骨の白は砂糖に違いない
何故か空港の上空。
黒マント骸骨の膝の上に、私は恋人のように座らされている。解せぬ。
「そのように眉間に皺を寄せないで?また逃げられたら堪りません。どうかこのまま…ね?アリーシャ?」
見た目骸骨。大事な事だからもう一度言おう。見た目は表情無し骸骨!
なのに声が低くて甘ったるい。なんて良い声イケボイス!
しかも長い人差し指(骨)が私の眉間を撫でた。硬い!のに何故だ!不快じゃないんだこれが!私が死者だからか!
「……アリーシャって何?私、日本人だけど?」
「知っていますよ。でも他の者と同じ呼び方は気に入りません。」
「何その独占欲?私は私の物だ。」
むっすぅと告げたら、骸骨さんが笑った。まるで鈴のように軽やかに。声だけならイケメンだ!だが彼は骸骨!もう一度言う、彼は骸骨!
「この状況もおかしい。あなたは私を殺した。なんで?」
笑いをおさめた骸骨さんは、私の頬を撫でる。骨の手で。骸骨さんはスキンシップ過多だ。アリーシャ呼びといい、西洋人なのかも。
「僕は貴女を刈り取りました。だけれど元より死ぬ運命。でなければ僕があんな事、愛しいアリーシャにするはずないんです。」
アリーシャの前についた言葉はスルーしておこう。この骸骨にツッコミ入れてたら、話が進まなくなる。
「死ぬ運命って何?あなたに殺されなくても、私は死んでたって事?」
表情変化が無い癖に、優しい指先で気遣われている事がわかった。私の頬を撫でる骨の指が、まるで愛しい物に触れるように繊細だ。
「木嶋あやめ。彼女が貴女のすぐ後ろに迫っていました。アリーシャは彼女に、滅多刺しにされて死ぬ予定でした。それが死期。三神亜梨沙の寿命。」
木嶋あやめは、別れた彼氏の二股相手。どっちが本命でどっちが浮気かは知らないけれど、一度顔は合わせてる。泥棒猫!って罵られ殴られ、頭に来た勢いでそんな男くれてやるって押し付けて去った。それで終わったはずだったんだけどな。彼の番号即時拒否設定にしちゃったから、結末は知らん。
「寿命が尽きる前に僕が刈り取りました。アリーシャ、貴女が欲しかったから…」
「ちょっと待って。もう少しその衝撃の事実、"二股男の恋人に命を狙われるだなんて"って余韻に浸らせてくれないかな?」
「気が利かず、すみません。どうぞ存分に。」
抱き寄せられて髪を撫でられた。段々ホネホネにも慣れて来てしまった。むしろなんだろ、心地好いかも。
「あなたに殺されなくても、私の死は確定だったの?」
「そうです。寿命は避けられません。例え死神でも、死期を伸ばす事は不可能なのです。」
唇がない髑髏の口元が頭に押し付けられた。骸骨さんはどうやら私を好きなようだ。何故かはわからんが。
「それで?どうしてあなたが刈り取るとあなたの物なの?契約って?」
密着させられていた身体が離れて、骸骨さんが私の顔を覗き込んだ。なんだか、にっこり笑っていそうな雰囲気。こいつウキウキしてないか?
「僕は死神なんです。」
「まんまだね。」
「仕事を頑張っている死神には、相棒を持つ事が許されます。生者から選び、相手の寿命間際に己の鎌で刈り取る。それで契約の半分が成立します。」
「残りの半分は?」
「同意を得れば完全に成立です。それで、永遠の相棒になるんです。」
"永遠"ねぇ…死神、死なないんだね。てか、死んでるのか。まぁどっちだとしても、どうやら私、知らない内に契約の過程の半分を済ませているらしい。
「あと、ですね…あの……」
なんだ?骸骨さんがもじもじしてる。赤面でもしてそうな雰囲気だ。しゃれこうべは真っ白で変化無しだけど。
「何?どうしたの?」
そろり、立ち上がる。
余計照れてくれるよう、甘い声で頬を撫でて…
「あの…アリーシャから、もらいたい物が……」
一体それが何かが気になる照れ具合。彼が両手で顔を覆った。
……チャンスッ!
「え?あれ?あ!あぁっ!アリーシャ!また逃げるんですかぁぁぁ?!」
「ごめんねぇ?死んでまで働きたくないんだわ。Bye!」
始めは処女の如く後に脱兎の如し。
孫子の兵法の一つ!
処女じゃないけどな!
攻撃しても勝てる気しないから素早く逃げ一択。
油断大敵火事親父!
素直にはいそうですか、では相棒に!って、なるかってんでぃ!
ふよふよではなくぴゅーっと飛んで、死神骸骨を撒いた。
物陰に隠れつつ周りを見回して…彼もその仲間も見当たらない事を確認。
隠れて移動して、また縁もゆかりもない土地に隠れる事にしよう。
あれ?そういえば私、どうしてこんなに移動出来るのかな?幽霊の先輩達はみんな、移動はほとんどしてなかったような気がする。
これはもしや…死神相棒候補故の特典?
なら他に何が出来るか探らなくちゃいけない!
悪戯だらけの楽しい死後活、目指します!