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なにもしてないのに負けたことない

作者: ククル

 世の中には、落ちこぼれ、平凡、努力家、秀才、天才、色んな人がいる。多かれ少なかれ努力しているのだろう。そこで思ったことがある。――何故、みんなこんなに弱いんだろう、と⋯⋯。


 


「――グハッ!!」


「⋯⋯もう諦めなよ。君では、僕に勝てないよ⋯⋯」


 僕は呆れながら、模擬戦を挑んできた相手を地面に倒していた。


「⋯⋯お前みたいな、――努力もしてない奴に! 負けてたまるか!!」


 そう言って、僕に向かってくる相手に哀れみの視線を送りつつも、カウンターで蹴り飛ばして今度こそ意識を沈めてあげた。


 僕こと無才咲哉むさいさくやは今、この学園で天才と呼ばれていた人を簡単に倒した。この学園は国立武道学園という戦闘のプロを育成する場所だ。この世界の人々は生まれてから身体強化という特殊能力を持っている。――身体能力の底上げが出来るだけなんだけどね。


 僕はこの学園の一年生で、最近はさっきみたいに絡まれることが多くなって困ってるんだよね。――負けたことないけどさ。


 さっきの名も知らない天才さんが言ってたように、僕は努力もなにもしたことないのに戦闘で負けたことが一度もないんだ。さっきだって身体強化すら使ってない勝利だったからね。それにね努力しないとかじゃない。――する必要がないんだ。しなくても勝てるからね⋯⋯。悲しいことだよね⋯⋯。――僕に身体強化を使わせることのできない人も天才と呼ばれていた人種なのだから。


「⋯⋯また模擬戦を挑まれていたのですね。――まだ入学式から三ヶ月くらいしか立っていないというのに」


 今僕に話し掛けてきた生徒は、天坂琴音あまさかことね。入学式前に不良に絡まれていた所を僕が助けたんだ。それからはなにかと僕を気にかけているみたいだ。彼女はお世辞抜きにも綺麗だ。僕と同程度の身長で百六十五程だ。スタイルも抜群。綺麗な黒髪を靡かせる様はとても絵になっている。そんな彼女が僕みたいな、なにもしないのに強い奴と親しいとどうなるか――簡単なことだ、嫉妬する。


「しょうがないさ。僕の態度が気にくわないんだよ。みんな、僕に真面目にしろ、努力しろとか言うのに勝てないんだよ⋯⋯。そして負けたらこういうのさ――なんで何もしてない奴に負けるんだ、とね。僕が努力をしだしたら本当に誰も――足元にも及ばなくなってしまうんだけどね⋯⋯」


 無才という苗字なのに、才能しかない僕は実に皮肉が効いているのだろう。しかも、ただの才能じゃない。――圧倒的な他を寄せ付けない才能がある。だからこそなにもしない。しなくても勝てるから⋯⋯と毎日のように思いながら。


 僕を見つめる彼女の目は、僕の苦悩についてなにも出来ない自分への自責の念か、純粋に悲しみなのかわからないが、それに近いものが感じとれる。別に君がそんなに気にすることもないと思うんだけど、それが彼女なのだろう。


「⋯⋯私は、あの助けてもらったときから、この学園で一番近くで咲哉君のことを見てきたつもりです。⋯⋯それでもあなたについてわかったのは少しだけ。――でもこの学園の誰よりも咲哉君を知っています。だから悔しいです。勝てないからって咲哉君のことを悪くいう人達がいることが。⋯⋯こんなに優しい人なのに――」


「――?」


 話ながらこちらに歩いてきた彼女は僕の正面から、包み込むように抱きしめてきた。突然のことに⋯⋯僕はどうしたらいいのかわからなかった。でもなにか返答しなければならない。


「⋯⋯琴音さん、僕は大丈夫だ――」


「――無理して! ⋯⋯大丈夫な振りしないでください⋯⋯」


「べつに僕は無理なんかしてない――」


「――嘘言わないでください!!」


「⋯⋯」


 琴音さんは僕の苦悩に⋯⋯気付いていたんだね。⋯⋯敵わないなぁ。僕の壁なんて既に攻略されていたんだ。――ずっと前から。僕のことを僕の思ってる以上にいつの間にか理解されていたんだね。


「あなたの悲しみを、苦悩を、近くで見てきた私だからわかります。これ以上、そんなあなたを見ていることだけなんて――出来ません! 私は、咲哉君のことが⋯⋯大切で大好きになってしまっているんですから!! 私がそばであなたを支えます! わたしと交際してもらえませんか?」


「――!?」


 突然の告白に僕は驚くしかなかった。琴音さんが僕の近くにいたのは、助けたことへの恩返しで、いつか僕の前からいなくなると思っていた。――でも、それは違ったようだ。かつて僕のことをここまで想ってくれた人がいただろうか。両親ですら、僕がなにもしてないのに負けたことがないことを多少とも気味悪がっている⋯⋯。ここを逃したら僕はこの人以上に素敵な人に出会えないだろう。――でも良いのだろうか。僕と一緒にいて幸せになれるのだろうか?――


「今、僕と一緒で幸せになれるのかって思いませんでした?」


「⋯⋯」


「――なれますよ。むしろ私が幸せにしますから!」


 まったく、そこまで言われたら思ってしまうじゃないか――なにもしてない僕でも幸せになりたいと⋯⋯。眩しいなぁ、琴音さんは。まるで闇夜に一つの光が差したかのようだよ。


「⋯⋯ありがとう、嬉しいよ。こちらこそよろしくお願いします! 琴音さん!」


「⋯⋯本当ですか? 嬉しいです!! これからは琴音って呼び捨てで呼んでくださいね? 私も咲哉と呼ばさせてもらいます」


「⋯⋯わかったよ。⋯⋯琴音」


「はい! あと浮気は許しませんからね? いつか咲哉の良いとこに気付く人が、私以外にも現れます。だから⋯⋯私、それだけが不安で――」


「大丈夫だよ? 僕の心を救ってくれたのは琴音だけだからね」


「⋯⋯ありがとうございます」


 こうして僕たちは付き合うこととなった。これから先何があろうとも、二人で乗り越えていけると――僕は信じてる。なんせ琴音という最愛の彼女が一緒に居てくれるんだから――




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