共闘(ユナイト)
「案外、この世界はバランスが取れているらしい」
「また何か動きがあったんだね」
「ルジアルが、遺物を発掘した。さらに都合よく適合者まで見つかったときた」
「でも、不利には変わりないんでしょ」
「わからないよ。ユピケルの鉱山を取れば、戦況はルジアルの有利に傾く」
「ユピケルの資源は枯れる寸前じゃなかったの。そうじゃなきゃ、戦争にはなってないはずだよね」
「ああ。実益じゃなく士気の問題だよ」
「人間って不思議」
「そろそろ、動こうかな。次の手を打たなきゃ」
郊外で戦闘があったらしい。ユピケル正規軍が駆けつけた時、すでに戦いは終わっていた。敵機と思われる残骸が転がっている。
「何が、起きた」
ユピケル軍のリーダー、セブルは動揺していた。その圧倒的な力の痕跡に。彼らを殲滅した何者かが敵だとして、あるいは味方だとしても、いつこちらに牙を剥かないとも限らない。奴を制御する必要があると、彼はそう考えていた。
坑夫たちの間で、ある噂がささやかれていた。土色の機神。それは不甲斐ない軍に代わり、この国を守ってくれるという。その正体をセブルたちは探っていた。
「本当にいるのか、土色の機神なんて」
筋肉質の男が呟くと、眼鏡の男が言葉を返す。
「今問題なのは土色でも機神でもなく、我々の脅威になり得る存在がいるということだ」
「案外、この地の守り神とかじゃあねぇの」
「非科学的かつ楽観的なことを」
「だって、味方してくれてるんだ。見つけて礼を言うならともかく、お前らの様子を見るにそれが目的じゃあねぇだろ」
「俺だって可能性は低いと思う。だが、慎重になるのも理解できる」
「理屈は分かってるさ。ただ、どうしても敵とは思えないんだ」
「だから、敵に回らないよう話をつけに行くんだ」
二人の前を歩いていたセブルが、振り向き言う。
「お前ら仕事もしないで無駄話たぁ、良いご身分だな。お前らが駄弁ってる間に、俺ぁ有力な情報を掴んだぜ」
二人の表情に緊張が走る。
「どんな情報ですか」
「北の方に森があるだろ。土色の機神がそこに消えてった、そんな話を何件か聞いた」
彼らは森へと向かい、それを見つけた。土色の機神、それは遺物と呼ぶべきものだった。と、後方に轟音を聞く。振り向くと、機神の群れがこちらに向かっている。ルジアルのものらしかった。
「敵襲か」
「行こう」
急ぐ二人と対照的に、セブルは落ち着き払っていた。
「警備班は強者揃いだ、手負いの奴らには負けないさ」
輪舞の編隊が左右に広がる。その中央にいたのは、見たことのない機神だった。あるいはそれは機神ではなく、別の何かだったのかもしれない。あえて言うなら、目の前の遺物にどこか似ていた。灰色の機体が赤く、白く発光し、周囲の全てを呑み込む。それは核融合のようで、同時に捕食行動にも似ていた。ルジアル軍は避難していたため被害はなかったようだが、ユピケルの警備班は跡形もなく消えていた。
「そんな、バカな」
絶望するセブルのもとに一人の青年が現れた。彼が土色の遺物に乗り込むと、それは動き出す。
「戦いに行くんだろ。連れてってくれよ」
セブルが叫ぶが、遺物は首を横に振る。
「仮にも正規軍なんだ、やれるだけのことはしたい」
遺物は少し静止した後、手を差し出した。セブルを掌の上に乗せ、走り出す。戦地の少し奥まったところに彼を下ろし戦いを始める。セブルが辺りを見渡すと、焼け焦げた死体が転がっていた。今は感傷に浸る暇はない。何が起きているのか、それを考える必要があった。さらに観察する。細いゴム管のようなものが無数に落ちていた。導線のカバーだろうか。もし、そうだとするならば。
「奴は、金属しか取り込めないのか」
そう推測すると、彼は石を拾い集める。
土色の遺物に乗り込んだメノウは苦戦していた。攻撃が当たらないのだ。機神は恐れるに足りなかったが、遺物となるとそうもいかない。遺物だから強いというよりは、人間的な強さをもって彼を圧倒していた。土色の拳は空を切り、その背後から一撃を受ける。灰色の遺物が光り、接触した腕の先から土色を浸食してゆくが、すぐに吐き出される。
ルジアルの機神たちは掃射し、セブルを狙っていた。彼はギリギリでそれをかわし、遺物の胴体に石を投げ込む。瞬間、灰色が怯んだ。彼の狙いが当たったのだ。遺物の中に人が乗っているなら、吐き出す前にそこに到達させればダメージは通ると考え、そして実行した。土色が灰色に拳を叩き込む。灰色が爆散する。機神たちが逃げ帰ってゆき、戦いは終わった。そしてその数時間後、メノウはユピケル軍にその身柄を拘束されることになる。