表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピエロ  作者: ゆぽ
2/20

2,美しい子供の指は白と黒を叩く

 ピエロは私を奥まで連れていった。


 かちゃり、と扉が開く。

「ここで待って」

 彼はそう言い、私を置いて行く。

 やはり、ここは彼のためにある場所なのだと、改めて実感する。


 部屋は外からの日光が入って来るので、明るい。部屋の家具は全体的に暗い色のものが多く、実際は暗く感じるが、慣れてしまえばたいして変わりない。

 そして、この部屋の中央にはテーブルがある。

 明るい色の木に、深い紅のテーブルクロスがかかっていた。

 ほかに、ピアノも置いてあり、油絵の画材も置いてあった。本棚には、どこかの国の言語で書かれた本もある。


 そして私は、いつものようにピアノの鍵盤に触れる。

 ドミソの和音を鳴らす。

 そして弾けそうな曲を思い出しながら、私は指を動かす。


 ショパンの幻想即興曲なんて弾きたかったわけじゃないけれど。

 私は頭に浮かんだそれを弾いていた。



 曲が終わって鍵盤から指をはなすと、パチパチという一人分の拍手があった。ピエロだ。


「美子はやっぱり上手いねぇ」

 彼は口元だけに薄笑いを浮かべ、一定のテンポで手を叩く。

「さぁ、紅茶が入ったよ」

 ピエロはテーブルにカップを置き、ついで、といった感じでイチゴのショートケーキも並べる。

 そして彼は椅子に座ってカップを口に付ける。

「早っ」

 小さくつぶやくと、目を閉じていた彼は朱色の右目を開け、私を見る。

「今日はちょっと失敗したから、毒味」

 毒なんて入れた覚えがないのなら入っていないだろうに、と私は心の中で突っ込みを入れる。

 そして、私もまた、ピエロの座る向かい側の椅子に座る。



 それから、私とピエロは他愛のない話を繰り返した。

 テレビで面白い漫才をやっていたとか、面白いドラマをしていたとか。

 学校では誰とも話さないものだから、話が尽きることはなかった。



「そろそろ帰ったほうがいい」

 彼にそう言われて見ると、空は真っ赤に染まっていた。

 時計を見ると、六時前だった。

「闇は、美子を奪いに来るから、早く」

 本当は帰りたくなどなかったけれど、私は帰ることにした。ピエロの目が細められ、声のトーンが下がったのがわかったからだ。

「じゃあ、帰るね。また」

「また、ね。美子」


 広い庭を駆け抜けると、そこは寂れた住宅街の、黄昏だ。


「一人は、嫌。けれどもう慣れたの」

 家には両親も、祖父母も、誰もいない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ