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朧月学園、濃度100%  作者: 濃霧 水雲
一章 正直疲れる
3/3

妹襲来

翌日。


いつもより量の多い朝食を胃に流し込みながら、私はいつもの朝番組を見ていた。

あの日は結局「魚が焦げたことによっておかずが無くなる。」という事態が起こり、晩御飯はただの白米となった。

その時の母さんと言ったら、某倍返しドラマで見たような土下座をするものだからなだめるのに私が必死になっていた。

その為今朝は「昨日はごめんね。」といつものトーストにホイップクリーム付きのプリンがプラスされた。


良いお母さんなのか、ドジなお母さんなのか。時々私はこの人が分からなくなる時がある。


「あ、慧子ちゃん。そういえばねー」


シンプルにバターだけ塗られたトーストを頬張る手を止める。

母さんは「えへへー」と照れ臭そうに頭を掻きながら、テーブルにあったレモン味のキャンディを口に入れる。


……まさか、昨日の予想が当たっているのではないのだろうか。


私が昨日勝手に立てた「未来予想図」を半分確信するなか、母さんはまだ気味の悪い笑顔を浮かべていた。


「「あのさー」」


徐に口を開くと母さんと声が被ってしまう。

私が「母さんから先に。」というと、「ありがとー」と一礼して話し始めた。


「いやー昨日言い忘れてたんだけどね?実は今日親戚の子が来るんだよ。

いつまでいるか分からないけど、居候することになるからさ。宜しく!!」




は?




「どうしてそんな重大な事言わなかったのさ!!」

「だだだだって!昨日慧子ちゃんの良い知らせがあったじゃない。そ、それで……」


肝心のその知らせは、今世紀一番の摩訶不思議なお知らせですけどね!という喉まで出かかった言葉を飲み込む。

母さんは素直に「合格事件」を喜んでいるのだ。「本当は受験なんてしていない。」なんて言って困らせてはいけないだろう。


「それにしても、何で急に?」

「私の従兄弟なんだけどね。父母共々外国に仕事に行かなくちゃならなくなっちゃって……

いつ帰ってくるかもわからないらしいから、それまで面倒を見る人が必要な訳なの。」

「大丈夫なの?家計苦しいでしょ。」

「大丈夫だよー私最近昇格したし!」


得意げに胸を張る母。正直、この人の大丈夫はまるで当てにならない。


「と、とにかく!今日来るから!十二時半位に!

それまでに私はK○C買ってくるから、慧子ちゃん宜しくね!!」

「ちょ、ちょっと!!」


まだ八時だぞ!?という私のツッコミは母さんには届かず、母さんは逃げるように家を飛び出していった。

KF○を買いに行くって……あそこの開店時間は十時だった気がする。二時間も待とうと言うのか。

それに、私は鶏肉があまり好きではない。それは母さんも熟知しているだろう。


「……自由過ぎんだろ。あの人。」


母に対する「呆れた独り言」を呟いて、私は残りのトーストを口に全部押し込んだ。

まろやかなバターの風味が口で溶けてゆく。うーん、これは最高!

朝は米派ではなくパン派の私はこの一時が堪らなく大好きだなのだ。これさえあれば毎日生きていける。


しかし、そんな至福の時は


―ピーンポーン


という、古時計の鐘を彷彿させるレトロな音によって邪魔される。


「こんな時間に誰だよ……」


午前八時なんて、普通はお父さんがと○ダネ!などの朝番組を見ながら仕事に行く準備している時間帯だろう。

うちは『父さんがいない+母さんが休日+春休み』だからいいものの普通だったら迷惑する時間だぞ。


私は朝食(至福の時)を邪魔されて少々苛立ちながらもすぐさま玄関に向かった。

口の中に残っているパンの欠片かけらをそのまま丸のみ(本当は良くない)して、いつもキーキーうるさいドアに手を掛けた


「はーい。」


ドアを開けると、そこには自分より一回り小さいくらいの女の子が立っていた。

有名なねずみのキャラクターをあしらったシャツに、ごくごく普通のシンプルなジーパン。

丸目で若干アヒル口気味。黒髪ロングの前髪ぱっつん。「美少女」という言葉で片付けてしまうには惜しいような程に清楚さをかもし出している。

だが、そんな彼女を表現する言葉は正直私には思い浮かばないので、やっぱり「美少女」としか言いようがない。


「どちら様ですか?」


こんな女の子、私の知り合いに居ただろうか。

普段から年下と絡む機会が少ない為に、同じ小学校出身だったとしても知らない子が多い。


「あの、今日からお世話になる凛堂雪りんどうゆきと申します。

もしかして、野上慧子さんですか?」



―高校入学直前。私に美少女の家族が出来ました。



なんて突飛なお話なんでしょうか。



 *


「……」

「……」


……母さん。私は母さんを恨むよ。


なにが、「十二時半に!」だ。四時間半も早いじゃないか。

陰様かげさまでこの沈黙。完全に気まずいムードだ。私の額からは冷や汗がダラダラ流れている。

今知り合ったばっかりのこれから家族になる少女に掛ける言葉なんて、私には何一つ出てこない。

大体そんなポンポン良い言葉が出てくるような工場ではないのだ。この頭は。


「あ、あの。」


そんな気分を察してか、凛堂が(苗字呼びって何か変)口を開く。

なんだ、私よりは良い対人スキルを持っているではないか。


「沙織おばさんは何処へ?」

「母さんならKF○買ってくるってついさっき飛び出していったよ。」

「そうですか。」

「う、うん。」

「……」

「……」


気まずっ!!さっきよりも気まずくなったぞ!?なんなんだこの空気、私か?私が悪いのか!?

こんな空気で何を話せと言うんだ。頼むから凛堂(苗字呼びって何だか変)もう一回喋ってくれ。もう一回だけでいいから。

「妹」なんぞにトラウマさえなけりゃ、私だってこんなコミュ障みたいにオドオドしなくて済むのに!


ああ、母さん。元々美人だが今この気まずいムードの中に「ごめーん!K○Cまだ開いてなかったー!」と来てくれたなら。

私は一週間母さんのことを「救いの女神様」として崇拝すうはいしよう。しないけど。


そんな私の願いが通じたのか、玄関のドアをガチャガチャ開ける音がする。


「KF○……開いてなかった。」


まさに(´・ω・`)をリアルにしたような顔で母さんが俯きながらリビングに入ってくる。

母さんの姿を視界にとらえた凛堂が「こんにちは。」と、きっちりしたお辞儀をする。


「あ、あれ?」


なんで雪ちゃんがここにいるの?と続ける。十二時半に来ると言っていた相手が何時間も早く来て、焦っているのだろう。

私にとっては母さんが来てくれただけでとても嬉しいのだが。


「予定よりも少し早まってしまって……申し訳ございません。」

「……ああ!いいのよ!大丈夫だから。」


心配そうに私の方を見る母さん。

大丈夫です。貴女の予想していた通り私は何も話せませんでした。とにっこり皮肉な笑顔で私が伝える。


すると、親子というのは凄いもので母さんは目を逸らしながら引きつった笑みを浮かべた。

テレパシーか何かで通じているのだろうか。その割には残念なことに好みなどが通じていないようだが。


「と、ととにかく!自由に使ってね雪ちゃん!!ほら、慧子ちゃんも!

お姉ちゃんって呼んでもいいのよ!?何年になるか分からないけど、よろしくねー!」


母さんは無理矢理私の抱き寄せて、私の格好がお辞儀になるように頭をわしゃわしゃして無理矢理押さえつけた。

随分と汚れたフローリングが視界に映り込む。もう見飽きたと言っていいほど何年も見ているものだ。

床の少し先には白っぽい布のようなものが見える。本当に着飾らないなこの少女は。


「よろしくお願いします。沙織おばさん。お姉ちゃん。」



―上から降ってきた『お姉ちゃん』という単語は、確かに私の事を指していた。

やたらK○Cを連呼する回。

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