臨死体験☆私はもう死んでいた
骸骨さん骸骨さんって心の中では呼んでいるけれど、彼には名前が無いのだろうか?
ふと疑問が湧いた。今度確保された時にでも聞いてみよう。
今日も私はふよふよ浮遊霊してます。
実家で骸骨さんに遭遇して逃亡した私は今、心霊スポット巡りでもしようと向かっている途中。
心霊スポットの幽霊さんって、力が強いのかなんなのか生者にも目撃されるじゃない?それなら私の事も認識してくれるんじゃないかなって思った。あと、その土地自体に力がある場合もあるから、そこで張ってたら生者でも私を認識出来る人がいるんじゃないかなってね。
骸骨さんに捕まって相棒になっちゃえば、いろんな疑問は解決すると思うんだけどさ、"永遠"がネック。未来永劫縛られるのなら、まだ自由でいたいって思っちゃう。いつ捕まるかの期限は決めてないけど…飽きるまでかな。
辿り着いたのはとある電話ボックス。
山の中の湖沿いの道の途中にポツンと一つ。
髪の長い女の人がいるって聞いた事があったんだけど…いるね。
電話中?でも彼女は生者じゃない。足はあるけど、存在が希薄なんだよね。
「こんばんわ!」
元気良くご挨拶!
……………残念無反応。
この人ぶつぶつ系だ。
何か言ってる。
おっと誰か来たようだ。
カッコイイ車がすごいスピードで走って来た。
運転手は若いお兄ちゃん。
この先うねうね山道だから、走り屋さんかな?それとも肝試し?
どうやら肝試しっぽい。
私達がいる電話ボックスの前で、車が停まった。出て来たのはお兄ちゃん二人。
お互い怖がってるのを笑って茶化して誤魔化してる感ありあり。
茶髪で、いかにも田舎の走り屋風の子が運転手。
連れの子はお髭生やしたちょっと背伸びくん。
「おい、視える?」
「なんも視えねぇ。お前は。」
「視えねぇ!ガセかぁ!」
がっかりしたようなほっとしたような感じで、二人は煙草に火を付けた。
視えないのかぁ。いるんだけどね、二人。目の前に。
「………似てる…」
ぶつぶつ彼女、ぶつぶつ言うのを止めて呟いた。しかも口元、ニヤリと笑ってる。
怖いっすけど?しかもなんで髪下ろして白ワンピース?あからさまに幽霊さんな出で立ちですね?
あ!あー!
運転手くんが脱いだ上着を放り込む隙に彼女、後部座席に乗っちゃいましたよ?
幽霊ご乗車されましたぁ。
マズイのか?悪霊か?見て見ぬ振りか?
が、骸骨さーん!これってどうなるのー?
とりあえず私も相乗り。
ぶつぶつニヤニヤ幽霊さんのお隣に座ってみた。
乗ったは良いが、さてどうしよう?
困ったから、お髭くんの首筋に息を吹き掛けてみよう。
「っ!」
おぉ!息は有効みたいだ!
びっくりして首筋を手でおさえて振り向いた。でも視えてないみたいねー。
彼女の狙いはどうやら運転手くん。だってめちゃくちゃガン見してるもん。怖っ!これバックミラーに映り込んだら山道事故るって!
……………………あれ?
あ、そゆこと?
ヤバくね?
この先の道、景色綺麗なんだよね。
カーブ、多いんだよね。
断崖絶壁、あるんだよね。
マズくねっ?!
どうしよどうしよどうしよ!
一人パニック!
隣の彼女はニヤニヤニヤニヤ。
前の二人はノリの良い曲を大音量で聞いてて、運転手くんはカーブを攻める。
攻めるな!幽霊同乗中!
しかも多分悪霊系!
スピード緩めてぇっ!でないと多分、彼女、君の命狙ってるよぅ!
「おヒゲくんおヒゲくん!死にたくなかったら友達止めなって!この先事故多発カーブ来るよ!」
景色が最高に綺麗になる場所。
でも一番カーブがキツイ下り坂。
ガードレールに擦った跡や修復跡があったのを覚えてる。
だって私、昔ここにデートで来たもん!
「おヒゲくんおヒゲくん!マジマズい!彼女ニヤニヤ凄くなった!身ぃ乗り出した!ヒィッ!仲間入りしちゃうよ!…止まれー!!!」
涙目の大絶叫。
届いたのかたまたまか、はたまた彼女と波長が合わず運転手くんには視えなかったのか…カーブはちゃんと曲がりきれた。
良かったね。
ドリフトも成功してたよ。
上手だけどね…死ぬかと思った。
あ、もう死んでたね。
肉体あったら汗すごい気がする。
精神的にどっと疲れた。
ちなみに彼女は、例のカーブでドリフト成功したら、すっごい形相で舌打ちしてすぅっと消えちゃった。
きっと電話ボックスに戻ったんだろう。
また、獲物を狙うんだろう。
運転手くんに似た系の男の子、待ってるのかな。その子を殺したいのかな。会いたいのかな。なんなのかな。
怖いからもう、心霊スポットは止めようと思う。
認識してもらえないし、リアルホラー映画が目の前で繰り広げられるし、散々だ。割に合わない。
「………アリーシャ?泣いているのですか?」
「泣いてない。…てか、どうしてここがわかった?」
強面どころかホネホネ骸骨だけど。
死神で私を首チョンパにした骸骨だけど。
会えて、ほっとした。
「アリーシャの声がしました。あの時もそう。だから、貴女の生家に見に行ったのです。」
「酒飲みたいって騒いだ奴?」
「えぇ。あのお酒、楽しみにしていたのに残念でしたね。」
「そんな事も知ってるんだ?」
「はい。…暇が出来るとよく、貴女を見ていましたから。」
ストーカー骸骨め。
捕まって、抱き寄せられて、彼の黒マントに顔を埋めた。
匂いはしない。温もりはなくて、ひんやりする。
私を抱き締める感触、彼にはどう感じてるんだろうか?
「ねぇ、あなたの名前は?」
ぴくり、彼の身体が揺れた。
何やら動揺している。
「死神に名はありません。」
「なら、どうやって仲間を呼ぶの?」
「貴方とか、君とか…」
「それでわかるの?」
「わかりますよ。」
「見た目同じなのに?」
「えぇ。呼び名が無くとも、見た目が同じでも、どれが誰だかはわかります。」
すごいなそれ。
でも私も、彼と他の死神、何故か区別出来たな。そういう物なのかな。
「アリーシャ……僕に、名をくれませんか?」
「……欲しいの?」
まるで顔を見られたく無いとでも言うように、きつく抱き締められた。
骨だから表情とか無い癖に。
見なくても、照れて緊張してるんだってのはわかる。
「考えとく。」
「はい!ありがとうございます!」
あぁきっと、彼に表情があればにこにこしてる。声が明るくなった。嬉しそう。
「アリーシャ……僕が、怖い?」
怖いか聞く癖に、腕は緩めないんだね。
声が不安そうだから、私はどうしようか悩む。彼に身を預けて、目を閉じた。
「……怖くないよ、あなただから。」
変なの。
私は彼に殺された。
でも彼は、怖くない。
骸骨なのに、死神なのに。
変なの。