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ピエロ  作者: ゆぽ
10/20

10,青い瞳の半分、そして半分

――――泣いている。


 夜中に目が覚めた。

 私は夢を見ていたのだろう。肌の表面は汗で湿り、目から涙の痕が伝っていた。

「泣いてるの、この私が?」

 ベッドの上で一人つぶやき、言葉は闇に吸い込まれた。


『眠れ、少女』


 そして私は眠りについた。


 気がつけば朝、夢の内容は忘れてしまっていた。




「いつまでいるの、アイツって」

「いいかげんに消えてほしいよね」

「てか、死ねって感じ」

 同級生の言葉、机の上に置かれた猫の死骸。

 まだ瞼が上がった状態で、白い毛に映える赤の瞳。背中に茶色く変色した血。

 どことなく、アリスに似ていた。

 私はその猫の頭に触れ、尻尾のほうまで手を滑らせる。

「触ったよ、アイツ」

「うわ、汚い奴」

 笑い声が充満する。


「この猫より死ぬ価値ないんじゃない、君たちってさ」


 聞き覚えのない声だった。皆の視線が一点に集まる。

「……誰?」

 そう言ったのは、他ならぬ私自身。


「僕? 適当に呼んでよ、名前は蘰愁(かずら しゅう)だから」

 簡単な自己紹介をした彼は、私を見ている。

 一見するとどこにでもいそうな小学生なのだが、よく見ると何かが違う。

 足もとから見ると、普通のジーンズにTシャツを着て、軽く上着を羽織っている。ただそれだけで、あまり変わりはない。

 顔は少し大人しそうな顔つきで、整っている。そして一重の瞼があり、その奥に見える瞳。


 青い瞳だった。


「……ハーフなの?」

「いや、クオーターだってさ。うちの祖母がハーフだよ」

「へぇ、そうなんだ」


 静まり返ったままの教室。

「あ、そっか。転校生!」

 名前も忘れたクラスメイトが言った。転校生は普通担任に連れられてくるものではないのかと思ったが、偏見なのだろうか。ドラマの見すぎか。


「ちょっと、愁くん待ちなさいよ、まだ話が終わってないでしょう」

 担任が入ってきた。皆の表情と空気が和らぎ、私と愁の表情は硬くなった。

 そして、転校生として彼は言った。

「話ですか? どうせ長い注意と要らない気遣いですよね。必要ありませんから」

 彼は軽く言って、そして担任は苦笑した。

「そう、もうみんなとも仲良くなれたみたいだし、よしとしましょう」

「助かります。……ところで、この学校で死んだ動物ってどこに埋めます?」

 この猫のことを案じているのだろう。彼はちらりとこちらを見る。

「猫の、死骸? 何で美子さんの机の上にあるの?」


 言うか言うまいか。

 これは朝来たら置かれていて、それを取ってきたのはおそらくそこに立っている女三人。

 言えば確実に嘘だと言われ、彼女たちは勝つ。


 私がここの人たちに勝つなど不可能、まったくの可能性を持たない。


「……あの、」

「彼女は取ってきてませんよ、そこにいる女子たちが拾ってきたようですよ、柊の公園から」

 私が言おうとしたその時、愁はつらつらと言葉を並べた。

 なんで私を庇うのかとか、それ以前に私は心臓が止まる思いだった。今は何とか抑えているこの心臓。

 柊の公園から、という固有名詞。


 アリス


 アリスとその連れ“帽子屋”。


「何でわかったの?」

 と、先生。

「コイツがとってきたんじゃねーの?」

「そうよ、私たち見たよね」

「うん、絶対に見た」


「帽子屋……さん」

 ざわつく室内で、私がつぶやく言葉は誰にも聞き届けられることなく、溶ける。

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