15,燕が我が家に巣を創るその日
「何で入ってくるの?」
私は今家にいる。今日は一人ではなく、二人だ。
そして、久しぶりにリビングのソファに座っていた。机をはさんで向い合せに置かれた白と黒の合皮で張られたソファの黒側に座っていた。この場所に座るのは、ひょっとしたら一年ぶりかもしれない。
白いソファには、先程会った藤乃という男が足を組んで座っている。
そう言えば、星城高校の制服は変わっている。ブレザーで、色は黒。ズボンも黒。ネクタイは赤。伝統校だと聞いているのだが、その制服のデザインは現代風だ。
「いいじゃないか、僕は君のことを気に入ってるんだから」
彼は組んでいた足を解き、薄笑いを浮かべた。ふと、その瞳が奇麗だと思ったのはなぜだろうか。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
部屋は有り余っているが、生活費などはどうなるのか。
こんなことは小学生が考える問題ではないが、美子には考える必要のある問題だ。
さあ、どうする。
「ちなみに、生活費くらいは持ってるから」
この男、読心術でも心得ているのだろうか。
愉快そうに笑う彼を私はひと睨み、そして彼には敵わないと諦める。
「諦めが早いね」
険しく目を細めて、彼は立ちあがった。
「すべて話せれば君は大空へ飛びあがれるのに」
両手を広げて、私を見下ろした。
その彼の目が一瞬だけ、ネクタイと同じ赤に見えたのは気のせいだろうか。
「おやすみー」
間延びした声。
風呂上り、正確にはシャワー上がりの彼は私に一声かけて階段を上がる。
そして私はいつものように外に出る。
今日は遅くなってしまった。
ここからいちばん近い公園は、工事中のようだ。学校に行くときにショベルカーやらなんやらが並んでいた。
―――― 居場所は有る筈だ 嘘を吐いたくらいでは
失われるようなものじゃない
それでも失った 私はなんて愚かだろう
歌を謡って、私は橋の上。
前に見つけた歌。作曲者は私と同じなのだろうか。
精一杯強がっているのに、とても脆い存在が、自分だと、わかっていて。
「あぁ、そういえば」
後ろを車が通り過ぎ、そのあとに思い出す。
「ピエロの所に行ってなかったよ」
好きな時にいつでもおいで、とピエロは言った。
私は帰り道にピエロの家に通った。
あぁ、アリスの一件からか。
彼と会っていない。なぜだろうか、前はあんなにも、懐かしかったのに。