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ピエロ  作者: ゆぽ
5/20

5,記号化された文字列を読み上げる背後で

「やあ、美子」

 ふと、小説を読むのに熱中していた私の耳が、ピエロの声を拾った。

「ん?」

 一時的に読むのを止め、右へ左へ、首を動かす。だが、誰もいない。

 その時には、私は自分以外に動くものを見つけることが出来なかった。

「……空耳か」

 軽く、自分を納得させるために呟く。そして私はまた、画面の中の文字列に集中した。


「……まったく」

 空耳などではなく、ピエロの声が間近から聞こえたとき、私は勢いよく真後ろを振り返った。

「おお、気付いた」

「なんでいるの!?」

 即座に思いついた疑問を、驚きの言葉より先に投げつける。

 すると彼は少し悩んで、「家にいるはずなのに、荷物受け取ってくれないから?」と、疑問符付きで返してきた。

「荷物って……宅配のバイトでもしてるの?」

「うん」

「で、どうやって入ってきたの」

「そこの窓が開いてたから」

 彼はそう言って、カーテンのかかった、庭に続く窓を指さす。

 その窓の鍵は、かけっぱなしにしているつもりだ。カーテンを閉めた時に、しっかりと閉まっていたのは、思い違いだったのだろうか、それとも。

「……それで、美子。“ミナガイユリエ”からの荷物、中身はたぶん毒入りストロベリーパイ」

 ピエロは口の端を歪め、手持ちの荷物を私に差し出した。

 ピザの箱、というべきだろうか。ピザの箱を2つほど重ねた厚みはある、大きめの箱だった。

「毒入りストロベリーパイが入ってるってわかってるなら、届けなければいいじゃない」

 私は立ち上がり、荷物を突き返す。

 するとピエロはふっと笑い、また荷物を渡してくる。

「どうぞ、これは美子のもの」

 もう諦めるしかなかった。

 私は荒く荷物を受け取ると、ダイニングテーブルまで運ぶ。そして、音がするほど強く置き、ピエロを見る。

「では、これで。外は黒服の白がうろついてるからね、出てはならないよ」 一言、彼は釘を刺して玄関から去って行った。


 その後、中身はゴミ袋に入った。

 彼が言ったように、中身はストロベリーパイだった。毒入りかまでは調べられなかったが、送り主の名前“ミナガイユリエ”は確かに私に何度も危害を加えてきた、社長令嬢の名前だった。


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