1,ピエロの指は枯れた白を切り取る
いつからだったかは忘れたが、私はピエロの家に通っている。
ピエロというのは道化師のことではなく、私がそこの住人をそう呼んでいるだけ。
そして私はいつもの帰り道、赤いランドセルを背負ったまま、少し開いた門を擦り抜ける。
家と呼ぶには大きく、屋敷と呼ぶには小さい。
バロックの時代を思わせるような装飾がされた家の周りは、広い庭。様々な木や花が綺麗に植わっている。
そして、庭を見渡しながら歩いていた私は、白い薔薇が植えられた一角に彼の姿を見つけた。
「今日は薔薇の手入れをしてるの?」
「うん。ちょっと待って、もう少しで終わるから」
彼は言って、枯れた花を摘んでいく。
私は聞いて、詰まれた花をじっと見る。
下に落ちたものすべて、同じような長さの茎がついており、ピエロの几帳面な性格を垣間見ることができる。
そんな彼は切れ長の目をしている。今はその目を伏せ、手元の鋏と花を見ている。
その瞳の色は、月を連想させるような左目、太陽を連想させるような右目。つまり、オッドアイだ。
色合いはアンバランスではあるものの、その一部が彼の長めの黒髪に隠れる。そのため、その姿は精巧に作られた人形のように見える。
やっぱり綺麗だな、なんて思いつつ、私は男にしてはかなり細身の彼を待つ。
いつの間にか、摘まれた薔薇の花弁が存在していることも忘れ、彼の観察に熱中していた。
「おわったよ、待たせてしまったね」
ふぅ、と一息ついて、ピエロは振り返る。
さらさらと彼の長めの黒髪が舞う。
「そんなに待ってない」
私はつぶやくように言って、彼の手を見る。
いつも黒い爪は、形が整っている。マニキュアでも塗っているのだろう。
「今日はいい紅茶が手に入ったんだ」
彼は目を伏せて手に握る使い古された鋏を見つめる。
「さあ、中に入ろうか」
「わかった」
私は彼についていく。
空に浮かぶ太陽は、まだ高いところにある。
時間は、まだまだたくさんある。