再会(リユニオン)
好きの反対が無関心ならば、嫌いの反対は関心だろうか。あるいは好きと嫌いを同一視するなら、嫌いの反対もまた無関心なのかもしれない。嫌うこともまた好くことなら、彼は世界を愛していたといえるのだろうか。
タカノは港町で夜を越した。
「起きろ、ヒスイ」
窓からは朝日が差し込んでいる。町はすでに廻りはじめていた。
「おはようございます、マスター」
「行こうか」
身支度を整え、出発する。宿をチェックアウトし、通りに出た彼らはバスを待っていた。町は活気に溢れていたが、同時に悪をも寄せつけていた。というより、悪をも飲み込む度量があったのかもしれない。町の影、少女が暴漢に襲われている。それが自分のせいではないと主張するように、大人たちは見て見ぬ振りを決め込んでいた。
「良いのですか、放っておいて」
彼女が言う。
「良いんだよ。余計なことをしてる暇はない」
「彼らは力を振りかざしています。彼らが傷つけることを、止めるのが使命ではないのですか」
「まあ、それもそうだな」
彼女は純粋ゆえに御しやすく、同時に操りにくいのだった。自分で言った手前、見過ごすわけにはいかない。彼は暴漢に言い放つ。
「その子を放せ」
睨みつけられるが、退かない。仮にも軍人だった彼が負けるはずはなかった。向かってくる男を投げ飛ばし、組み伏す。
「早く、逃げて」
そうこうしている間に、バスは過ぎ去ってしまっていた。
遠方から、何者かが駆けてくる。それは、彼のよく知っているものだった。土色の遺物。彼の探していた仇。タカノはヒスイの手を引き、走る。遺物のもとに着いたとき、それはもう一人の遺物と戦っていた。かたや土、かたや水。土色が殴りつけるが、液体になってすり抜ける。水色が反撃するも、硬い土には効かない。勝負は拮抗していた。
「どちらが強いですか。どちらが悪いのですか」
「土色だ。あいつは僕から全てを奪った」
「わかりました」
土色の足にヒスイの触手が絡みつく。動けなくなった土色の頭から胴体に、液体化した水色が纏わりつく。少しずつ浸透し、中に入ろうとしているようだ。土色は自らの脚を叩く。血迷ったのだろうか。何度目かで火花が散り、触手が燃え上がる。
「熱い、熱い」
鎮火を求めた触手が、水色に突っ込む。水色が蒸気をあげ縮んでゆく。何者かが乗り込んでいるコクピットが浮かび上がった。土色がそこを叩く。コクピットが歪み、完全に潰れたわけではなかったが機能を停止させるには十分だった。去ってゆく土色を見ていた彼は、苛立った様子で彼女に問う。
「なぜ、奴を助けた」
「すみません。燃やされたので、それで必死で」
「なら海に飛び込めばよかっただろ」
「すみません、すみません」
「あいつさえいなければ、あいつが全て悪いのに」
彼女は、それ以上何も言わなかった。彼もまた、言葉を失ってしまう。空は鬱陶しいほど晴れ渡っていた。