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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ロボとAI

作者: 白烏黒兎

「依頼を済ませてきた。確認を頼む」

 目の前のカウンターの向こう側へ携帯情報端末(PDA)を取り出して言う。

 するとカウンターに陣取る強面の男が自身を一瞥して笑った。

「はん、生き延びやがったか」

 そう言うと馴れた手つきで近くの情報端末を操作する。

 少し待つとPDAから音が鳴る。

 仕事が完了した合図だ。

「お前さんの腕が良いのか、人工知能(AI)が優秀なのかは知らんがあのオンボロで成し遂げるとはな。良くやった――何だ変なものを見たような目をして」

「い、いや、アンタが俺を褒めるのなんて珍しいっていうか……」

 普段から目の前の男に“ガキのお人形遊び”と散々馬鹿にされていたいたのだ。

 長くはない付き合いだが、こんな素直に褒められた事はない。

「ああ? そりゃ、幾らオンボロでも立派な鎧が有んのに近場での“お使い”やら“草取り”しかしない腰抜けはそう呼ばれてもしょうがねぇだろ」

 男は語る。

「死と隣り合わせである危険域の探索、回収は確かに大事だ。――だけどな、お前らパイロットの本分はそこ(・・)じゃねぇ。“敵”を一匹でも多く狩るのが仕事だ。人を守り、生存域を広げ繁栄を齎す、それが仕事だ。立派な“鎧”を纏っておきながら、生身の人間でもできる事をするのは“人形遊び”と変わりねぇだろ?」

「そう、ですか」

 男の言いたい事は分かった。

 事情が有ったとはいえ、チマチマと簡単な仕事ばかりやっていたのだ。

 最も簡単とはいえ、こうして命を張った仕事をやり遂げた事で認められたのだ。

 散々馬鹿にされた為か、あまり好ましい相手ではなかった。

 だが、こうして頬が緩むのはどうしてか。

「分かったら“鎧”の整備でもしてろ、ホラ次が来たからさっさと行け」

 次の待ち人と入れ替わるように追い払われる。

 今までと変わらないやり取りであったが、しかめっ面ではない事が何だか嬉しかった。


          ●


 人混みの中を掻き分けて歩く。

 途中、屋台から腹に来る匂いが漂っていたが、財布の紐は固く結ばれている為に泣く泣く通り過ぎる。

「ふぅ、これなら何とかってところか……」

 何十日も掛けてようやく生活の目処が立ったのだ。

 苦労が報われた訳だが、未だに問題は山済みであった。

 問題を指折り数えていると目的地に着いた。

「先ずはもっと金を稼いでコイツを直さないとな」

 目の前には“鋼鉄の巨人”が列を成して佇む。

 それは鎧であり武器だ。

 その中の一つに自身の巨人が居た。

 それは鉄パイプの骨組みに鋼板を継ぎ接ぎした姿をしていた。

 他に並ぶ“巨人”と比べると安っぽい玩具にしか見えない。

 先日購入した錆が目立つ中古の武装の方が本体よりまだ新しく見える。

 更には先の戦闘で一部の鋼板が歪んでいるのがまた哀愁を誘う。

 まるで出来の悪いプラモデルだが、その身にはしっかり“巨人”としての暴威と価値を秘めている。

 おかげで性質の悪い連中から狙われる事もある。

「今、戻った。開けてくれ」

『お帰りなさいませ(ぬし)様。不在の間、不審者は居りませんでした』

 澄んだ声と共に巨人の(ハッチ)が開く。

 その内に身を滑らせ入り込むとハッチはひとりでに閉じる。

 立つ事もできない位、狭い空間に設置された椅子に座る。

『……やはり、ゴミ漁りをするよりは安定した収入にはなりそうですか』

 懐にしまってあるPDAが震える、“彼女”が入り込んだ為だ。

「今回は大半を一撃で仕留めたからな。状態が良いってことでボーナス込みだそうだ」

『この機体では危険が過ぎますので頻繁にとは言えませんが、主様のブランクを埋めるために定期的に受けるのは有りですね』

「俺からすればこうして戦ったのは初めてなんだけどね」

 鍵を差し込んで動力源を動かす。

 僅かな振動と共に待機状態から起動する。

 内部に取り付けた様々な計器が“巨人”が目覚めた事を知らせる。

『主様、久々――いえ、初めての戦闘でお疲れでしょう。宿までは私が操縦いたしますので少々お休み下さい』

「あー、それは助かるわ。じゃあ後は頼んだ」

 操縦桿から手を離して椅子にもたれ掛かる。

 最低限のクッションしかない鉄の椅子は、お世辞にも心地よいとは言えない。

『揺れにご注意下さい』

 直後、振動が体を揺らす。

 巨人が動いた証だ。

 断続的に襲い掛かる揺れは強く、酔いかねない。

 が、今の散々弄繰り回されたこの体では心地よい振動でしかない。

 戦闘での緊張による疲れだろうか、瞼が重い。

「悪い、ちょっと寝るわ」

 彼女からの返答を聞く前に意識は闇に落ちた。


          ●


 窓の無い個室。

 白衣姿の人間達。

 病院というより研究所というイメージが近い。

 そこには見覚えがあった。

「では、同意書にサインを」

「――これでいいですか?」

 “俺”として一番新しい記憶だ。

「それでは治験は直ぐに始まりますので準備をお願いします」

「……わかりました」

 それは治験のアルバイトとして参加した記憶だ。

 何故やる事になったかといえば、よくある困窮問題だ。

 国家が主導して行う治験という事で支払いも良く、その報酬の高さに釣られたのだった。

「こちらを一日三回、食後に服用してもらいます。それ以外は居住スペースにて自由にしてもらって構いません」

 長期間の拘束がされるという事であったが、背に腹は変えられない状況であったので呑むしかなかった。

 質素であるが栄養バランスを考えられた食事を摂って薬を飲む。

 その直後から記憶が無い。

 そして、それが“俺”としての最後の記憶だった。

 記憶が終わり、闇に包まれる。

 前も後ろも分からない。

 そんな中、聞こえてくるものがあった。

「……隊長! 我々は騙されたんです! あいつ等が手柄を立てる為の囮として!」

 悲痛な叫びが耳を打つ。

 その言葉が引き金となって世界に色が着いた。

「落ち着け、この状況で冷静を失えば死に直結するぞ。ったく、こんな時になってもパワーゲームたぁ、人間って愚かだわ」

『しかし、そんな人間が損得を選択をできる程に状況を巻き返したのは主様達の尽力の結果ですよ?』

 “彼女”と愚痴を吐くのは“俺”の知らない“俺”だった。

「まぁ、絶望しかなかった状況に比べれば全然マシだわな。――こうして使い潰される側からすれば堪ったもんじゃないけどな」

 “俺”が居るのはSFアニメでありそうなコックピットだ。

 前方に展開されるメインモニターには外の景色が鮮明に映りこんでいた。

「敵が8、地面が2ってところか? 一小隊が対処する相手じゃないよな」

 視線の先には蠢く影が群れを成していた。

 それら全てが自分達を襲う敵だ。

 そして俺達を完全に補足していた。

「隊長、どうしますか?」

 先程とは別の声が響く。

「本部に情報を持ち帰るのが先決だ。先の情報と状況が違い過ぎる。何かが起きてるなこりゃ」

「では、殿は私が――」

「俺がやるさ」

 “俺”はきっぱりとそう言った。

「……何故かお聞きしても?」

「単純な算数の問題だ。一人を置いて行くだけで残りが丸々生き延びられるんだ。戦争の終わりが見えている中、戦力は少しでも多いほうが良い。ホラ、こんなにお得な事はないだろ?」

「――隊長」

 ふざけていたら部下に怒られた。

「あー、真面目に話すと装備の問題だ。手持ちの分じゃまず足りない、全員が突撃しても弾切れした時点で飲み込まれてお終いだ。その点では俺の機体はエネルギー武装と良い動力源(ジェネレーター)も積んでいるからな。単機でも多少は長引かせられる」

 機体の壁をノックする。

 実際、隊長機という事で多少改良がされていた筈だ。

「そして処理速度だ。こんだけの数をキッチリ処理できるだけの演算能力はお前らのAIと機体には無いだろ?」

『戦艦か母艦が居れば代わりに行ってくれるのですが、今回は小隊単位での行動なのが裏目にでましたね』

「という訳で、戦艦並とはいかないが、高度な演算処理ができる“相棒”が居るのは俺だけだ」

 ムフー、と誇らしげな声が聞こえたが無視だ。

「最後に今まで散々手柄を立てたせいか嫌われているからな。身内に俺を快く思ってないやつは沢山居る。俺だけ生き帰っても、失態を口実に掃除夫として基地をピカピカにする破目になるだろうよ」

「……失礼を承知で言います。自分がどれだけ馬鹿げた事を言っているか分かってますか?」

「答えは“はい”だ。分かったら撤退を始めろ。奴等もそろそろ我慢の限界みたいだからな」

 敵の進軍速度が上がった。

 俺達を潰すために。

「隊長、色々言いたい事はありますが、最後に一つだけ……貴方は馬鹿だ」

 その言葉を皮切りに幾人からも言葉が飛んでくる。

 そんな彼らに“俺”は、

「おう、そんな馬鹿に着いて来てくれてありがとな。あと、上官を侮辱した罰だ、絶対に生きて帰れ。これは命令だ」

「……はい」

 センサー上の味方を示す光点が後方へ去っていく。

 反対に前方は敵を示す光点に埋め尽くされていた。

「さて、と。じゃあ最期に一花咲かせるとしますかね」

『主様、最期まで御伴します』

 バーニアを吹かして敵の群れに飛び込む。

 果たして、敵の3分の2程を削った後に自爆した……筈だ。

 言い切れないのは記憶は曖昧だからだ。

 無我夢中であったし、機密保持の為に記憶は消去されているのだから。

 今見ているのは残滓でしかない。

 しかし、“俺”が経験した事ではあるらしい。

 生活の困窮に二進も三進もいかなかった男が、巨大ロボットのパイロットに成っているなんてB級映画でも少ないではないだろう。

 更にその後に数百年後の世界に放り出される流れはSFとしては3流ではないだろうか。

 かつて隆盛を極めた国も法も変わり果てていた。

 ただ、そんな世界でも唯一無二の相棒と生きて行くのは悪くないと思えるのは呑気であろうか。

 気が付けば到着を知らせるアラームの音が俺を呼び起こした。

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