過疎ゲーなんて言わせない!
ゲートオブファンタジアというネットゲームがある。
昨今珍しい国産の、一応VRMMO。
なんで一応かっていうと、このゲームは俯瞰モード(昔ながらの上空からの視点固定のゲームモード)と没入モードの切り替えができて…うん、まあだいたいの人が俯瞰モードでプレイしてるからね…。
だって、しかたないじゃない。視点が高い方が全体を見渡しやすい。
ソロはともかくPTだと効率も考えなきゃだからね、晒されるのは嫌だ。
効率考えないなら1も2もなく没入だけど。
だってキャラが可愛い!四頭身のちびキャラ達が絵本のような世界を冒険するのだ、これぞファンタジーって感じ。それをキャラ視点でプレイできるんだから、本当になんで過疎っているのか…。
「そりゃOβのメンテ地獄からの見切り発車のせいでしょ」
「チュートリアルが不親切なせいじゃないかな?実装されたのだってサービス始まって一年後でしたし」
「いやー、最初に鞄やキャラ枠が月額だったのがいけなかったんだろ」
「いやいや─」
「それもあるけど、やっぱり一番は─」
…うん、色々とあったね…。
白熱するギルドの仲間達のやり取りを、録画していたドラマを倍速で見ながら、眼で追う。音声は切ってる、テレビと音が混じるからね。俯瞰で書いても読み上げてくれるし、没入で話してもログに出るし本当に便利。完全没入型はこういうのできない…いやできるのもあるか。
あ、採取終わった。
仲間たちのやり取りはそのままにタブを切り替えて採取用のキャラを操作。サマードレスに編み上げサンダルの可愛いポニテ少女。とても没入ではこんな格好できない。だって採取地、山奥だもの。
このゲームは一度に5キャラまで動かせる。多窓とかじゃなくて窓一つで5キャラだ。一人PTも公式でサポートしてくれている優れもの。といってもプレイヤーは一人なわけだから他4キャラはだいたい採取放置─手動のほうが効率いいけどオートでもできる─するか、露店放置するか、狩りのお供に連れて行くか、傭兵登録して放置するか。
私は1キャラはギルドのたまり場に置いて、4キャラを採取放置─採掘や伐採でもこういう─している。いやー、なんかLv上げ行く気起きなくて。その前にスキル上げか。
そんな事考えながら、採取キャラを街に戻して銀行に取得物を放り込み、再び採取場へ。これを四回。一人『魔除け』を使い忘れて強制転送させられてたけど。
まあ、予定の資材は集まりそうなんで問題ない。明日は二次生産に勤しまないと。明後日はフリマだし。
一通り動かし終えてメインキャラに操作を戻す。たまり場のメンバーは半分くらいになってた。とりあえずスクロールしてログを確認しよう。…あ、裏で作業してたのバレた。
「自分で話題振っといて途中でいなくなるなw」
そういうギルマスに謝りつつログチェック。発言があったのでスクロールし直さないといけない。
ログによると他の人は他ゲーに行ったらしい、イベントがあるそうな。あとは18禁のVRゲームに行った人もいる。欲求不満なんだろう、このゲームは全年齢対象の健全なゲームだからね(没入は12禁。これは知ってのとおりVR自体への規制)。
私も含め何人か誘われてたけど、断られて一人で行ったっぽい。あのゲームはリアルさが売りっていうけど、フィードバックがどうとかでキャラ弄れないから、性別から顔からスリーサイズまで全部ばれるんだよ…そういう目的以外でやる人いないでしょ、アレ。てか体型スキャンとか気持ち悪すぎる。
なお、この時に裏で作業してたのがばれた模様。おのれー。
…しかしどうしよう。ドラマも見終わってしまった。寝るか。
「皆暇なら、サブキャラのレベル上げ手伝ってくんね?」
「いいですよ。眠くなったら放置になりますけど」
ギルマスは狩りの意欲があるらしい、立派だ。明々後日にはデュエル大会があるからそれでかもしれない。 他に残っていたメンバー三人も同意して計5人、PTは5人までなのでちょうど。
まあ、五人だったから誘ったんだろうけどね。マスターもいっぱいキャラあるからレベリングには困んないだろうし。
「キャラこれでいいですか?」
私の今のキャラは一応ヒーラー。なんで一応かっていうと、このゲームは職業によるスキル取得制限とかないので(というか職業自体ない)。
その分このゲームではスキル容量っていうある。このキャラはレベル70なんで8*8マス。そこにいろんな形をしたスキルをパズルのようにはめ込んで行く。もちろん強いスキルは大きくて変な形をしていることが多い。スキルは各10Lvまで上げられて、街でなら付け外し可能なんだけど、一つだけ設定できる得意スキルは15Lvまで上げられて…外すと10Lvに下がる。付け直しても10Lvのまま。実質これで役割が決まるとも言える。
「もうLvキャップかかってるじゃないか、いいのか?」
「お茶会のスキルがなかなか上がんないですよね…」
「なる」
このキャラの得意スキルは『忙しないお茶会』。戦闘後PT全員のHPとMPがスキルLv*1%回復するパッシブスキル。11以降は2%ずつ上がり最終的に20%になる…らしい。私はまだ12レベル。
そしてこの子は他に『応急手当』とか『魔法の水筒』とかもっている戦闘後回復特化キャラ。お茶会さえ15Lvになれば自分は戦闘後状態異常や戦闘不能を含め全回復、PTメンバーも戦闘不能や状態異常に加えHPMPも50%回復するという…ネタキャラ。枠が足りないからね!
狩りに出る前には必ずしよう、スキルをチェック。全体回復のフィールドヒーリング(フィールドフルヒーリングは枠が足りない)、単体無属性魔法のマジックアロー(範囲魔法?枠が足りない)、戦闘中の状態異常や戦闘不能回復はなし(枠が足りない)。あとは魔法使いの必需品『詠唱阻害耐性』と自称神官なら持ってないとかありえないといわれる『回復効果上昇』が強弱二つ。空いている枠の各種バッドステータス耐性で埋めて終わり。
そう、実は私自身は状態異常は全部無効だったりする。これもネタだ。私は戦技系のスキルがないので、『威圧耐性』なんていらない。『HP強化・弱』か『MP強化・弱』あたりの方がいい。
キャラはネタに走りプレイは全力、それが私のスタンス(いや野良PTには普通のキャラで参加するけど。晒し怖い)。
まあこんな半端な子でもお弁当いらずなんで…。
他のメンバーも用意が終わったらしいのでPTを組む。引率は言いだしっぺのマスター。自分で走んなくても狩場引っ張ってもらえるので楽…と思ったらメンバーの一人がテレポート持ちだった。
狩場まで一瞬で辿りついたので、早々に狩り開始。手分けして探す?めんどくさいです。テレポートな彼は『誘引』も持っていました。敵のほうから勝手に寄ってきます。
私は持ってない。もちろん、枠が足りないから。それに戦闘始まっても誘引持ちは狙われやすいから、純神官っぽい何かな私には向かない。回復と壁を兼ねるプリタンクじゃないんで。
回避盾なテレポートの彼がひきつけてる間に剣士なマスター(のサブキャラ)と斧二刀の大男(でもやっぱり四頭身)と魔法使いな少女が攻撃。私もマジックアローで援護。カスダメだけどね!『魔法ダメージ上昇』なんてないからね!それに、このゲームの無属性は全属性に弱いからね!その分吸収持ちに吸収される事もないけど。おかげで炎の魔術師プレイとかするなら、炎無効や炎吸収持ちにも攻撃が通る『真なる火』は必須。
そんなもの取る枠のない私はひたすらマジックアロー。フィールドヒーリングは置いてきても良かったかもしれない。回避盾な彼が強すぎる。そして当たったら即死…潔すぎる。倒れても彼が尊い犠牲になっている間に戦闘終了。そして戦闘不能は戦闘終了と同時に私のスキルで回復。彼には経験値が入らないけど、私と同じでスキル上げ目的というし問題ない。
そしてふと思った。マジックアロー砲台しかしないなら俯瞰じゃなく没入でいいんじゃない?
「いいんじゃね?俺も没入だし」
「私も」
回避盾な彼は全手動回避だったらしい。斧二刀のバーサーカースタイルで暴れていた彼も。前衛で没入とかFPS勢か。私は魔法で精一杯です…魔法は発動さえすれば必中だからね!
しばらくオート戦闘するためにタブを切り替える。採取が一時的に止まるけど仕方ない。オートだと持っているスキルと通常攻撃からランダムだけど、私のキャラは武器を持たず『素手修練』もないので通常攻撃しない。カスダメのマジックアローか、過剰ヒールになるフィールドヒーリングだけ。ヒールへイトも戦闘短いから気にならないし。
しかし元より役立たずとはいえ、あんまりオートでいるのもアレなので。手早く寝る支度を済ませ、引き出しからヘッドギアを取り出して装着しベッドへダイブ。寝落ちする準備は万全。
安全な場所に横になってってマニュアルに書いてあるからね、当然ベッドになるよね。
いや私、このゲームのマニュアル1回も読んでないけど。
ともかくもヘッドギアのスイッチを入れて、私はゲームの世界へ旅立った。
「ただいま~ってスカートみじか!」
モードを切り替えてサマードレスのポニテ少女からメイドな犬耳少女に切り替えた私は思わず叫んでしまった。やばいこれはやばい。そして尻尾がやばい、後ろに立たれるとやばい。
「おかえり。そのアバターはなぁ。生足いいね、眼福眼福」
マスターはロリコンらしい、だって四頭身だもの
そしてマスターもいつのまにか没入にしてたらしい。俯瞰じゃニーハイソックスもあって足そんな見えないはずだし。
「このアバターでモード切り替えた事なかったんだよね」
どうしよう。他のアバター持ってきてないし。アバター解除するか。そうすれば普通に今装備してる装備品のグラに…何装備してたっけ。ウィンドウを開いて確認する…これは…余計酷くなる。
「顔真っ赤な犬耳少女メイドとか萌える~」
魔法少女が抱きついてきた。彼女も没入に切り替えたらしい。皆寝落ちする気満々っぽい。
衣装は諦め、興奮した様子の魔法少女を引き離して狩り再開。大丈夫、私より後ろには誰も居ない。
そして寄ってくる敵にひたすらマジックアロー。MP消費とか考えない。もとから消費少ないし、戦闘終わったら回復するし。
他のメンバーへの回復量も足りてるみたいでお弁当を食べてる様子もない。敵倒した時にMP回復するスキルもあるから、そういうの積んでるのかもしれないけど。
「キミがボク達のお弁当だよ!」
特に積んでなかったらしい。というかその言い回しはどうだろう。同性だからいいか。中身?私は気にしないんで。
「すまん、1体抜けた」
思いっきり油断してて、デフォルメされたトカゲらしきものに殴られた。油断してなくても避けられないけどね。
おかげで、ぶるんぶるんきた。そう全年齢対象(VR機能は12禁)を謳うこのゲームには痛覚機能はない。その変わりダメージの大きさで振動がする。これを利用して、防御を固めた上で雑魚敵にわざと囲まれてひたすら殴らせるとかいうことをする人もいるらしい。
あと触覚もアバウト。バストサイズを最大化した女の子に抱きしめられても胸の感触とかないよ。一部にはそれが不評らしいけど。このスケベどもめ。
暫くすると魔法少女の動きが変わった。寝落ちしたらしい。単体に全体魔法を使ったり、HP減ってないのに単体回復魔法使ったりする。効率は落ちるけどまだ平気。
次はバーサーカー。こっちは通常攻撃と単体強攻撃のみ。傭兵登録するときにも推奨される感じ。手動より効率落ちるけど問題ない。
それから30分ほど。遂にマスターが落ちた。回避盾な彼と相談して今日はお開き。
『PT解散』を提案して彼が同意、3分間反対がなかったので全員最寄の街に強制転移の後解散。
寝落ちした3人をそこに放置して溜まり場に戻ってくる。ギルドルームとかないからね、このゲーム。
「それじゃまた明日…もう今日か」
「そうだね。ああフリマに向けて盾作らないと」
10個作ったとして売り物になるのが半分あったらいい方って所なんだよね、盾。
「そういえば盾屋なんだっけ」
「盾売ってる人少ないから自分で、ね…」
というか盾作成を得意スキルにしてる人は見たことない。片手間にしてる人なら見るけど。
まあ露店しないだけで、自分やギルド用に持ってる人はいると思う。なにせ拡張に課金が必要とはいえ1垢で20キャラまで作れるんだから。
「いいのできたら買いたいんで、取っといてもらえる?」
「盾使うキャラいたんだ。悪いけど取り置きはしてないんだよね…面倒くさくて」
「あーそっか。それじゃ仕方な─」
「今あるもの見せるよ、ちょっと待って」
そういってタブを切り替え採取キャラの一人を職人キャラに交代、厳しい髭のお爺さん。所属拠点が溜まり場のある所と同じだからそこへダッシュ。
「おまたせ、どれにする?」
溜まり場に戻ると、どこかで見たことある騎士っぽい人がうちの犬メイドの前にいた。回避盾な彼の別キャラだろう。
「おかえり。見たことあるお爺さんが」
向こうも見覚えがあったらしい。
彼の御眼鏡に適ったものを二つ売り、このキャラはログアウト。タブを戻す
「それじゃ私は落ちるね、おやすみー」
「おやすみ」
見慣れない彼に言われると何か不思議な気分。
そういえば没入でプレイするのもひさしぶりだった気がする。
明日はソロ狩りでもいこうかな、いや自キャラ引き連れていくからソロじゃないか。
というかもう今日か。いや盾作らないと。…まあ寝よう
私はゲームを終了させるとヘッドギアを外し起き上がるとパソコンの電源を落とした。
「ふぁ~あ、今日はいい夢見られるといいな」
ベッドに戻ると直ぐに睡魔がやってくる…ああトイレいってない…夜中目が覚め…もう眠いから目が覚めたら考えよう。
瞼の重みに負け、私は夢の世界へ旅立った。
それからも過疎だからといって何をするでもなく、レベル上げに行ったり、スキル上げに行ったり、露店をしたり、デュエル大会に参加してボコボコにされたり他ゲーに浮気してみたり。
ギルドメンバーは減ったり復帰したりだけど、だんだんと減って行き。
二年後、ゲートオブファンタジアは過疎ゲーと言われることはなくなった。
サービス終了を迎えたから。
皆で移住しようかという話はあった。
私は一時他のゲームに手を出したりもしたけど結局ここに戻ってきた。最後まで残った仲間たちもそれは同じで、いくつものギルドが解散していく中で随分人が残った方だと思う。偏にマスターの人徳だろう。そのマスターはこれを期にネットゲームを引退するという。
「皆で移住」はしないことになった。マスターには言わない。絶対気にするからね。ただそうしないことで、このゲームでの出来事を大事な思い出にしたいという私達の我侭だ。かっこつけすぎ?いいじゃない、だってゲームだもの。
そして迎えた最終日。ゲームに残っていたPC達が集まって行われたカウントダウン。
どこか見覚えがある人ばかり。四頭身な彼らは間近で見てもやっぱり可愛い。
「またどこかで!」
そういって私たちは笑顔で別れた。
私は今もネットゲームを続けている。偶然再会した仲間もいるし、当然のように会わない人もいる。
そしてあれ以来素晴らしいと思えるゲームにも出会えていない。
でもいつかは出会えるって信じてる。だって世の中にはゲームはいっぱいあって、更には日々作られ続けている。
だから、いつかきっとそう思えるゲームに出会える。私の物語が続く限り。
かっこつけすぎ?いいじゃない、だって私の人生だもの。
ありがとうございました。
一応VRMMOですけど、他のそれらのようにヴァーチャルしてないので、その他で投稿しています。