14,太陽映える大空へ舞い上がる燕
私は毎晩公園に行く。
最近は、柊の公園に行かなくなった。アリスのいたあの公園には近寄りたくなかった。
ひゅう、と生暖かい梅雨時の風が通り過ぎる中、私はブランコに座って公園を眺める。
ここは、広い。
柊の公園とは対照的に、明らかに“造られた”もの。植わっている木も等間隔に。影を持たない、夜も眩しい公園。
遊具も、規定に沿って作られた真新しいものばかり。こういうものは古くなるにつれて汚く錆びていくものだ。
「さて……」
今の時刻は八時二十分。
そろそろ時間も遅いので、家に帰ることとする。
ひとりで歩いて、出る時に、この公園の名前を見つけた。
大きな公園の割に、こじんまりとしたものに彫られていた名称。
たいようの公園
ありきたりだとも思った。同じ名前の公園が何千とあるだろう。
しかし、太陽の日差しが当たっているように明るい公園の中は、その名を冠するにはちょうどいい。
私はそんなことを考えながら、ゆっくりと歩く。
何度か交差点で曲がり、広い一本道を見つめる。
ぽつぽつと歩いて行く。
昼は忘れて夜を歩こう。
ああ、月はどこにいるの。
ひとりは悲しいかい、寂しいかい。
「ねえ君」
左肩に男の右手。淡く漂う林檎の香り。
「君が、美子」
少しかすれた低い声。驚きと喜びを含んだ言葉。
その手を振り払い、振り返ると、この近所にある高校の制服を着た男が立っていた。吸い込まれそうなほど黒い瞳を持った彼は、じっと私を見ていた。
茶色に染めた髪、三白眼の気のある目、抜けるような白い肌、だらりと下げた両手。さらには両耳につけた銀のピアス。
私にはこんな知り合いはいないはずだ。遠い親戚であっても、同級生の兄であろうとも。
「……誰?」
素朴な疑問だった。この人は見たことがない。だから、何者か。すると、薄い唇が左右に引かれ、そして言葉を紡いだ。
「僕は君のもの。君の知らないところにいた、君のための存在」
滑らかに彼は言う。
喋り慣れているというように、少し飽きたような色も含まれていた。
私はそれに少しの苛立ちを感じ、意識的に冷たい声を出して訊ねる。
「だから、何者なの」
訊くと、彼は笑った。愉快そうだ。
「……仕方ないか」
彼は呆れたように言って、そして真剣な目で私を見た。
「星城高校二年四組、藤乃蓮。これは偽名でもあるけど」
そして本当に一瞬だけ、蓮とか言う彼の顔つきが変わって、そしてまだ続ける。
「僕のことを正確に表す言葉はない。前に会った人は僕を“燕”と呼んだけれどね」
その晩、彼は私の家にズカズカと入ってきた。