11,ひとつの想いとふたりの架空
一文、例題。
花子さんが太郎くんの首をナイフで切り裂けば、どうなるでしょうか。
私はふと、グロテスクなことを想像してしまった。
今は放課後で、それなのに私は帰り道とは逆方向へ歩いている。
「どこ行くの」
私の目の前にいる転校生に右手を引っ張られながら質問すれば、
「知る必要はない」
同じ答えばかりが帰ってくるのだった。
いつでもどこでも、誰かに引かれてばかりいる私。
いいかげんに、自分でも行動しないといけない。けれども、することがない。
だから、ついていくしかない。
第一印象から、彼はあまりランドセルは似合いそうになかったが、これ以上なくしっくりきている。
不思議だ。
けれども今、私はそんなのどうでもよかった。
刻一刻と時は通り抜け、野良猫の長い鳴き声とカラスの短い声が混在する夕刻へ。
歩くうちにどんどん見知らぬ地へと来た感じがした。
何分歩いただろうか。どれだけの距離を歩いたのだろうか。
実際はそんなに歩いていないのかもしれない。けれども、なぜか無駄に疲れる。
「さて、ここでネタばらしといこうかな」
昨日の“帽子屋”の表情をして、蘰愁は振り返った。
黒いランドセルが今の彼には全く釣り合わない。先ほどまでは、彼のために作られたようだったランドセルが。
「……やっぱりね」
アリスの陰にいる者。
「君は、アレについて何を知っている?」
「アレ?」
代名詞で言われてもわかるわけない。そういう目線を彼に送り、頭の中ではピエロのことだろうと理解する。
まったく知らない、というわけではない。けれども、知っているのは表面的なことだけ。
それを知らない彼は、敵か味方か。
私自身、そんなの実際はどうでもいいが。
「へぇ? じゃ、要件はもう済んだよ」
突然、目の前で帽子屋が言った。
「君は使えそうで使えないんだねぇ」
彼が言って、そしてまた私の手は掴まれた。
そのまま、引かれていく。
「家まで送る」
「結構」
「今どこにいるかさえわからないくせにね」
彼は私を引きずって歩いて行く。
「……そんなの、わかりきってる」
私は彼に聞こえないように、そっと零した。
いつものように自嘲気味に笑って、私は彼に連れられ、家路につく。
「柊の公園まででいいか?」
前にいる帽子屋が聞いてきて、私は軽く首を縦に振った。
見覚えのある背中を見つけたのはその時。
長い白髪が風に揺れ、透き通るように白い肌と純白のワンピース。
それが誰と判断するのに、そう時間はかからなかった。
私の手を握っていた帽子屋はその手を放し、アリスの元へと駆けていった。