再生(アンコール)
第五の国が滅んだのは、手足を持たないからだった。彼らは戦うことを拒否し、侵略者たちに滅ぼされたのだ。手を汚さぬまま死んでいった彼らは、極楽浄土で救われると信じていた。彼らが本当に救われたかはわからない。ただわかるのは、彼らが生きることより高潔であることを選んだという事実。
噴出した闇が世界を呑み込んでゆく。ブロック崩しのように景色が崩れ、後には闇だけが残る。
「何だよ、あれ」
「何かは知らないが、水の遺物には勝てないだろう」
「一体、行かせてみるか」
緑色はすぐに呑み込まれた。
「まずそうだな」
一斉に逃げ出す。逃げようとするも、闇に呑まれて道がなくなっていた。終わりは避けられないようだ。その時、はるか後方から手足のない遺物が飛来した。タカノが叫ぶ。
「俺に力を貸してくれ。俺の手足になってくれ」
彼らが呼応する。
「また奴がやってくれたか。奴は、大人の想定を超えていくよな」
「俺の勘が彼にベットしろと言っていた、それ以上の理由はない」
「彼女が認めた男だ、任せてみるのも面白いかねぇ」
「よかった、復讐をやめてくれて」
遺物の両足に土色と水色がドッキングする。さらに人工遺物と複製遺物が両腕に合体し、完成された英雄を形作る。向かってくる闇に、胴体からの光線で対応する。光と闇が衝突するが、少しずつ光が押してゆく。光は闇を呑み込み、世界を呑み込み、景色全てを白に染めた。視界が回復した時、世界は元に戻っていた。
「終わった、のか」
世界は緩やかに死んでいく。少ない資源を分けあって、どうにか延命している。ヒーローの必要とされない世界、どこでもない場所で彼らは語らう。
「ようやく、話す時が来たようだね」
「遅えよ」
「全ては、遺伝子に刻まれた運命だったんだよ。かつての王家は、生命科学を得意としていた。遺物が有機的なのも、僕らの遺伝子に遺物の在処を刻めたのもそのせい。そして生命を操る彼らが、最後に何をしようとしたか」
「生命を造り出す、ってところか」
「はるか昔、五行説という思想があった。世界は火、水、木、金、土の五つの元素からなるという考えさ」
「五つ、水、木、土。遺物か」
「その通り、君は話が早くて助かる。そして五つの力が集まれば、世界そのものを造り出すことすらできるというわけだ」
「にしても、どうして今更語るんだ。敗因を長々と語る奴は好きじゃない」
「種明かしは最後にするものだろう。それに、僕は負けたなんて思っちゃいない。あの力の一端が見られたんだ、これ以上ない勝利だ」
「最初から、勝つ気なんてなかったってわけか」
「ああ。世界を壊すなんて、そんなつまらないことに興味はない」