ポルターガイストは酒の為
私の生前の望みや行動パターンは、ストーカー死神骸骨に見抜かれていそうだから海外旅行は泣く泣く延期。
便乗で映画やドラマ、ワイドショーを観るのは良いけど飽きるから、修行を思い立ちました!
物に触れられるようになれば、本が読める!
勝手にチャンネル変えられる!
やるしかないっしょ!おっしゃあぁぁぁっ!
「ふむむむむむ…はあぁぁぁっ!!」
何も起きない。
一人ってあれだね。口でも心の中でも独り言が多くなる。
まぁ誰にも認識されないし〜。
私のバディらしい、唯一私を認識してくれる骸骨さんからは逃亡中だし〜。
仕方ないよね!
まずは空き缶でも浮かせてみようと思って、公園で一人修行中。
周りには子供達が遊んでいる。
午前中なのかな?ベビーカー押したママさんが多い。
なんか、幽霊になってから時間の感覚がわからない。カレンダー見たらわかるけど、夜と朝はわかるけど、私が死んでからどのくらい経ったのかとか、全くわからん。
こりゃあれか、骸骨さんから隠れつつ実家にでも行こうかな。お供え物食べてあげないといけないし。お腹減らないけど。触れないけど。
「おねぃち?あしょぶ?」
え?
目の前には幼女が一人。
幽霊ではない。生者だ。
よちよち歩きの女の子。てか、母親どこだよ?こんな小さい子放置はいかんだろ。
「あーしょーぶ?」
「………お姉さんが、視えるの?」
こてんて、首が傾げられた。
かっわいい!
てかこの子!私が視えてる聞こえてる!目の前で手を振ってみたら、きょとんってしてる!!
「お名前は?」
「みかちぃ!みかちよ!」
「みかちちゃん?」
「ちあうお!みかちぃ!」
「…………みかちゃん?」
「あい!」
にこにこ満面の笑み。可愛い。攫いたい。
「みかちゃん?お話してくれてありがとう。でもね、お姉さんオバケだから、話し掛けたらダメよ?悪い人だったら危ないわ。……ママは?」
「まぁま、あちぃ!」
とてとて歩いて行く小さな背中を見送って、みかちゃんが母親らしき女性に抱き付くのを見届けてからその場を離れた。
子供だからというのに加えて、霊感が強い子だったのかもしれない。でももし私の存在が、あの子に悪影響を与えたらって考えたら怖くなった。
だって私はもう、生者じゃないもの。
霊感が強い子供は、視える物の区別をまだ付けられない。
悪いものと良いものの判断が付かないし、視えない人には、気味悪がられてしまう。
「可愛かったなぁ…。欲しかったなぁ……自分の子供。」
幽霊も涙が出るんだって、初めて知った。
ふよふよ隠れながら移動して〜
やって来ました。我が実家!
ここに来る前に自分のアパートの部屋に寄ってみたけど、引き払われてすっからかんだった。
ウィスキーの行方が気になる!
弟と父さんに飲まれてるかなぁ?良いんだけどね、一万円……
骸骨さんは周辺には見当たらない。だからするりと壁を抜けて、果たしました里帰り!
四十九日は過ぎてるのかな?
あれ?でも私、燃される前からふらふらして骸骨さんから隠れていたな。四十九日関係無く、燃されてすぐに葬儀場離れちゃったし。そういうものなのかな?それとも死神相棒特典?てか、四十九日ってなんだっけ?まぁいいや。
久しぶりの実家は誰もいなかった。普段ならおばあちゃんがいるはずだけど、散歩かな。
覗いた仏壇には私の写真。お供え物にブルーラベル。
わかってる!わかってるねぇ!
「ジョニー!私のジョニー!会いたかったわぁ!飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたいぃぃぃっ!!」
カタンッ
お、これはもしやポルターガイスト?イケる!
「ジョニー!あなたも私に飲まれたいわよね?ほら!来い!」
カタカタカタカタッ
カタン…
あっぶねぇっ!
倒れた!割れなくて良かったぁ!
「あーあ、おばあちゃんごめん。水零した。」
テンション上がったけど気付いちゃった。飲むまでの道程が遠い。
瓶持てたとして、開ける、グラス用意、注ぐ。この肯定、幽霊に出来ると思えない。だって出来てたら、世の中の幽霊像、もっと違うでしょ。
「私のブルーラベル…一緒に燃されてたら飲めたかなぁ?でもそれはそれで勿体無いなぁ…」
生者である我が家族よ。美味しく飲んでくれ、私の酒。
零したお供えの水の片付けは諦めて、自分の部屋へ上がる。我が家は古い二階建て。曾祖母の時代に建てたんだって。木の家って頑丈だなぁ。その内弟と建て替える予定だったんだけど、ま、私の貯金使ってくれぃ!
「あーあぁ、捨てて良いのに…」
零れたのは苦笑。
私の部屋はそのまま。アパートにあった荷物が運び込まれて、ダンボールで積まれてる。
売るなり捨てるなりで処分してくれて良いんだけどな。
「そういえば、私の死因ってなんなんだろ……」
「滅多刺しですよ?」
独り言に、返って来た答え。
「やっぱ実家はアウトー」
振り向いたらすぐに腕の中に確保された。ハグが好きだね、骸骨さん?
「僕が魂を刈り取った直後、そのまま木嶋あやめに刺されました。死因も変えられません。」
「ふーん。なら、木嶋あやめはどうなったの?」
「知りません。僕は貴女の魂が欲しかったのですから。」
身体には興味無いってか。
骸骨さん大きいな。すっぽり包み込まれる。でも、私が同意しなければ契約は不成立のまま。
「放して?」
「嫌です。また逃げるのでしょう?」
「当たり前でしょう。」
「どうして?僕が嫌い?この姿だから?」
泣きそうな声。でも涙は、出ないんだね。私は出たのに…
「どうして私なの?」
「それは……」
言い淀んで、答えない。
拘束が解かれて、私はまた、彼から逃亡する。
一瞬だけ振り向いて見た彼は、骸骨で表情なんて無いのに…捨てられた仔猫みたいに、途方に暮れているみたいだった。