20,レクイエムなど誰が唄おう
翌日学校に行くと、大騒ぎだった。
やはりというか、なんというか。昨日の出来事が原因で。
その場にいたのを目撃されていた私は、案の定職員室に呼び出された。そこから隣の応接室へ。入るとソファに警官がいるのがわかった。まだ若い。三十代だろうか。その向かいに私は座った。教頭も左に座る。
タイミングを見計らって、教頭が言う。
「柚月さん、昨日見たことを警察の人に話してください」
担任は死んだらしい。あれだけの血が出ていれば、至極当たり前のことなのだけれど、私は彼女が死んだという自覚がなかった。
「さ、話してもらえるかい?」
笑っていない。顔は笑っているけれど雰囲気や、心など。けれど、笑っていない警官に話をしなければ。
「……高校生の藤野蓮が私をあそこまで連れて行ったんです。そして、WALTZの店に入ったとたんに外で事故が起きた。それから、焼かれた肉塊が人を瓶とカッターで切ったり刺したりして。で、私の後ろで殺し合いが始まったらしいですね。見てませんでしたが」
ふんふんと訊いていた警官が、私が間をおくと、手帳に向けていた顔を上げる。
「あとは我々が知っているのと同じですか」
「はい」
子ども扱いされているのかいないのか。警官は子供をあやすときのような、困ったような顔をしていた。
「では、その藤野蓮という男はどこに?」
「高校生だと言ったと思うんですが。今は学校に行ってる時間じゃないんですか?」
私がそう言うと警官はとても困ったような顔をした。息を呑んで、彼は私に言った。
「その藤野は、一ヶ月ほど前から学校には行っていないみたいなんだよ」
先ほど連絡してもいなかったと、警官は続ける。
「連絡手段を彼は持たないものだから、困ったもんです」
「へぇ、アイツ……シメてやろう」
私は笑って、警官の続きの言葉を待つ。
「では、同僚の方のお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい」
教頭に促されて応接室を職員室を経由しない出口から出る。いちいち職員室へ入るなど面倒だ。
パタパタと廊下を歩き、階段を上って六年二組へ入ると、今日は騒々しいままだった。けれども、視線は集中する。
「アイツが先生を見殺しにしたんだ」
「アイツが化け物を呼んだんだ」
どうでもいい話だが、そのとき私の心はとても穏やかだった。