真実を知る少女
オランデーズ国に来た俺たちは耐火布が売ってあるという防具屋へと向かっていた。広い国ではあるが地図看板を見れば一目瞭然だ。
「ここをこう行って……よし! そんなに遠くないな」
「一国の中ですからね」
「とは言っても結構裏道を通るようだからメモを……ん?」
「どったのエビセン?」
「まずい……金なくしたぁあああ!!」
最悪だ。あれだけの大金を預かっておきながらなくしたとあればいくら温厚な熱い犬族とはいえ魂持ってかれる! 根本は犬だし!
「それならあの子が持っていきましたわよ?」
「そういうのは早く言おうな? 追いかけるぞ!」
新入りのチユキには厳しく言えず、チユキの指差す子供を追うこととなった。しかしこの方向は確か……商店街か!?
「しまった、こりゃすごい人混みだな」
「もはやどこに行ったか分からないですよ」
「でも行くしかねぇだろ!」
平日の昼間だというのにこの人だかり、メインストリートに隣接する商店街だけあって隙間もないほど人が密集している。
「くそっ、進めねぇ……ん? あれか? 曲がったか」
そこそこ背丈のある俺はさっき見た背中を目でとらえた。一つ裏道に入ったらしい。
「だぁ! ふぅ、あいつらは……後だ! とりあえずあの子供を……」
「どうも、お兄さん」
現れたのはボーイッシュな格好をした小さめの少女、さっき見た格好と同じだ。奥は行き止まりって訳じゃないのになぜ逃げない?いや、逃げられても困るが……
「お前金取っただろ?」
「これは返すよ、うちは裕福だしね」
「お、おう」
あっさり返されたためにかえって拍子抜けしてしまった。目的は金じゃなかったということか?
「ちょっとお兄さんとお話ししたいなぁと思ってね」
「どういうことだ?」
「お兄さん、こっちの世界の人じゃないよね?」
「!?」
それを指摘されたのは初めてだ。最初に行った相談所でもその話は出なかったし、この世界に来て三年強でその事を口にしたやつはいなかった。
「どうなの?」
「もしそうだとしてどうするんだ?」
「お兄さんには……ここで元の世界に帰ってもらいたいんだ」
「なにっ!?」
急な話に頭がついていかない。要するに俺は帰れるのか?
「またなんでそんなことを?」
「あんまり外の世界の人がこの世界に干渉しちゃうのはよくなくてね、そういう人を元の世界に戻してあげるのが僕たち……になるのかな、うん、僕たちのの役目なんだ」
僕っ娘かぁ……いやいやそれより僕「たち」ってことはどっかの組織のやつか、もしくはチームに所属してるってことか。単独じゃないようだな。
「それに、元の世界に帰りたいでしょ?」
帰ったら俺はまた……いや、なんにせよまだ帰るわけには行かない!
「残念だがまだ帰れない。無理矢理って言うなら喧嘩することになるな」
「ふんっ、事を荒立てるわけにはいかないんでね、もうちょっとだけ野放しにしといてあげる」
そう言うと少女は奥の暗闇へと消えていった。また会うことになりそうな気がする。
「エビスさん! ここでしたか」
「あぁ、無事取り返した! さっさと行くぞ!」
「あっさり取り戻せたんだ~」
「まぁな」
再び店へと向かいながら考えた。俺がこの世界の住人じゃないことを知ったらテトラや生徒たち、SGFメンバーはどうするだろうかと。
◆◆◆
「すいませーん!」
「へいらっしゃい! 何をご所望だい?」
色黒マッチョの声が店内に響く。何か盗もうもんならひとたまりもないだろうな。
「耐火布ってありますか?」
俺はガチムチが苦手なので買付はテトラに任せた。その間、俺は耳をそばだてつつ店内を物色する。
「珍しいね。あんまり売れなくて在庫余ってるから安くしといてあげるよ、かわいい姉ちゃんのために! ちょっと待ってな!」
「ありがとうございます! 聞きましたかエビスさん!?」
「悪い、聞き逃した」
「ちゃんと聞いといてくださいよ! かわいいって言われましたよ私!」
「……あのガチムチ言い間違えたんじゃねーの?」
「そんなわけないじゃないですか!」
絶対そんなことはないとは言いきれないと思うがなぁ。
「へいお待ち! これがうちにあるだけ全部だ!」
出てきたのはよくあるサンドバッグのような布の塊10巻程、一つ抱えるのも大変そうだ。
「予算はいくらだい?」
「えーっと……エビスさん!」
「あっ、これで」
さっき取り返した金をそのままカウンターに出した。けっこうな大金だが、どれぐらい買えるんだ?
「ほほぅ、んじゃ全部持って行きな! それと……お釣りがこれだ!毎度あり!」
予想以上に安かったらしく、袋のなかにはまだ半分くらいの金が残っている。
「それにしてもどうやって持って帰りましょうか?」
「それなら問題ない、ちょっと待てよ……」
この前の会合に出席していたSGFメンバーのアドレスだけが入った携帯であいつに連絡する。
「おい、ちょっと運んでほしいもんがあるんだが」
『なぜお前の命令を聞かねばならんのだ!』
「あぁん? じゃあしょーがねーなぁ、今テトラもいるんだけどなー」
『なにっ!? ちょっと代わってくれ!』
「じゃあまず来いよ、場所はオランデーズ国の防具屋! 秒でな」
そう言い残して切ってやった。恐らく秒で来るには空間転移しかないはずだ。
「何で私の名前が出るんですか?」
「理由は特にない! ……っと、来たな」
「待たせたな! お久しぶりですテトラさん!」
「この前のおっちゃんじゃないっすか」
意気揚々と現れたオオグロは紳士的な態度で挨拶をする。ライチよ、おっちゃん程の年じゃないぞ。
「エビスさん! この人誰ですか?」
「知らんな」
「呼んだんですよね?」
同級生のオオグロを覚えていなかったらしいテトラは小声で訪ねてくる。確かに学生時代に華やかしい成績を持っていたわけでもなければ大事を起こしたわけでもない。
「それよりこれ全部熱い犬の村に送ってくれ」
「はぁ?」
「お願いします!」
「喜んで! エビス! さっさと外に出せ!」
「ライチ、手伝えよ」
鶴の一声でまんまと引っかかりやがった。簡単な男で助かるところであるが、テトラにいいとこ見せたいからといって命令される筋合いはない。あ、俺が呼んだわけだし筋合いはあるか。
「これで全部か? ……はっ! ほら、ここに放り込め」
俺とライチで渦の中に布の塊を投げ込んだ。多分村に耐火布を送ることができているのだろう。
「俺たちも帰るか! ここに入ればいいんだよな?」
「あぁ、その前にテトラさん! 連絡先を……」
「えーっと……お疲れ!」
そうしてテトラは一番乗りで渦の中に入ってしまった。これは心ポッキリいかれたんじゃないか?
「俺はまだ諦めん! 早く入れ!」
半泣きのオオグロを放置し、目的を達成して村に戻ってきた。ワープした先は丁度村長の家の前で、狙ってかは分からないが気が利いている。
「戻りましたー」
「よくぞあれだけの布を持って帰ってくれた」
「当然のことですよ」
誰のおかげかは置いといて任務は無事終了した。その後持って帰れるだけの骨と事前の話にはなかった耐火布の一部を貰って俺たちはベシャメル王国への帰路へと着いたのだった……
どうも!ロカクです!
水曜日は飛ばしてしまいましたねー、まぁGWでしたし多目に見てくださいな。水曜は不定期って言ってますし!
それはさておきいつも閲覧、ブクマありがとうございます!
ってなわけで次回もよろしくお願いします!グッバイ!