18,悪魔が見せる悪夢のような悪戯か
ガラスの向こうで赤の惨劇が繰り返されているであろうと私は予測して、ここは、ショップの店内。
「……あの、何か用ですか……?」
私の手を握り締めた蓮が言った。怯えているようだ。
店員が私に袋を渡した、その時の状態で入口のほうを見ていた。私にはレジのカウンターと、驚愕の表情を浮かべる店員しか見えない。
ただずっと、ゆったりとした三拍子の音楽が流れる。
「……ねぇ」
むっとした声が聞こえる。声の調子からして、私と同じかそれより下か、ぐらいの年齢だろう。
「ねぇ、こっち向いてよ美子ちゃん」
コツコツと質のいい床が鳴る。その音はだんだんと私のほうにつかづいてきて、すぐ近くで泊まった。
私自身で感知できなくなるほど握られた手とは反対の手を持たれた。そして、その手を引かれる。
「ねぇ、この子は私のって知らないの?」
大きな瞳をパッチリと開いて、私の目の前に来た少女は左側に立つ蓮を見上げた。
少し癖のある黒髪に、茶色っぽい瞳。典型的な、私の近くにいる人種だ。
言っていることは、そんな人種の言うことではないが。
「ねぇ、梟――――」
「キャーっ!」
「嫌っ! 来るなっ!」
「――――っ!」
緊迫した店内に、悲鳴が聞こえてきた。
この状況を作り出した本人も、悲鳴に興味を持ったか視線を外へと向ける。
さっきまで私たちの接客をしていた店員も悲鳴を上げた。幸い今この店にいる客は私と蓮と、客なのかは知らないが少女だけ。相手が子供なので、少し気が緩んでいたのだろうか。何人もの泣き声がする。
「美子、やっぱり見ちゃだめだ」
私は皆の視線の先を追って、そして途中で目がふさがれる。
「う、わ……」
けれど一歩遅かった。見てしまったのだ。
瞬間的に記憶された世界は、なんと悲惨なことか。
石畳に広がる赤い血液、倒れる人影、赤い傘。ここまでは先ほどのままだ。
けれど、全身を焼かれたような人――――もはや人とは呼べるのかわからないような“肉の塊”がそこにあった。立っていた。右手に割れたビール瓶を、左手に血まみれのカッターナイフを。
その足元には腹を押さえて苦しんでいる人が何人も。一人か二人は、首を切られて死んでいたかもしれない。
外は混乱。
取り残された店内に、緊張が走る。
「……あーあ、面倒くさい」
少女は言った。心底あきれているようだ。
そして、今更になって自己紹介を始める。
「私は五年の藤道瑠璃。じゃあね、美子ちゃん」
店内の緊張が解ける。私の両目を覆っていた手がどけられる。
あの少女、藤道瑠璃は去っていた。相変わらず外は惨劇だ。