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修行して本が読みたいです

 まだまだ逃亡中です。


 心霊スポットで恐怖体験して、タイミング良く現れた骸骨さん。

 膝抱っこされて、しばらく二人で星空をふよふよしてた。

 骨の手に髪を梳かれて、私も無言でじっとしてたんだけど…彼が、仕事に行くって言い出した。


 私はまだ同意していない。ノットバディ!


 一緒に行こうと連れ攫われかけたけど、秘技"ハグキッス"を使い、彼が動揺した隙に逃げ出した。骸骨さんは初心だ。

 チラリ振り返った骸骨さんは、がっくり項垂れていた。

 空中なのに両手両膝付いて頭垂れて、器用だなって思った。


 まだまだ私は働かぬのだよ!


 逃亡幽霊の私ですが、次なる修行の場を本屋に定めました。

 ブルーラベルを動かしたように、本捲れないかなって。幽霊なら閉店後に立ち読みし放題だしね!

 営業時間中は自重。立ち読み客の背後から覗き見で時間潰して、閉店後、真っ暗な店内で修行開始です!


 でもねぇ、同じような事を考える幽霊さんもいらっしゃるようで、一人、本を読んでらっしゃった。

 レジカウンターを椅子代わりにして、ペラリ、ペラリ、読書中。


「こんばんわ!お邪魔します!」


 このお店の常連さんか、ここがこの人のテリトリー的な可能性もあるからご挨拶。

 うん!無反応!

 シャツにスラックスが似合うお兄さん幽霊。読んでるのはどうやら今月発売の新刊のようだ。

 本好きで成仏出来なかったのかな?

 そもそも成仏ってどうやるのかな?


 骸骨さんへの質問帳に記しておこう。心の中で!


 棚に差されている本だと"抜き取る"という動作が必要でハードルが高い。だから平積みの本の前に屈み込んで手を伸ばす。


 スカッと通り抜けました。


 どれだけ気合い入れても、何回やってもダメ。

 レジカウンターのお兄さんなんて普通に持って読んでるんだから出来るはずなんだけど、どうやるんだろうか?


「ブルーラベルを動かした時は"飲みたい"って気持ちが強かったから出来たのかな?なら、"どうしても"読みたい本を探すか…」


 本棚の間をふよふよ歩いて本の物色。読んでみたいなってのはいくつかあるけど"どうしても"ではない。情熱が向けられるのは酒に対してだけとか…残念女過ぎるんだけど……


相田(あいだ)(かける)。もう良いか?」


 聞こえたのは少年の声。

 お店の人…な訳ない。深夜だ。


「………読み終わりました。ありがとう。」

「ならば輪廻の輪に。黄泉。」

「あいよ。相田翔、君の魂は浄化され、また生まれる。案内しよう。」


 静かーに、覗いてみた。

 相田(あいだ)(かける)はどうやら、レジカウンターで読書をしていたお兄さんの事だ。そのお兄さんの前には二人の人影。中学生くらいの男の子と、男の子が"黄泉"って呼んだ死神。名前かな?死神は名前ないんじゃないの?


「おい、そこの浮遊霊。」


 びっくり!私?

 お決まりをしてみたくて背後を振り返る。


「お前だ、お前。そこで盗み見してる女!」


 おぉ!やってくれたね、ありがとう!


「もしや、私が視えるのかい?」

「まぁな。お前こそ、俺らが視えてるんだな?」

「はぁ…まぁ…」


 横柄な少年だな。でももしかしたら、実際はとてもお年を召しているのかもしれない。だって、多分彼、"死神の永遠の相棒"ってやつだ。黒学ラン姿だから時代は判別不可。

 あ、でも足下スニーカーだ。


「ではさらば!」


 輪廻の輪とか言ってたし、読書家幽霊さんを成仏させようとしているみたいだし、私も成仏させられたら堪らない。

 骸骨さんが落ち込んでしまう。


「逃がさないよ?」


 大鎌が首元にっ!


「逃がして下さい!」

「無理。君、変。何をしているの?」

「普通の幽霊です!」

「担当外の霊魂が死神とその相棒を視認して会話をするなど、十分普通じゃない。」


 死神のお仕事は担当制のようだ。

 ふむ、さてどうしたものか…


「これ、鎌で斬られたら私…どうなるんでしょう?」

「やってみる?」

「遠慮しておきます!えっと……黄泉さん?と、そちらの少年のお名前は?」

「彼はトーマ。君は?」

「アリーシャです。」


 なんだか頭が混乱して来たぞ。この場をどうおさめようか…。


「もしかして、あいつの愛しの君?どうして別行動してるんだ?あいつは?」


 黄泉さんが大鎌を私の首に突き付けたままで首を捻っている。トーマくんって少年と読書家幽霊さんは、傍観に徹するみたい。キョトン顔で私達を見てる。


「鎌をおさめてくれませんか?このままでは話も出来ません。」

「あぁ、そうだな。悪い。」


 死神さん達って、見た目の割にお人好し。ダメだよ、見ず知らずの人間を信じたら。


 私は逃走した。


 骸骨さんとの逃亡劇で、私はどうやら、逃げの天才になったようだ。


「黄泉のおバカ…」


 トーマくんの呆れた呟きが聞こえたけれど、振り返らず、逃げる。

 壁をすり抜けて、建物の影に隠れながらだとどうやら見つけられないみたいなんだ。死神でも透視は出来ないんだと思う。


 本屋からは大分離れて、人様のお家で小休止。

 家人が寝静まった家のリビング。ソファの上にふよふよ胡座を掻いて考える。

 どうやら私、普通の幽霊ではないらしい。しかも黄泉さんは骸骨さんの知り合いっぽくて、私を知っていた。

 "愛しの君"って…骸骨さんはどれだけオープンストーカーだったんだよって呆れてしまう。

 "黄泉"って、やっぱりあの死神さんの名前なのかなぁ?なんだかあまりに如何にもって感じで、どうなんだろうか?

 トーマくんが付けてあげたのかな?

 相棒なのにいつまでも"死神"じゃ困るもんね。なら私の"骸骨さん"呼びも見た目のまんまだ。


 名前かぁ…どうしよ。きっと骸骨さん、楽しみにしてるよね。

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