疑問が湧いて湧いて止まりません
死神はどうやら、輪廻に組み込まれる魂とは別物らしい。ふと気付いた時には世界に存在していて、仕事を与えられる。生まれた時には理を持っていて、自分の存在を疑問に思う事は特にないって、黄泉さんは言ってた。
魂には、人間だけではなく、動物もいる。でも動物達の方が本能が働いて、人間みたいに迷う事はない。
そういう魂と、死神は別。
でも私、死神じゃないまさおさんを、知ってるよ?憶えてない。思い出せない。それでも、知ってるんだ。
「アリーシャ…口、尖っています。」
尖った唇に触れる指先。骨で硬い。でも優しい。
きっと彼は、私が何を考えてるのかを察してる。それなのに教えてくれないのは、どうして?
「聞いても、良い?」
「ダメです。」
「意地悪…」
しばらく四人ーーまさおさんはほぼ黙ってたけどーーでお話をして、黄泉さんとトーマくんはお仕事だって去って行った。もう少ししたら私達も魂回収のお仕事がある。
まさおさんは考え込む私を膝に乗せたまま、解いた髪をずっーと撫でている。
「知りたいよ。いつ、気が向く?」
「今はまだ気が向きません。それに、知らなくても良い事です。」
「……相棒なのに?」
「相棒でも、です。」
不満だ。
これは、思い出せない私がいけないの?
長い事あなたを独りにしたあげく、全てを忘れて生きていた私への罰?
そんな気もするし、違う気もする。
「まさおさん、私にそのマントは無いの?イメージして着せてよ。大鎌も欲しいな!」
雰囲気を切り替えよう!
顔を上げて微笑んで、着替え要求。
「……今のままで十分、愛らしいですよ?」
「今度やってくれる?」
「気が向けば。」
気分屋さんだなぁ。
まぁいっかって笑って、私は小指を立てて右手を差し出した。
「約束ね!」
「………貴女は、約束が好きだな。」
頬を撫でられ、抱き寄せられた。
失敗した。まさおさんが悲しそうだ。
私が忘れている約束。彼はずっと、抱えてるんだ。
「…まさおさん。"永遠の相棒"だから、これからする約束はもう、忘れないよ?」
「そうですね。…気に病まないで。僕が勝手に、手放せないだけだから…」
「私はもう、あなたの物。」
「そうだね。貴女はもう、僕の物だ。僕だけの物…」
"愛してる"って、言われた気がした。言葉ではなくて、心で。
私は本当に、知らないままで、良いのかな?
わかんない。わかんないから…明るく元気に笑う事にしよう!
「お仕事だ!お迎えに行きますか?」
「そろそろ、ですね。」
抱っこのままで瞬間移動が私達のお決まりです。
お爺さんが一人、縁側でお昼寝中。
あと数分で寿命が来る。
台所には娘さんかな?お夕飯の支度をしてる。良かったね。きっとすぐに気付いてもらえる。
一人では、無いね。
「池田幸六さん。お迎えに上がりました。」
魂が肉体から離れて、まさおさんが幸六さんの魂に話し掛けた。
思うんだけど、大鎌だけでも仕舞えないのかな?絶対、死んだ瞬間に会ったら怖いと思う。
「お迎えかい?婆さんに会えるかな?」
「同じ場所に、お連れします。」
会えるよ、とは言わないんだね。
「よろしく頼みます。」
老衰の場合は、大抵の人は死を受け入れているから、スムーズに輪廻の輪に向かってくれる。
自殺も同じ。望んで死んでいるから、留まろうとはしない。ただ自殺の場合はたまに、思念みたいな物がその場に残ってしまう事があるみたい。本人の魂はもう無くても、想いが残る。
良い物でも、悪い物でも。
死神の担当は魂だから、それをどうこうはしないんだよね。
幸六さんも受け入れていたから、スムーズにご案内出来た。骸骨の姿が如何にもって感じなのも、実は重要なのかな?私なら天使が良いけどね!
「ねぇまさおさん?四十九日ってなぁに?」
ふと湧いた疑問。首を傾げて訪ねてみたら、まさおさんが困ってる。
「仏教は、貴女の方が詳しいでしょう?」
「知らないの?」
「……知っていますが…」
なんだか不満そうですね?
「知ってますか、まさおさん。直前の私は無宗教です。」
腰に手を当てて、胸を張って言い切ってやった。
苦く笑ったまさおさん。手を伸ばして、また私を抱き寄せる。私は抵抗せず、彼の腕におさまった。
「宗派によって色々らしいですが…死んでから生まれ代わるまでの期間だったり、生きている側が心の整理を付ける為の期間だったり…と、考えられているようです。」
「ふむふむ。だからすぐにご案内で問題無いの?」
「まぁ、そうですね。たまに拘りがある魂だと、多少の要望は聞いたりします。」
「どんな?」
「………色々です。」
面倒臭くなったな?
まさおさんは意外と面倒臭がりだ。でもごめん、まだ質問があるんだ。
「どうしてまさおさんは日本が担当?」
死神の担当、国でも別れてるんだ。生者の宗教的理由でご案内や説得方法が異なるから、面倒が無いように別れてるっぽい。
私の知ってるまさおさんは、日本人じゃない。だから、聞いてみた。
「……貴女を探す為ですよ、アリーシャ。」
「私が、日本以外で生まれ変わっちゃう事は考えなかった?」
「考えませんでした。"約束"でしたから。」
憶えていないけれど、あなたとの約束。守れたのなら、良かった。
「ねぇまさおさん!死神はお酒飲みたくならないの?」
「なりませんね。」
「お、この料理うまそうだなぁ。とかは?」
「なりませんね。」
「性欲は?」
「な!ない、です…」
「でも照れるよね?キス好きだよね?」
「それは、なんというか…」
「私の身体ってどう?霊体だけど、抱き締めたら柔らかい?」
「…………………。」
「答えなきゃまた逃げる。」
「……柔らかいし、良い香りです。」
「そんな気がするって感じ?」
「恐らく、そうなのでしょうね。」
過去の私があなたに悲しみを植え付けたのなら、これからの私が、あなたに安らぎを与えたい。
骸骨で大鎌抱えた死神さん。
不思議ともう、恐怖は感じない。むしろ止め処無く湧いて溢れそうになるのは、愛しさだ。
魂の記憶による物もあると思う。だけど十分あなたは魅力的な骸骨ですよ、まさおさん。
ホネホネの腕に包まれて、私は笑う。
表情の無いあなたも、微笑んでる。
未来永劫、私達はもう、離れない。




