8,黒い世界と公園と白
またもやひとりの私。
ただ夜が好きなだけで、外に出ている今は、人々が眠りの支度をする時間。
私は一人、公園のブランコに座って星を見ていた。
この公園は不思議だ。見た目が小さい割に広く、遊具もたくさんある。昼は子供、夜は大人でにぎわう公園。
別名、柊の公園。
その名の通り、公園の周囲には柊の木が植えられている。
「空は色を変え、私の心模様は変わらずに……」
ある詩人の書いたものを、ブランコの上でつぶやく。
周りにはだれもいない。今日はたまたま誰もいないのだろう。いつもは数人の先客がいる。
「うつりゆく世界が、私を置いて行って……」
はるか遠くに夢を見る。
私は自嘲気味に笑って、立ち上がる。
錆びた金属同士のこすれる音がして、風があたりの木々を揺らした。
そして、深く息を吸って、吐いた。
――――世界は私がいてもいなくても関係ないんだね。
その言葉を心の内に秘めたまま、私は公園の出口に歩を進める。
「帽子屋はあの子供が読める? ちょっと空っぽなのよ」
「ああ。“ちゃんとした人間”なんだから、そんなに諦めることはないんだがね、彼女は」
聞こえてきた会話は、なぜか少し異質だった。
例えるなら、そう――自分がピエロと話しているような、そんな感じ。
それは私の後ろから聞こえた。
それと同時に、どこかで聞いたことのある声だと感じる。
振り返ると、いつの間にかブランコに座っている二人の男女。
「おや、あまり特定できる言い方はしないほうがよかったようだよ、アリス」
男のほうが言った。
黒いシルクハットをかぶっている青い瞳の少年は、先ほど帽子屋と呼ばれていた。
女のほうは、にっこり笑って、私の目を見る。この間ピエロの家に来た、アリスだった。
「久し振り、というべきかな。アレは元気かい?」
アリスは今日も、白かった。
「行ったほうがいいわ、ここにいると確実に死ぬからね」
「ああ、君はまだだ」
彼らが言って、私は息を吐いた。
「……まだって、何が」
呟いた言葉は夜の闇に溶け、空気を震わせた。
異様なまでに静まり返った公園。
風が木々を揺らすことはなく、ただ静寂だけがある。
「さあ……行け」
「そしてあたしたちの目の前から消えて頂戴」
数秒、何にも焦点が合わなくなった。
そして、気がつけば家の前に立っていた。