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ピエロ  作者: ゆぽ
14/20

14,太陽映える大空へ舞い上がる燕

 私は毎晩公園に行く。

 最近は、柊の公園に行かなくなった。アリスのいたあの公園には近寄りたくなかった。

 ひゅう、と生暖かい梅雨時の風が通り過ぎる中、私はブランコに座って公園を眺める。


 ここは、広い。

 柊の公園とは対照的に、明らかに“造られた”もの。植わっている木も等間隔に。影を持たない、夜も眩しい公園。

 遊具も、規定に沿って作られた真新しいものばかり。こういうものは古くなるにつれて汚く錆びていくものだ。


「さて……」

 今の時刻は八時二十分。

 そろそろ時間も遅いので、家に帰ることとする。


 ひとりで歩いて、出る時に、この公園の名前を見つけた。

 大きな公園の割に、こじんまりとしたものに彫られていた名称。


 たいようの公園


 ありきたりだとも思った。同じ名前の公園が何千とあるだろう。

 しかし、太陽の日差しが当たっているように明るい公園の中は、その名を冠するにはちょうどいい。


 私はそんなことを考えながら、ゆっくりと歩く。

 何度か交差点で曲がり、広い一本道を見つめる。


 ぽつぽつと歩いて行く。



 昼は忘れて夜を歩こう。

 ああ、月はどこにいるの。

 ひとりは悲しいかい、寂しいかい。

「ねえ君」

 左肩に男の右手。淡く漂う林檎の香り。

「君が、美子」

 少しかすれた低い声。驚きと喜びを含んだ言葉。

 その手を振り払い、振り返ると、この近所にある高校の制服を着た男が立っていた。吸い込まれそうなほど黒い瞳を持った彼は、じっと私を見ていた。

 茶色に染めた髪、三白眼の気のある目、抜けるような白い肌、だらりと下げた両手。さらには両耳につけた銀のピアス。

 私にはこんな知り合いはいないはずだ。遠い親戚であっても、同級生の兄であろうとも。

「……誰?」

 素朴な疑問だった。この人は見たことがない。だから、何者か。すると、薄い唇が左右に引かれ、そして言葉を紡いだ。

「僕は君のもの。君の知らないところにいた、君のための存在」

 滑らかに彼は言う。

 喋り慣れているというように、少し飽きたような色も含まれていた。

 私はそれに少しの苛立ちを感じ、意識的に冷たい声を出して訊ねる。

「だから、何者なの」

 訊くと、彼は笑った。愉快そうだ。

「……仕方ないか」

 彼は呆れたように言って、そして真剣な目で私を見た。

「星城高校二年四組、藤乃蓮(ふじの れん)。これは偽名でもあるけど」

 そして本当に一瞬だけ、蓮とか言う彼の顔つきが変わって、そしてまだ続ける。


「僕のことを正確に表す言葉はない。前に会った人は僕を“(ツバメ)”と呼んだけれどね」


 その晩、彼は私の家にズカズカと入ってきた。


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