6,一人が独りの心を読み上げる
私は教室に入る。
騒がしかった室内は、一瞬にして静まり返った。
「来たよ、アイツ」
私の近くで、彼女らは私を指差し笑う。
「今日も地味だなぁ、あいつって」
男たちも笑う。
六年二組のクラス中が、ある種の笑いに包まれた。
「バカみたい。ひとりで何もできないくせに」
呟いて、私はクラスの真ん中近くにある自分の机に向かった。
地味だ地味だと言われても、私には服を買いに行く余裕はない。しかし、彼らをうらやましく思うことも無い。
別にいいんだ、と言い聞かせる。
「はいー、席についてくださいー」
担任の先生が入ってきて、この雰囲気は一瞬にして消える。
先生は、新人だった。時々ドジもするし、何より雰囲気が普通のクラスと違うことに気付かない。
そして、先生は言うのだった。
「このクラスの団結力はすごいですね。だから、来月の校内合唱コンテストも、みんなで頑張っていきましょう!」
「やあ、美子」
私はピエロの家に行った。とくに用事などはなかったが、誰かのそばにいないと、自分が抑えられなくなる気がしてたまらなかった。
そして、この間の部屋で今日の話を彼にすると、ピエロは言ったのだった。
「その先生さんは、この先苦労するよ。たとえば、車に撥ねられて傘が足に刺さるとか」
彼は口角を引き上げ、私の反応を楽しむように言った。数秒様子を見ると、どうやら冗談を言ったようだ。
「たまにぞっとするようなこと言うよね、ピエロは」
「そう、そんなに怖かったかな」
「うん」
彼は難しそうな表情をして、部屋を出て、ドアを閉めて行く。
「お茶を入れてくるよ」
そして、室内で私はひとりになった。
ひとり、というのは私の嫌いな言葉だ。
表記の違いで、数をあらわすだけであったり、孤独をあらわすものであったり。ややこしいものは嫌いだ。
もちろん、この言葉は私を指し示すのにも楽な言葉だ。
学校の職員室に入っていっても、「あの子誰?」「あぁ、六の二の、いつもひとりでいる子だよ」という会話が繰り広げられていたりする。
けれど、それはもう慣れてしまったことだから、べつにいいんだ。
言い聞かせて、自己暗示をかけている私は、滑稽だ。
自称気味に笑っていると、カチャリとドアが開く音がした。
「待たせてしまったね」
ピエロは一瞬あたりを見回して、目を細めて、それから私の前にカップを置いた。