神が発光する。それはルジアルの遺物を基に造られたもの。内部は熱に侵され、自殺志願者しか乗れないと言われた機体だった。

「聞いたよ、機神を持ち逃げしたんだってな。乗れよ、彼女が愛したお前はどんなもんなのか見せてくれよ」

機神が足元を殴りつける。タカノはどうにか回避した。運悪く巻き込まれた車が、機神に呑み込まれてゆく。いくつかの部品がこぼれ落ちた。

「金属を喰らう、ってところか」

彼は逃げ回る中で機神の狙いを電柱に誘導した。腕がめり込み、柱に縛り付けられる。

「なかなか味なことするじゃあねえの。だが、まだ」

ベンタがそう言った瞬間、宿が崩壊し中から緑色の怪物が現れる。機神を一撃で破壊し、逃げるベンタを追う。

「ヒスイ、なのか」

彼女がとどめを刺そうとした瞬間、触手が止まる。それは彼が名前を呼んだからか、彼女の理性が間一髪で止めたからか。ベンタが逃げ去る。彼女は人の姿に戻り、倒れた。消耗しているようだった。

「私は、何を」

「説明は後でする。ここに長居はできない、行こう」

彼は彼女を抱え、また歩を進める。

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