死んだのでふらふらしています
幽霊はお腹が減りません。
幽霊は眠くなりません。
幽霊は、何にも、触れません…(涙)
それどころか誰にも気付かれない。生者は当たり前だけれど、幽霊仲間さんにすら認識されないのはどういう事か?
結構世界には幽霊さんはたくさんいるようです。
普通の人にグロい人。
でもなんだか、現代人ばかり。古い人から順番に成仏する制度なのかな?
わっかんないけどね!
だって先輩方、皆さん無反応なんですもん!誰もお話、してくれないんですもん!
なんでだろ?
透けてるから相手も絶対幽霊なのに、私を認識しない。声も届かない。
先輩幽霊さん達は、ぼーっとしてたりウロウロブツブツ言ってたり様々だったけど、誰も私どころか他の幽霊の存在にすら気が付いていないみたい。
死後の世界は不思議世界です。
地獄からの使者(仮)さんには今の所、葬式以来遭遇してない。私を探すなら家族や知人の側を張ってそうだから、そこを避けて私は行動してる。ついでにふよふよ移動して、縁もゆかりもない地方都市に来たから見つけられないでしょう!
さて、何をしよっかなぁ。
お!映画館発見!タダ観だタダ観っ!
飽きますよねぇ……
壁抜けは余裕だけど、物には触れない。だから流れてる物を観るしかない。身体の疲れなんて存在しないからいくらでも観られるけどさぁ、幽霊でも映画何本も一気観はげんなりする。
身体ではなく、心の疲労的な物かな?
よくわからんがな。
そういえば、映画館にも数人先輩さんがいらっしゃった。でもあれ、映画視えてたのかなぁ?
なんか…何も視えてないんじゃないかって顔してた。
これまで会った先輩幽霊さん達は、幽霊の自覚はありそうだ。だけど周りが視えていなそう。まるで、暗闇の中に一人きりみたいな…そんな顔をしてた。
私も時間が経ったらあぁなるのかも。怖い。ゾッとする。
ふよふよ漂いながら、空に仰向け。見えるのは星空と三日月。
眠くならないから、考え事しかする事がない。でも怖い事しか浮かばないから、考えるのはやめる事にした。何処かのお宅にお邪魔してテレビでも観よーっと。
適当に覗いてみたお宅には先客がいた。体育座りの女の子。
家主はどうやら二十代半ばくらいの男。パソコンを弄ってる彼の背後で、彼女がラップ音を立てている!
どうやんの?どうやってんの?
彼女の手は動いていない。
私の存在にも、例の如く気付いていない。
でも確かに聞こえるこの音は絶対にラップ音だ。家主の彼の肩がビクビクしているもの。
私も出来ないかなって思って、気合いを入れて近くの床を叩いてみる。けど、すり抜ける事しか出来ない。
「あの…聞こえます?もしもーし?」
まるで私は透明人間。いや、幽霊だから当然だけどね。でもどうして幽霊仲間にも認識されないの?
誰か教えてー!
ラップ音幽霊少女にも認識されず、へこんでた私は家主くんに目を向け驚いた。
なんで彼、全裸になってんの??
ラップ音にビビってた彼は、全裸で踊り出した。
びっくりとかなんとか言ってるけど、こっちがびっくりだよ!
何それ?なんかの呪文??
初心な娘とかでは無いからがっつり観察しておいたけど、気付いたらラップ音が消えてた。しかも少女、目を見開いてる?
私を視えない少女は、奇声を発して変な踊りを踊っている家主くんは視えてるみたいだ。そうだよね。じゃなきゃラップ音で存在主張したりしないよね。
「ねぇ、私の声は聞こえる?」
話し掛けて、目の前で手を振ってみたけどやっぱり、少女も家主くんも私の事は視えていないみたい。
何日かその部屋で二人の観察をしてみたけど…虚しくなった。
家主くんは少し霊感がある人みたい。あの裸踊りの効果は謎だけど、少女にも私にも影響はないから除霊とかの類いではないようだ。
二人は私の姿も声も認識しない。だけど家主くんは、たまに少女の姿が視えるみたい。
少女にも、家主くんが視えている。
まるで私だけが、二人と波長が違うみたいだ。
少女は話さないのか話せないのか、ラップ音で家主くんに存在を主張している。
家主くんは、少女がなんなのか探るみたいに、たまに話し掛けてる。
ラップ音を通しての二人の会話。映画を観てるみたいに、私は蚊帳の外。
ラップ音を立てる練習とか、物に触れる練習とかしてみてるけど全く上手くいかない。地道な特訓が必要なのかな。
段々蚊帳の外が寂しくなって来たから、私は二人の側から離れた。
見てる感じ、少女が悪い物には感じなかったし、家主くんもなんだか交流を楽しんでるみたいだった。
まぁ、誰にも認識してもらえない私には、少女が悪霊だったとしても何も出来ないんだけどね!