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ラブカクテルス その96

作者: 風 雷人

いらっしゃいませ。

どうぞこちらへ。

本日はいかがなさいますか?

甘い香りのバイオレットフィズ?

それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?

はたまた、大人の香りのマティーニ?


わかりました。本日のスペシャルですね。

少々お待ちください。


本日のカクテルの名前は縁間でございます。


ごゆっくりどうぞ。



ワシは海の神ポセイドンである。

ワシにはかわいい姫がいる。

姫もそろそろ年頃。

しかしワガママな故、なかなかいい縁談に結びつかない。

どういうつもりなのだろうか。

それほど姫にも時間がある訳ではないのに。

なにしろ今年で人間齢にすると35歳。

瀬戸際だ。

選り好みし過ぎた仕方のない結果ではある。

とは言え、このまま行かず後家になってもらっても困る。

そこでワシは姫を見合いさせることにした。

そろそろ屋敷に来る筈なのだが。

そこへめかし込んだ姫がやって来た。

海の神ポセイドンに促されて、とりあえずリビングあるソファーに座る。

しかしリビングと言ったところで、人間達には判らないだろうが、そこは実に広々とした石造りの神殿内にある、珊瑚でできた綺麗な長いテーブルに二枚貝であしらったソファーが並ぶポセイドン自慢の客間であった。

姫は下半身の尾ひれを器用にたたみ、腰を下ろした。

そう、姫は人魚である。

美しい顔立ちはポセイドンには似ても似つかないが、一応親子である。

髪の毛は染めたのかどうかわからないが、綺麗な赤色をしていた。

姫がポセイドンに用向きは何かと尋ねると、ポセイドンは縁組みを用意したことを、少し照れくさそうに言った。

姫は相手が誰なのかを聞いた。

ポセイドンは砂の国の若き王だと説明した。

確かに人魚仲間の間でも、かなりの財産家で色男だと噂にはなっている。

姫は父のポセイドンに礼を言うと、きっといい話を持って帰ってくることを約束し、早速行ってみることにした。

お伴の亀を従えて、海から川へと移り、いよいよその国の砂浜へたどり着いた。

姫は腰から下のウロコの部分、つまりは尾ひれまでだが、それをスルスルと脱ぎ捨てて、亀の背中から、今砂の都でウケているファッションを受け取りササッとそれを身にまとった。

その姿ときたら、なんと美しいのだろうか。

この世の者ではない程の美しさ。

当たり前である。海の神ポセイドンの娘なのだから。

だが砂の国の王子は当然そんな事など知りもしないで、遠い海の果ての国の姫だとしか聞かされていなかったものだから、その姫の美しさを見て一目惚れだった。

宴の席で王子は姫に財宝や金貨、そして立派な神殿を見せつけて猛アピールをした。

当然妻に迎える気満々だ。

が、

姫はあまり乗る気にはなれなかった。

なぜなら王子は十二歳。

若すぎ、というより親子でしょ、それ。

化粧直しに行くと手洗いの振りをして急いで姫は川へ向かい、待たせていた亀から尾ひれを受け取ると、猛スピードで海へ向けて泳いだ。

しかし困った。

このまま帰れば必ずや父上である海の神ポセイドンに叱られる。

考えて悩んだ挙句、仕方なく姫は亀を連れて温かい海へ行くことにした。

そういえば、人魚クラブの雑誌に有名な火山の国の王子がいて、サーファーな上にイケメンで、財力はもちろん、熱い男だと書いてあったのを思い出したからだった。

姫はウキウキと尾ひれを振った。


海流がだんだんと温くなってきたのを感じる。

魚達も彩りが豊かになって、珊瑚も歌を歌っている。

南の海の火山の島。火山の国。

やっと着いた。

姫はしばらく島の周りを漂い、何かを待った。

そして朝日が登る頃、それは現れた。

姫はそのサーフボードを勢いよく掴み、上に乗っていた王子を海へ投げ出し、王子が気を失ったのを見計らって助けると、岸まで運んだ。

それから急いで姫も海岸へ上がると、イルカの背中から火山の国で流行最先端のファッションを受け取り、尾ひれをまた、亀に預けて火山の国の王子の横に戻った。

気がついた王子は、まんまと介抱していた美しい姫に完璧に惚れた。

いい男だ。

姫もたくましい肉体と、その掘りの深い凛々しい顔立ちのその王子にヨダレが出そうだったが、冷静さを保ち、温かくおおらかに倒れた王子の頭を膝に抱き、優しく微笑み掛けた。

王子は具合が良くなると直ぐに姫を城に連れて帰り、そして紳士的な言葉を使い姫に妻になってほしいと頼んだ。

姫は恥じらう素振りでそれを受け入れようとした。

しかしその時、

轟音とともに地面が揺れた。

じ、地震だわっ!

姫が慌てると王子は笑いながら違いますと、平然と答え、火山の神が二人を祝福していると言った。

そしてこんなのはいつもの事だと胸を張って言うのだが、姫にはまっぴらごめんな話だった。

姫は化粧直しをするからとまた急いで海へ向かい、猛スピードでその島国から逃げ出した。

無理っ。

毎日あんな地震と轟音を味わっていたら気が変になる。

しかしこのまま帰ればきっと見合いを破談にした事がとっくに耳に入り、父上ポセイドンは今頃カンカンの筈だ。

姫仕方なく、東へ向かう事にした。

芸術を重んじる文化の栄えた国の王子が、センスもよく色男だと深海通信のラジオでやっていたのを思い出したのだった。

姫の尾ひれは艶やかにエメラルドの海へと心急かし泳いでいった。

姫は海から河に入り、そのまま宮殿の噴水までたどり着いた。

そこで池の鯉に芸術的なファッションを受け取り、尾ひれを亀に預けて、緑が豊かな芝の上を優雅に歩いた。

まるでその姿ときたら油絵の中の貴婦人そのもの。

そこへ偶然、芸術の都の王子がやってきて、その絵画に惚れるように姫の虜になった。

ロマンチックな詩を詠うような愛の告白を姫に投げ掛ける王子。

姫も満更でもなくそんな王子に歩み寄る。

しかしその時、後ろから何やら声が。

それは王子を呼ぶ声。

女の。

しかも一人かと思いきや、その後ろから次々と出て来る、出て来る。

姫はそのまま王子から離れると、人目を掻い潜り噴水に飛び込んだ。

まっびらだ。後々女のゴタゴタに巻き込まれるのは。

姫は仕方なく西へ向かう事にした。

西の大国に頭のキレる、軍事力で絶大な権力を握る超カリスマ王子がいると、南海テレビで見た。

それだ。

姫の尾ひれはスクリューのように海水を蹴った。

姫は大国の岩場である岸にたどり着くと、尾ひれを亀に渡し、サメに用意させた大国の軍服を身につけると、要塞のような大国の城に潜入した。

しかしなんと血生臭さと火薬の匂いが鼻につくのだろうか。

チラリと姫は大国の王子を覗き、様子を伺ったが、その王子の目は支配欲以外に何もない事がその眼差しでいやという程わかった。

姫はこんなところに自分の居場所がない事を悟ると、大急ぎで海に向かったが、途中で見張りの軍人に見つかり追われ、何とか逃げれたものの、怪我をして、それでも追っ手がしつこく、夢中で逃げるうちに、自分の知らない海に出てしまった。

そこは暗く寂しい海だった。

なんだか寒い。冷たい。

どうやら追っ手は巻いたようだ。

姫は水面の様子を見てみることにした。

いつの間にか河に入ってしまったようだ。

姫は周りを見回したが近くにお伴の亀もいない事に気付き、不安になった。

そのうち岸辺が見えきたので近寄ってみると、船着き場があった。

どうやら人がいるみたいだ。

姫は恐る恐るそこに近づいてみることにした。

船には白い服を着た数人の男女と船頭が一人。

姫が乗せて欲しいと船頭に頼んでみると、どうぞと親切に船へ乗せてくれた。

姫はとりあえず人といる事で不安な気持ちから逃れたかった。

姫は乗り込み、礼を言って船の端にチョコンと座る。

この船はどうやら渡し船らしい。

しかしなんて静かなお客達なんだろう。

姫は首を傾げた。

この人達はどこに行くのかしら?

ゆっくりと進み出した船はだんだんと暗いその先に呑み込まれるように水面を走り、どんぶらこどんぶらこと、一筋の船波を後に残した。

姫はその一筋の船波を見つめながら、何だかイヤな予感を感じ始めていた。

そしてそれからしばらくして、ようやく反対岸に着いた。

客達は静かに船を降り、姫も船頭に言われるがまま岸辺へと降りると、そこには他の客を出迎えに来た大男が立っていた。

なんだか恐い表情で、怒っているのか、真っ赤な顔をしている。

しかしよくよく見ると筋肉隆々で逆三角形の背中は頼もしく、悪そうなところになんだか惹かれてしまう。

姫はその一行の後に着くことにした。

歩き難いでこぼこ道をしばらく進み、そのうち断崖絶壁に囲まれた細い道になったかと思うと、そこには大きな門が出てきた。

一行はそれを潜り、姫もそれに倣う。

その奥には黒い空と赤い大地が広がり、木製の舘がその大地の上にドスンと立っていた。

少し行列が出来ていたその入り口に一行は並び、そしてしばらく待たされた後に入って行くと広がったその奥に、大きくて立派なカウンターが伸びていて、そのカウンターの中には三人の、これまた大男が恐い顔付きで入ってきた客達に何かの手続きみたいなことを行なっているようだった。

それを見て姫はドキッとして、身震いさえした。

しかしそんな姫にも構わずに、その向かって右側の大男が何かを読み上げると、左側の大男はどうやらそれを書き留め、真ん中の大男が何やら叫んでから、上から下がった赤と白の紐のどちらかを引くようだが、不思議なことに白い紐が引かれると、その前に立っていた客は白い光に包まれて消えていった。

しかし赤い紐を引かれた客は床に穴が開いてどこかへ落ちて行くようだった。

そのうち姫と一緒に船に乗っていた客達の番になり、そしていよいよ姫の番となった。

左側の大男が何かを読み上げた。

しかし姫はその言葉が耳に入らない。

なぜならば姫は、

我慢出来ずに言った。

どなたか知りませが、私一目見た時からあなた様に一目惚れしてしまいました。

迅速な決断力とその隆々たる頼もしい肉体美。

是非けっこ、

姫がそこまで言い掛けたその時、姫は凄い勢いで何かに引っ張られた。

あっーぁ

そして気がつくとそこには心配そうな亀と、ポセイドン、そして呪い師の婆様が姫の顔を覗き込んでいたところだった。

姫には何がなんだかわからなかった。

そんな姫の表情を見た海の神様ポセイドンは、ホッとした顔をして事の経緯を話し始めた。

それによると、どうやら姫はあの軍事国から逃げ出す時の傷が原因で、泳ぎ逃げる最中に死に掛けて亀が慌ててポセイドンの元に運び、海の世界の呪い師の婆に救いを求めて、やっとのことで黄泉の国から連れ戻せたと言うことらしい。

しかし姫はそれを聞いて泣き出した。

凄い勢いで。


しかしそれからしばらくして姫は元気になったそうだ。

なぜなら自分の王子を見つけ、その王子に会うにはそれほど焦らなくても良さそうだからだそうである。



おしまい。



いかがでしたか?

今日のオススメのカクテルの味は。

またのご来店、心をよりお待ち申し上げております。では。

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