12,鮮血は白を染める染料になる
※血とか、苦手な人がちょっといそうなものになっています。
読み飛ばしても、そう大きいダメージにはならないかと。
一文、回答。
花子さんの首から生温かい血液が垂れ流され、返り血を太郎くんが浴びます。
それは夕刻、白いアリスが赤いアリスに変貌する時。
「……アリス!」
私の腕を持っていた帽子屋が、離れていく。柊の公園のブランコの傍に佇む白い背中に向かって。
帽子屋という名称、帽子をかぶっていない帽子屋だが、アリスはアリスだった。
一陣の風が通り抜け、砂場の砂を巻き上げる。
「無事だったんだ、ね」
私は遠くから二人を眺めていた。
帽子屋は言いながら、アリスの肩に手をかけた。
瞬間、鮮血。
アリスは振り向きながら、銀のナイフで帽子屋の首を掻き切った。
パッカリと割れた傷口から溢れる血液は地面をその色に染めて。
「昔、教えたはずなのに。こういうときは注意しなさいって」
彼女は笑っていた。なんとも形容しがたい、不気味な表情で。
そして、鉈を使うように右手のナイフを振り上げ、帽子屋の首の骨を断つ。
髪を持ち、アリスはそれを目の前まで持っていく。
胴体は下で、首は上で。
離れている。
まだ出ている血で、アリスのワンピースは、その白いワンピースは、赤に染まった。
「次は君? でもおもしろくなさそうだね」
私のほうを向いて、彼女は言った。恐怖で足が動かない。
けれど、彼女の赤い眼を見て、違和感を覚えた。私を見ていない。
「……いつ振りだろうね、アリス」
背後から声。同時に左手が握られる。
「でも、君はアリスなのかな。白いのがアリスだと思っていたんだがね」
いつものピエロの語り口。それでいて私は違和感を感じている。
何かが違う。そう思うだけ。
何も感じることはできないし、私の背後に立つその気配はピエロなんだろう。けれども、何かがおかしい。それは、たとえばオレンジジュースなのにトマトジュースの味がするような。
「あたしがこれをするのは踏み込まれた時。アンタの場合、距離があって面白くないわ」
地面に打ち捨てられたランドセルと胴体。
首はなく、それは冷たく。
「さて、では彼女は連れていくよ」
一瞬の瞬きの後、私は自室のベッドで朝を迎えた。