表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピエロ  作者: ゆぽ
1/20

1,ピエロの指は枯れた白を切り取る


 いつからだったかは忘れたが、私はピエロの家に通っている。

 ピエロというのは道化師のことではなく、私がそこの住人をそう呼んでいるだけ。


 そして私はいつもの帰り道、赤いランドセルを背負ったまま、少し開いた門を擦り抜ける。


 家と呼ぶには大きく、屋敷と呼ぶには小さい。

 バロックの時代を思わせるような装飾がされた家の周りは、広い庭。様々な木や花が綺麗に植わっている。


 そして、庭を見渡しながら歩いていた私は、白い薔薇が植えられた一角に彼の姿を見つけた。


「今日は薔薇の手入れをしてるの?」


「うん。ちょっと待って、もう少しで終わるから」


 彼は言って、枯れた花を摘んでいく。

 私は聞いて、詰まれた花をじっと見る。

 下に落ちたものすべて、同じような長さの茎がついており、ピエロの几帳面な性格を垣間見ることができる。


 そんな彼は切れ長の目をしている。今はその目を伏せ、手元の鋏と花を見ている。

 その瞳の色は、月を連想させるような左目、太陽を連想させるような右目。つまり、オッドアイだ。

 色合いはアンバランスではあるものの、その一部が彼の長めの黒髪に隠れる。そのため、その姿は精巧に作られた人形のように見える。

 やっぱり綺麗だな、なんて思いつつ、私は男にしてはかなり細身の彼を待つ。

 いつの間にか、摘まれた薔薇の花弁が存在していることも忘れ、彼の観察に熱中していた。




「おわったよ、待たせてしまったね」

 ふぅ、と一息ついて、ピエロは振り返る。

 さらさらと彼の長めの黒髪が舞う。

「そんなに待ってない」

 私はつぶやくように言って、彼の手を見る。

 いつも黒い爪は、形が整っている。マニキュアでも塗っているのだろう。

「今日はいい紅茶が手に入ったんだ」

 彼は目を伏せて手に握る使い古された鋏を見つめる。


「さあ、中に入ろうか」

「わかった」

 私は彼についていく。


 空に浮かぶ太陽は、まだ高いところにある。

 時間は、まだまだたくさんある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ