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生存者(サバイバー)

「英雄って何」

「強くて、都合いい人の蔑称」

「どうやったらなれるの」

「たくさんの人を殺す」

「なんで、そんなことするの」

「それで喜ぶ人がいるから」

「人間って愚かだ」

「あ、そうそう。殺すのは自分と似た考えの奴らがいいよ。方向性は違えど、やってることは同じって奴らを」

「殺しちゃうんだね、よりにもよって味方になれるかもしれない人を」

「自分と相反する考えの奴を殺したら、それは独裁者と同じだろう。あくまで自分のためじゃなく、誰かのためを演出する必要がある」

「なんで、そんなに詳しいの。実践したことあるの」

「まさか」


土色の荒野を、灰色の群れが埋め尽くしてゆく。かつて人類の暮らしを豊かにした機神アーツは、今や戦争の道具となっていた。低い唸りを上げ、地面スレスレを滑走する灰色の鉄塊は「輪舞ロンド」と呼ばれる機体だった。進軍する先は鉱業国家ユピケル。豊富な資源が眠るこの国に、政治屋たちは目を付けたのだ。

タカノが戦地に赴いたのは、愛国心からなどではなかった。彼にとって戦争は生きる手段であり、それ以上に恩返しだった。ザラザラとしたノイズが鳴り、通信が入る。

「今回の任務は鉱山の制圧。くれぐれも、死に急ぐことはしないように」

タカノが集中を欠いていることを、兵長はすぐに見抜いた。

「タカノ、聞いてるか」

「あぁ、はい」

「過去や未来に気を取られるな。今だけを注視し続けろ。さもなくば、死ぬぞ」

彼女は厳格で滅法に強く「鬼の兵長」と恐れられていたが、部下の命を大切に思う人だった。

死ぬ。声に出してみても、まだピンとこない。仲間の死は幾度となく見てきたのに、自分の死ぬところがイメージできない。それは元々が死んだような存在だからだと、彼は自身を分析していた。自分が死んで何人が悲しむか。きっと誰もが思うことで、誰も答えに辿り着けないこと。誰も悲しまないと彼がそう結論づけたのも、憶測や思い込みに過ぎないのだ。無条件に注がれるはずの親からの愛情すら得られなかった彼がそう考えるのは、自然といえば自然だったが。

「タカノ、死を恐れろ。恐れて、生きて帰りたいと願え」

「僕が生きて帰って、いくらの価値がありますか」

「わからない。価値は自分自身にしか作れないからな。生きて帰って何がしたいか、それが肝要だ」

ならば、僕はこの場所を守るために戦おう。僕を受け入れてくれたこの隊が、誰一人欠けることなく帰れるよう戦おう。彼はそう決意したが、言葉にすることはなかった。

国境線が近づいてきたところで、遠方から何者かが飛んでくる。それは脈動する大地。機神に似ていたが、決定的に違う。自然すぎる。まるで機神そのものが意思を持っているよう。それの繰り出す拳の一撃が、機神の一機を貫いた。輪舞は重装甲だったが、それにもかかわらず容易に破壊された。圧倒的な力の差が、そこにはあった。

「撤退だ!」

兵長が叫ぶ。

「でも、やられっ放しでいられますか」

「クルトが殺されたんだ、引き下がれません」

隊員たちが口々に言う。

「勝算は薄い。命を捨てることになるぞ」

彼女が言うも、意思を揺るがすことは出来そうにもなかった。

「‥‥わかった。できる限りバックアップしよう」

新型を囲み、取り押さえる。どんなに力があっても数の力には勝てないらしい。攻撃を試みるが、装甲が硬く通らない。

「駆動系を狙え!」

何かがおかしいことにすぐに気づく。駆動系どころか、関節という関節がないのだ。流動的に動くそれは現代の技術では到底造れるものではなく、まさに遺物オーパーツだった。硬くしなやかなそれをどうするか、答えを見つけるより先に振りほどかれた。

タカノは驚き動揺する。機体が宙に浮いていた。それは遺物の仕業ではない。後方の僚機に投げ飛ばされたようだ。機内にノイズが鳴る。

「生きろ。お前にならそれができる」

そう、聞こえた。遺物が地を殴り、機神たちが吹き飛び爆ぜる。いともたやすく壊滅した。親に捨てられ、兵長に拾われ、それからはここだけが居場所だった。それが、一瞬のうちに砕かれた。許さない。その一念に思考が染まる。都合のいいことに今は空中、遺物の頭上をすり抜けてゆく。推進剤スラスターを全開にし、機体を縦に回転させ槌の一撃を叩き込んだ。遺物が倒れる。姿勢を崩しはしたが、装甲を傷つけることはできなかった。勝てない。だから、ここは退く。生きて奴に復讐するために。彼は逃げ去り、祖国に帰ることはなかった。

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