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平凡女の非凡な死  作者: よろず


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13/18

疑問が湧いて湧いて止まりません

 死神はどうやら、輪廻に組み込まれる魂とは別物らしい。ふと気付いた時には世界に存在していて、仕事を与えられる。生まれた時には理を持っていて、自分の存在を疑問に思う事は特にないって、黄泉さんは言ってた。

 魂には、人間だけではなく、動物もいる。でも動物達の方が本能が働いて、人間みたいに迷う事はない。

 そういう魂と、死神は別。

 でも私、死神じゃないまさおさんを、知ってるよ?憶えてない。思い出せない。それでも、知ってるんだ。


「アリーシャ…口、尖っています。」


 尖った唇に触れる指先。骨で硬い。でも優しい。

 きっと彼は、私が何を考えてるのかを察してる。それなのに教えてくれないのは、どうして?


「聞いても、良い?」

「ダメです。」

「意地悪…」


 しばらく四人ーーまさおさんはほぼ黙ってたけどーーでお話をして、黄泉さんとトーマくんはお仕事だって去って行った。もう少ししたら私達も魂回収のお仕事がある。

 まさおさんは考え込む私を膝に乗せたまま、解いた髪をずっーと撫でている。


「知りたいよ。いつ、気が向く?」

「今はまだ気が向きません。それに、知らなくても良い事です。」

「……相棒なのに?」

「相棒でも、です。」


 不満だ。

 これは、思い出せない私がいけないの?

 長い事あなたを独りにしたあげく、全てを忘れて生きていた私への罰?

 そんな気もするし、違う気もする。


「まさおさん、私にそのマントは無いの?イメージして着せてよ。大鎌も欲しいな!」


 雰囲気を切り替えよう!

 顔を上げて微笑んで、着替え要求。


「……今のままで十分、愛らしいですよ?」

「今度やってくれる?」

「気が向けば。」


 気分屋さんだなぁ。

 まぁいっかって笑って、私は小指を立てて右手を差し出した。


「約束ね!」

「………貴女は、約束が好きだな。」


 頬を撫でられ、抱き寄せられた。

 失敗した。まさおさんが悲しそうだ。

 私が忘れている約束。彼はずっと、抱えてるんだ。


「…まさおさん。"永遠の相棒"だから、これからする約束はもう、忘れないよ?」

「そうですね。…気に病まないで。僕が勝手に、手放せないだけだから…」

「私はもう、あなたの物。」

「そうだね。貴女はもう、僕の物だ。僕だけの物…」


 "愛してる"って、言われた気がした。言葉ではなくて、心で。

 私は本当に、知らないままで、良いのかな?

 わかんない。わかんないから…明るく元気に笑う事にしよう!


「お仕事だ!お迎えに行きますか?」

「そろそろ、ですね。」


 抱っこのままで瞬間移動が私達のお決まりです。



 お爺さんが一人、縁側でお昼寝中。

 あと数分で寿命が来る。

 台所には娘さんかな?お夕飯の支度をしてる。良かったね。きっとすぐに気付いてもらえる。

 一人では、無いね。


「池田幸六さん。お迎えに上がりました。」


 魂が肉体から離れて、まさおさんが幸六(こうろく)さんの魂に話し掛けた。

 思うんだけど、大鎌だけでも仕舞えないのかな?絶対、死んだ瞬間に会ったら怖いと思う。


「お迎えかい?婆さんに会えるかな?」

「同じ場所に、お連れします。」


 会えるよ、とは言わないんだね。


「よろしく頼みます。」


 老衰の場合は、大抵の人は死を受け入れているから、スムーズに輪廻の輪に向かってくれる。

 自殺も同じ。望んで死んでいるから、留まろうとはしない。ただ自殺の場合はたまに、思念みたいな物がその場に残ってしまう事があるみたい。本人の魂はもう無くても、想いが残る。

 良い物でも、悪い物でも。

 死神の担当は魂だから、それをどうこうはしないんだよね。

 幸六さんも受け入れていたから、スムーズにご案内出来た。骸骨の姿が如何にもって感じなのも、実は重要なのかな?私なら天使が良いけどね!


「ねぇまさおさん?四十九日ってなぁに?」


 ふと湧いた疑問。首を傾げて訪ねてみたら、まさおさんが困ってる。


「仏教は、貴女の方が詳しいでしょう?」

「知らないの?」

「……知っていますが…」


 なんだか不満そうですね?


「知ってますか、まさおさん。直前の私は無宗教です。」


 腰に手を当てて、胸を張って言い切ってやった。

 苦く笑ったまさおさん。手を伸ばして、また私を抱き寄せる。私は抵抗せず、彼の腕におさまった。


「宗派によって色々らしいですが…死んでから生まれ代わるまでの期間だったり、生きている側が心の整理を付ける為の期間だったり…と、考えられているようです。」

「ふむふむ。だからすぐにご案内で問題無いの?」

「まぁ、そうですね。たまに拘りがある魂だと、多少の要望は聞いたりします。」

「どんな?」

「………色々です。」


 面倒臭くなったな?

 まさおさんは意外と面倒臭がりだ。でもごめん、まだ質問があるんだ。


「どうしてまさおさんは日本が担当?」


 死神の担当、国でも別れてるんだ。生者の宗教的理由でご案内や説得方法が異なるから、面倒が無いように別れてるっぽい。

 私の知ってるまさおさんは、日本人じゃない。だから、聞いてみた。


「……貴女を探す為ですよ、アリーシャ。」

「私が、日本以外で生まれ変わっちゃう事は考えなかった?」

「考えませんでした。"約束"でしたから。」


 憶えていないけれど、あなたとの約束。守れたのなら、良かった。


「ねぇまさおさん!死神はお酒飲みたくならないの?」

「なりませんね。」

「お、この料理うまそうだなぁ。とかは?」

「なりませんね。」

「性欲は?」

「な!ない、です…」

「でも照れるよね?キス好きだよね?」

「それは、なんというか…」

「私の身体ってどう?霊体だけど、抱き締めたら柔らかい?」

「…………………。」

「答えなきゃまた逃げる。」

「……柔らかいし、良い香りです。」

「そんな気がするって感じ?」

「恐らく、そうなのでしょうね。」


 過去の私があなたに悲しみを植え付けたのなら、これからの私が、あなたに安らぎを与えたい。

 骸骨で大鎌抱えた死神さん。

 不思議ともう、恐怖は感じない。むしろ止め処無く湧いて溢れそうになるのは、愛しさだ。

 魂の記憶による物もあると思う。だけど十分あなたは魅力的な骸骨ですよ、まさおさん。

 ホネホネの腕に包まれて、私は笑う。

 表情の無いあなたも、微笑んでる。


 未来永劫、私達はもう、離れない。

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