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第八章

火曜日、俺は美鈴の反対を押し切って家を出た。

そして再び草薙とタッグを組む機会に見舞われた。ラッキーだった。

「やぁ先輩」

「おう。今日も頼むぜ」

本当は坂本が来るはずだったのだが親があれから平日の外出は禁止したのだという。厳しいなぁ。今日の待ち合わせ場所ははなさんの家だ。俺は一足先にはなさんの家に行き、はなさんに包帯を変えてもらっていたりした。とても幸せだった。

「学君痛いところありませんか」

「ええ、全然ありませんよ。いたっ」

「大丈夫?」

「いいえ、平気ですよ」

いやー困った顔をかわいいなぁ。

はなさんの持っている救急箱はとても大きかった。保健室の先生が持っているくらい大きい。

「こんなのどこで?」

「あ、これですか。おかしよね」

はなさんがふと遠くを見るように視線を上げ、

「友達がね、いつも傷ばっかり作るのよ。まったく困った困った」

そう言ってはなさんは笑った。疲れがにじんでいた。

「その人今どこに?」

「今も連絡するよ。凄いいい人でね。凄い仲がいいんだ。でももう会えないかも…」

「なぜ」

「わかんない。変なこと言っちゃったね。ごめん」

治療を終え、はなさんは遠くを眺めていた。

時間通りに草薙がやってきて、俺たちは出発した。


「はなさん。すごくいい人」

「ああ。ホントだよな」

草薙が珍しく微笑んだ。

俺は人気が少なくなったのを見計らって素早くスーツを着る。

背中に刺した拳銃の存在を確かめるように触る。

今日の狩場は別の場所だった。

公園と少しの林がある場所だった。俺たちの始まりの事件と類似したその場所に俺は少し期待をしていた。

草薙が居るからだろうか、俺は少し興奮していた。

しかし逆にもし草薙が襲い掛かってきたら…そう考えるとぞっとした。

俺はどうすればいいかわからなかった。

「ここですね。あ、いますね」

草薙が腰を低くして目を細める。この前のような不良丸出しではないが不良の一歩手前のような連中が数人集まっていた。

「多いな…行けるか?」

「ええ、時期を見計らいましょう」

俺たちはぐるっと回り林の中に潜伏して時期をじっと待つことにした。

しかしそこには先客が居た。少し草が揺れたかと思うと、さっとそいつは飛び出してきた。

狂気の作戦・フェニックスに出てくる緑色の怪物。俺の目の前に現れたのはそんな奴だった。草薙は相手の位置を見極める前に倒されてしまう。

「ぐぇっ」

大きな音を立てて草薙が倒れる。草薙は胎児のように丸くなって痛みに耐えていた。

あんなに強い草薙がうずくまり痛みに耐える光景は異様だった。

そいつは俺の方をちらりと見た。輪郭がぼやけるように塗られたフェイスペイントは

まさしく異様だった。こいつが…美晴!?

草むらを器用に走り、そいつはおれに突進してきた。

俺はすぐさまエアガンを取り出し一発打ち込んだ。弾が当たったと分かる頃には俺はねじ伏せられていた。しかし俺はもう一発撃食らわせた。次は2発あてろ、そう言われないように。俺はそこで気を失った。

目が覚めると、草薙を探した。草薙は痛みに苦しんでいることからそこまで時間は経っていないらしい。俺はスーツを脱ぎ、草薙を連れて帰途に就いた。

不良はもういなくなっていた。


「そうか…そんなことが」

木曜日、俺はスタバでこっそり二宮と会っていた。

「お前なんか思うところはあるか?」

「そうだね。草薙さんはなんかあやしいと思っていたんだが、そうか」

「あいつを使えば多分犯行は可能だ。あいつの意思ではなく他の人物に従って動いているのかも」

「人形のように…かい?」

「ああ」

「すると、それはどんな奴だと?」

「俺はこんなこと考えたくもないが、美晴を名乗る人物は内部。つまり俺たちの中にいるんじゃないかと思うんだ」

俺は二宮の反応が見たくて、爆弾発言をしてみた。

「実は俺もそう思うんだ」

二宮から帰ってきた答えが予想外で俺がびっくりした。

「ここだから訊くが、お前は誰が犯人だと?」

「吉井はなお。だろうね」

俺は驚いた。俺が考えもしなかった答えだった。

「なぜだ…」

「彼女の救急用具を見たかい?ふつうあんなにそろっている物を普通の人が持っているとは思えない」

「確かに…」

「彼女であれば、草薙を動かし、彼女の傷をいやすこともできる。そうは思わないか?」

「まさか…そんな」

「いや。可能性の話さ」

二宮は小さく微笑んだ。

「なぁ、この前不良にいじめられていた子がいじめがなくなって元気になったのを見たんだ。それでもお前は、美晴を悪だと?」

「わからない…だが何があっても俺は美晴を捕えるつもりさ」

「そうか」

「そういえば、最近ミハルマンんはここじゃ有名らしいよ。良かったじゃないか」

「あ、ああ…」

俺には分からなかった。西岡君の笑顔を思い出すと、途端にわからなくなった。

俺には二宮が何でそこまで美晴の名を語るものを恨むのかわからなかった。

人物像もまるで分らないあいつを恨むなんて、二宮も何か心の闇を抱えているのだろうか。

そうに違いない。

家に帰ると美鈴が抱き付いてきた。

「ねぇお願い。もうやめてお兄ちゃん」

俺は何も言えなかった。

「もうすこしだから」

そう言う事しかできなかった。

もう同志の団に居るのは無理そうだ。


その日に坂本に二宮の事を話すと、次の日、彼の疑惑を晴らすべく動くことになった。

「おいおい、遅いぞ」

「しょうがないでしょ部活があるんだから」

いつも通り俺たちは駅に集合していた。

むすぅとする三奈美を見てコイツも表情豊かだなぁなどと思いながら待ち合わせ場所に向かった。俺は三奈美に辞めることを伝えるべく来たのでもあった。

「次はだれと会うんだ?」

「美里が紹介してくれた二宮君の幼馴染」

「美里?」

「ああ、橘のことよ。あいつと仲いいらしいよ」

「へぇ…それでほんとに判んのかな…」

「協力者はいることにこしたことはないわ」

そう言って今度はファミレスに行った。

ファミレスは混んでいた。坂本は二宮の幼馴染を見つけると早足で席へ向かった。

本当に時間がないらしい。

「こんにちは。高野です」

「私は坂本っていいます。こっちは学」

高野さんは眼鏡をかけたおしとやかそうな女の子だった。

「あの直樹の事で何かって…?」

「実はあたしたちは、この前起きた不良の暴行事件の犯人を捜しているの」

「それで…」

眼鏡の奥で瞳が戸惑って揺れる。

「二宮君が最近少しおかしいのよね。だから何かあなたが知らないかなぁと思って」

「直樹は何もおかしくないですよ」

「高野さん。二宮君は今犯人もしくはそれと密接な関係を持つものとして疑われています。二宮君の疑いが晴れると思って、なんでもいいのでお願いします」

俺の必死の思いが伝わったのか高野が重い口を開いた。

「直樹最近部活を休んだり、夜遅くに出かけたりと確かに変なところはあります。でも…」

「それはいつごろなの?」

「そうですね…少なくとも、あの事件のあとですね」

「すいません。失礼なんですが二宮ってなんか変わった過去をお持ちではないでしょうか」

俺の質問に高野がびくっとした。

これはあるな…。

「お願いします。二宮の疑いを晴らすためです。口外しませんよ」

「わかりました」

言葉を区切って高野は続けた。

「直樹の父親は冤罪で刑務所に入れられてしまったんです。それで生活が苦しかったらしいです。それだけです」

高野は強く言い放った。

「すいません。最後に一つ、いいですか?」

俺は失礼と分かっていながら訊いてしまった。

「何でしょう」

高野の瞳に怒りの感情を感じた。

「美晴という人物を知っていますか?」

高野は急に恥ずかしそうにストローの包み紙を弄り始め、

「ええ、あなたの知っている人とは違うかもしれませんが、助けてもらったことがありました。それで…」

「それで…?」

高野は妙に顔を赤らめて、

「私、彼女の真似をしていました。でも喧嘩は凄く弱かったですけどね。それでよく直樹とヒーロごっこをやっていたりしました」

「そうですか。貴重な情報ありがとうございます」

俺たちはこれ以上詮索するのは悪いと思い礼を言って高野さんとは別れた。

収穫はあった。

だがもうこれで終わりだ。

「三奈美」

俺は店を出てから坂本を呼んだ。

「何よ」

「俺はもうここにはいれないんだ。家庭の事情ってやつでさ。二宮の疑いも晴れたことだし、4人で行けるからさ俺は抜けるよ」

俺は三奈美を見ることができなかった。

三奈美も途中から俺の事を見ていなかった。

「マジで言ってんの…」

「ああ…スーツも持ってきた」

俺はスーツを入れた紙袋を三奈美に持たせた。

三奈美の手からすぐに力が抜けて紙袋が落ちてしまう。

「なんで…なんでよ…」

三奈美は泣いていた。

もう勘弁してくれ。俺はうつむいて三奈美を見なかった。

「ばか…もう知らない…」

そう言って三奈美は去って行った。

俺は何もできずにその場に立ちすくんでいた。



家に帰ると美鈴が居た。

美鈴はびっくりするくらい暗い声で、

「やっぱり。いれこんでるんでしょ…美晴に」

「違う…もう抜けてきた」

「違わない。学はいつもお姉ちゃんばっかり見てるんだ。ずっとそう。私を見てくれない」

近所の事など気にせず美鈴は叫んだ。

「大っ嫌い。」

「美鈴、俺はもうやめた…だからもうやめてくれ」

「いやだ…」

美鈴は泣き出していた。俺は彼女をそっと抱きしめた。

今はそれくらいしかできなかった。

「お願いもうやめて…」

俺は美鈴の瞳を直視できなかった。

「だからもうぬけたんだよっ…」

俺は悲鳴を上げた。

美鈴が離れていく。

「本当?」

「ああ…本当だ、今日からべったり、ミーちゃんとべったりだ。

もうあいつらとは関わらない。二度と会わない」

ぼとっ、誰もいないはずの通路に何かが落ちる音が響いた。

「ああ、じゃあ久しぶりに飯でもどうだ、もちろん家でさ」

おいしいの作るよー、さっきの表情が嘘のように美鈴がキッチンにつく。

外から殺した泣き声が聞こえる

俺は食材を取に行くふりをして、玄関に行った。

そこにはさぅさっき別れたはずの三奈美が居た。

三奈美の泣き顔が一瞬見える。

声をかけようとする前に、三奈美は走って去っていた。

紙袋が倒れてスーツが飛び出していた。

俺はそれを直すことなく、部屋に戻った。

あいつらの事を忘れるの少し残念だな…

胸が痛んだ。

ふと俺が思い浮かべていたのは、いつもうっとおしいと思っていた強気で勝気のあいつの顔だった。


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