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第三章

ファミレスで集合と言う事だったので予定より少し早く来ると、先にはなおが来ていた。

「あ、はやいですね」

「いや、菊地君も早いよ」

とどこかよそよしい会話をしていると、坂本が来たのでファミレスに入ると俺はあることに気が付いた。

一人増えている。

「この子の名前は草薙環くさなぎたまき、この子も美晴と同調した「同志」の一人」

坂本がやる気のなさそうに紹介する。

草薙と言う奴は妙に無表情だった。中性的な顔立ちを短い髪が覆っている。服装も中性的だ。

「アイスコーヒを」

と注文する声もアルトで判断できない。印象的なのは数秒に一回前髪を気にするところだ。

そのせいで目が隠れてしまっていて見えない。

注文が一通り来ると、坂本が話し出した。

「今日皆を呼んだのは私の学校に美晴を知っている、というより何か因縁のある子を見つけたからです」

いまいち話の趣旨がわからなかった俺は小さく手を上げ、

「それで、その人も「同志」にするのか?それとも別の意図が?」

「私たちがやろうとしているのは後者よ」

坂本が少し目を細めた。

「別の意図とは?」

少し戸惑い気味にはなおが聞いた。俺もそうだが、彼女も同志を増やすのだと思ったのだろう。

「あの宣言以来、美晴はあたし達に何も連絡を取ってこないわ。でも、あの事件の内容を見るとどうも、食い違いがあると思うのよね」

「食い違いとは?」

答えが気になったのか、はなおが体を前のめりにして聞いた。

「美晴はあたし達と同世代でしょ、それにしては手口が巧妙すぎると思ったのよ。それで、もし犯人が美晴の名を語っているだけの全くの別人だったらこまるから」

「こまるから?」

訊いて、俺は思わず目を細める。坂本は一体何を考えているんだ…

「まずはこの犯人が美晴だと仮定して、あたし達の知らない美晴の性格とか行動がないかを徹底的に調べて判断しようと思うの」

「つまり、美晴は俺たちの知らないところで手練れの殺人鬼の顔を持っていたかもしれないと仮定して、それを探ろうってことか?」

「そういうことよ」

一瞬、草薙が目を細めて俺を見た、顔からは表情が読み取れない。

「と言うことで、今日はみんなの知っている美晴の人物像やエピソードをこのノートに箇条書きにしていきます」

と、坂本は小さなカバンから一冊のノートを取り出した。

「つまり俺たちの記憶で美晴の人物像を一通り作り上げていくわけか。その因縁のある子も含めて」

「そうなるわね」

「それは…恥ずかしい記憶もですか…」

顔を少し赤くしてはなおが言う。

「そうよ。私は一通り書いてきたから皆で書こうと思うの。互いの事も知りながらね。で、それが終わったら聞き込みを開始するの。」

そう言って坂本が皆を見渡した。

「さぁまずは、はなおちゃんから、それ以外の「同志」は各自親睦を深めるために、雑談と行きましょう」

なんだよ同志って、せめて団員とかにしろよ。

もじもじしながらペンを動かしているいるかと思えば、

「みっみないでくださいよぉ」

と、坂本がノートを覗き込んではなおが叫んだ。

「どれどれ…へぇ…」

とノートを見てサドスティックな笑いを浮かべる坂本。

俺はその光景をぼんやり眺めていたが、隣がやけに静かなのに気が付いて、ふと横を見ると草薙が机を眺めて静かにしている。

「や、やぁ君も、同志かい?」

俺はストローの包み紙をいじくっていた草薙に話しかけてみる。

草薙は何だか俺の事を睨むようにして見て、

「うん。「同志」。美晴に世話になった」

声からすっぽりと感情の類が抜け落ちていた。表情も変わっていない。

「坂本さんとは、高校の友達?」

「うん、友達の友達…らしい…」

最後の方は声が小さくて聞こえなかったのだが、気にしないで、

俺は特に聞く事もなかったので適当に、

「そうなんだ、えーと…、好きな食べ物とかは?」

長い時間考えて、ようやく草薙が

「…特にないかな」

「ま…そうだよね…俺もそういわれるとないし…なんかごめん」

俺が謝った頃には草薙は窓の外を見て、俺の話なんぞ全く耳に入ってない様子だった。

草薙の横顔は少し悲しげで、人間味が感じられないような美しさをたたえていた。

隣で騒いでいた二人が静かになったのでふとそちらを見ると、はなおは泣きべそをかいたような顔をしていた。手にノートはない。

ノートを握っていたのは坂本の方で、

「へぇーだいぶ相違点があるわね」

とまじまじ見ていた。

ちょっぴり涙を流してはなおが、

「そんなに見ないで下さいよぉ」

坂本は、はなおを無視して、

「それじゃ、つぎは菊地くんね。よろしく」

坂本がノートをよこしてくるのと同時にはなおが俺の隣に座ってきた。

「学君…」

はなおが、うるうるとした目でこちらを見てきた、その姿はまるで子犬のようだ。

「だ…大丈夫ですよ。はなおさん俺はまじまじ見たりしませんって…」

言いながらも、これは見るために書いたんだし、しっかり見ないと意味ないだろ…と俺は自分の見たい欲求を肯定的に装飾していた。

「はなおさん、近いです…」

「そうですか…でも…」

悲しそうにはなおが顔を少しだけ遠ざける。

本当はこのままでも良かったのだが、はなおの甘い息が肌に当たると理性が滅入るので離れてもらった。

「終わったよ、坂本さん」

俺は嘘をついた。あの事件の事を書いていない。

「次は環ね」

草薙はまるでノートを始めて見るかのようにじっと見てから書き始め、すぐ終わった。

「じゃあ終わりね、それじゃあ適当に雑談して帰りましょう」

言った坂本はノートを開いて読み始める。

俺はさっき環にした質問をはなおに投げかけてみた。

はなおはもじもじして、ごにょごにょ自分の好きなものを言った。

「今…なんて?」

はなおが初めてむっとして、赤くなり、

「やきいもです…」

「ああ…」

はなおにとっては大胆告白だったのだろうが、別に驚きもしなかった。

しかし、俺はその答えを利用して、はなおを少しいじめることにした。

「それじゃあ…おならとか…」

言い終える前にはっとした。俺は緊張の裏返しで、千歳や美鈴としゃべっているつもりで話してしまっていた。

「あ、あの・・・わたしの家、猫飼ってるんですけど、それがかわいいんですけど、たまにいなくなって、で汚れて帰ってきて、それがくさ…じゃないや…」

はなおがいきなり早口で話し始めて、びっくりした。さっきの失言をカバーしようというか、無しにしてしまおうとしたつもりだろうが、答えを出してしまった。

「あああ…あの…えっと」

あたふたしているはなおはかわいかった。

「ね、猫を飼っているんですか。へ、へぇーそりゃすごいなぁ…」

妙な雰囲気が二人の間に漂い、会話がたどたどしくなってしまう。

そうして数分があっという間に過ぎ、解散ということになった。

別れる時、はなおは元気がなかった。もしかしたら嫌われたかもしれない、と思うと気分が沈んだ。こうして俺たち「同志」の初ミーティングは終わった。


帰ると美鈴が飛びついて来た。

「おにーちゃんおかえりっ!」

「ごめん今そういう気分じゃな…」

言い終わってから自分の失言に気が付く。あの苦い思い出が蘇る。

美鈴はうなだれて、

「ごめん…そうだよね。もう中学生だしね」

「いや…違うんだ。ごめん」

「いや、別に怒ってないよ。じゃあたし帰るから」

止める俺を無視して美鈴は帰ってしまった。

またやってしまった。俺は沈んだ気持ちでその日の残りを過ごした。


誰かがずっと俺の手を握っていてくれた。小さくて弱くて幼い、そんな感触のする手が強く握っている。俺は何も言えない。握ってくれている誰かも見ようとしない。そんな俺の態度にがっかりしたのか手を握ってくれている誰かは泣いていた。

俺はそれを無視した。

誰かが急にこちらを向いた。顔はぼんやりとしてわからなかったのだが、それが急に鮮明になる。美鈴だ。幼いころの美鈴。眼には大粒の涙があふれている。

「お兄ちゃんの馬鹿ぁ!」

目が覚める。あたりを見回ると当然誰もいない。息が荒く、汗をびっしょりかいていた。のどがカラカラだった。

ふらふらとベッドから立ち上がり、俺は洗面所で顔を洗った。

嫌な夢だ。思い出したくないことの詰まった爆弾だ。

夢のせいか昨日の続きか気分が悪かった。

「ああ…学校めんど…」

俺は重い足取りで台所へ向かった。


はなさん、多分怒ってるだろうな…。俺は授業の内容を聞き流しながら、はなさんの事を考えていた。登校の時、彼女の姿を見たときは凄いびっくりしたものだ。ひどく疲れている様子だった。まさか、俺のせい…じゃないよな。そんな事を考えながら、授業を終え、昼飯の時間携帯を見ると、誰かからメールが来ていた。

メールははなさんからの物だった。俺は急いでそれを開くと。かわいらしい絵文字で装飾されたこんな旨の文章が書いてあった。

今日、放課後相談したいことがあるので、私の都合で申し訳ないですが6時半過ぎに校門に来てください。

俺はてっきりはなさんを怒らせてしまったと思っていたので、一気に有頂天になった。

放課後、俺は部費やら部活の道具の費用を出す人が居ないので、部活には入っていない。

いわゆる帰宅部と言うやつだ。対してはなさんは部活があるらしい、時間からして運動部だろう。俺のアパートは学校の近くなので、一度戻って荷物を置いて適当に6時あたりに家を出ることにした。

「ごめん、ごめん遅くなっちゃった」

と言いつつも、別にはなさんは遅れてないし、俺はあいまいな笑みを返すしかなかった。

また変なこと言っちゃうと大変だからな。

俺は愛想笑いを顔に張り付けたまま、

「それで、なんの相談ですか?」

「あの、実は変なことなんですがいいですか?」

はなさんはテニスラケットと思われる黒い物体を担いでいた。急いで来たのか髪も縛ったままだ。

「ええ、いいですよ」

「ありがとう。じゃあ…家まで来てもらえますか?」

「え」

俺の思考は一瞬停止してしまう。そんないきなり家!?そりゃ俺だって小遣いは少ないからファミレスとかは勘弁してほしいけど、いきなり家ってのは大胆だなぁ。どうでもいい思考を巡らせていると、

「どうしたの、学君?」

と少し歩き始めていた、はなさんが振り返る。

「あっやっぱり…」

そう言ってはなさんは少し赤くなった。そうだよね、こんな俺でも意識はするよね。もしかして俺がムラムラして襲ってきたら…と。まぁそんな度胸はないのだけれど。

「いえ、だ…大丈夫でしょ」

何が大丈夫なのか俺にもわからない。

「そ…そうですよね。わたしったら」

この会話のせいで二人の間にまた妙な雰囲気が漂ってしまった。

「あ…あのはなさんってテニス部なんですか?」

この雰囲気をどうにかせねばと俺が訊いた。

「うん。テニス部」

「練習…大変なんだ」

「学君は部活何なの?」

俺はその答えに一瞬迷ってしまう。

「俺、両親居なくて叔父の金で暮らしてるんで、部活は駄目なんです。金銭的に」

「そうなんだ…ごめん変なこと聞いちゃって」

はなが目を伏せた。

「いいんだ。別にやりたい部活もないしね」

「じゃあ一人暮らしなんだ?」

「そうなりますね…」

そうでないと言えばそうでないが。

「じゃあ寂しかったりするんだ?」

少し悲しそうに微笑んではなさんが訊いてきた。

「いや…ええまぁ」

俺は千歳と美鈴のことを切笑みするのが面倒だったので、つい嘘をついてしまった。

「じゃあ家は賑やかで楽しいからご飯でも食べていかない?」

「いえ…申し訳ないですし、いいですよ」

家もなんだかんだで十分賑やかなんで、とは言えない。

「遠慮しなくていいのに、いいから食べていってよ」

「それじゃあ、ありがたくいただいていこうかな」

はなさんが断れないムードを出していたので、俺は飯をいただいていくことにした。


はなさんの家はイメージと違って古風でデカかった。

俺のイメージではクリーム色の今風の家だったのだが…そんなことはどうでもいいか。

「さ、入って」

「お、お邪魔します」

入ると木の匂いがした。

「はなちゃんおかえり」

奥からエプロンをつけた老女が出てきて、柔らかく微笑んだ。

「あれまぁ…」

柔らかい笑みは俺を見るたび吹き飛んで、

「はなちゃん…もしかして」

と老女は嬉しそうな顔ではなに訊いてきた。

「ち、違うよ。友達の学君だよ」

友達と言われてショックなような嬉しいような気持ちに俺は襲われた。

「ささ、入って」

目を細めて笑うさまは優しさであふれていた。

廊下をわたって、居間らしき部屋に入ると、低いテーブルに一人の老年男性が座っていた。

「おっはなおかえ…こ、こいつ…じゃねえこの人は…」

老年男性は皺の刻まれた強面を歪めて、老女に訊いた。

老女は微笑んでごまかした。

「まさかお前さん…はなおのこれか?」

と本人は真面目な顔で、小指を立てた。

「違いますよ。ま、本当のところはわかりませんけどね」

老女が悪戯っぽく言った。意外におちゃめな人らしい。

「ささ、そんなところに突っ立ってないで、座りなさいな」

「すいません」

俺が頭を下げると、

「いいのいいの、お客さんが来るのも楽しいじゃない」

老女は朗らかに微笑んだ。

「それに二階に行かせたら、何をやりだすかわからねぇしな」

老年男性はそう言って豪快に笑いだした。

「お、おじいちゃんもおばあちゃんもいい加減にしてよ!」

老女は、はなおを無視して、

「ごめんなさいね。この人、昔からこんなんなのよ」

肩をすくめた。はなおはむすっとして自分の部屋だろう二階に行ってしまう。

「おらぁは、はなおのじいちゃんで、そっちの皺くちゃ婆さんはばあちゃんだ」

また豪快に笑う。

はなさんの祖母は台所から茶碗を持ってきてくれて、

「聞こえてますよ」

と、はなおの祖父をぎろりとにらんだ。豪快な笑いが一瞬途絶えた気がした。

「それで、お前さんは」

はなおの祖父が訊いてきた。

「あ、自己紹介が遅れました。私、はなおさんと同じ学校の菊地学と申します」

「ほお、はなおとはどういう成り立ちで?」

「学君とは委員会が同じなの」

着替えてきた、はなおが下りてきて嘘をついた。

「え…ええそうなんです」

俺も仕方なく同調する。友達じゃなかったっけ…設定変わってるよ、はなさん…

俺の横に座ったはなさんはかわいらしかった。

着ている服はよそよそしい格好ではなく家着というかんじだ。

「ささ、食べなさいな」

俺ははなおの祖母に礼を言って、ご飯を頂くことにした。

「いただきます」

「こいつの飯うめえだろ。こいつ飯だけはうまいんだ」

はなおの祖父が控えめに笑った。

「どんどん食べてね。あ、そうだ、はなちゃん。今日早苗はおそくなるって」

「そっか…」

楽しそうにしていたはなさんが一瞬悲しそうな顔をした。

俺がぽかんとした顔をしていると、はなさんの祖父母が、

「この子の母親、看護師でね。いつも帰りが遅いのよ」

父親はどうしたのだろう。そう思いながらも、俺にはなぜかわかった。

長年、両親の不在を問われてきた俺には分かる、この独特の雰囲気が。

「このかぼちゃおいしいですね」

煮物をほおばりながら言うと、はなさんの祖母は嬉しそうに微笑んで、

「どんどん食べてね」

ひとまずこの雰囲気をなくせたかと思うとほっとした。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、俺とはなさんは茶碗洗いの手伝いを終わらせてから二階に上がった。

はなさんの部屋の前にはかわいらしく「はなお」というプレートが付けられていた。

心臓の音がうるさいくらいに俺は緊張した。女の人の部屋に入ったことがないわけではないのだが、ガサツな義理姉かきっちりしすぎた義理妹の物しか見たことのない俺にとっては初めてのようなものだ。

「ささ、入って」

「お邪魔します」

はなさんの部屋に入ると、世界が変わったような気がした。

今まで古風な屋敷に居たような気がしたのが一気にメルヘンの世界に入ってしまったよう。

大小沢山のぬいぐるみがたくさん置いてある綺麗な部屋だった。

部屋の奥にはたくさんの写真が置いてあった。そういうものがない俺にとっては珍しくて、うらやましかった。

「家族の写真。わたしの家お父さん居ないんだ」

はなさんが何の感情もこもっていない声で呟いた。

「寂しくないのかい?」

「昔は少しね、お母さんの帰りも遅かったから。でも今は全然寂しくないんだ」

「優しい二人だね」

そう言って、俺は自分自身の思い出したくない記憶をよみがえらせてしまった気がする。

親族にたらいまわしにされた俺。幼いころに大人に汚さを見た俺。

「学君」

はなおに呼ばれて、我に返る。

「え、あ、ごめん。少し考え事しちゃって」

「ねぇ、もし寂しかったらいつでも来ていいからね」

「…ありがとう。ありがとう」

それ以外の言葉が出なかった。

一瞬、はなおが美晴に見えた。

「あ、それで相談したいこととは?」

はなおは、ほとんど忘れていたという様子だった。

「ごめん忘れてた」

照れながら携帯電話を操作して、ある動画を開いた。

「まずはこれを見てほしいの」

その声は真剣さを帯びていた。

それはュースの討論の映像だった。

「あれ、俺これ見たことあるよ」

それは前に似たニュースの映像だった。

「そっか、じゃあ話が早いね」

言葉を切って、はなさんが真面目な顔で訊いてきた。

「ねぇ学君。この事件の犯人って正義だと思う?悪だと思う」

「えっ?」

あまりにもはなさんには似つかわしくない話題だったので俺は思わず驚いてしまう。

正義なんて、クソと一緒だよ。俺はそんな言葉を少し信じながらも、正義と言うものを捨てきれずにいた。漫画や映画、ニュースを見ながらたまに考えてしまう。コイツのやっていることは正義なのか、悪なのか。クラスメイトですらそういう目で見てしまうことがある。

「正直言うと、俺はあれが美晴の名を語ってなきゃ、悪だと思うし、法的には裁かれるべき行為だ」

「やっぱりそうだよね…」

はなおさんは悲しげに頷いた。

「でも、もしあれが本当に美晴で、不良を懲らしめるためにやったのなら、それは正義なのかもしれない…でも」

「でも…?」

「どんなに悪いやつが相手だったとしても、暴力は最終手段だよ。少なくともこの国ではね」

やっぱりか、そんな言葉が聞こえてくるように、はなさんはうなだれた。

「ねぇ、もしだよ。もし、私たちの前に美晴が現れたら、彼女を止める?」

「わからない。でも暴力は止めるよ」

「絶対?」

「ああ」

「そっか。そうだよね。やっぱり暴力は駄目だよね…」

「そうさ。暴力は駄目だ。俺はてっきり美晴はそれを知っていたと思っていたのに…」

「やっぱり別人…?」

「わからない。今のところは」

強張っていたはなさんの顔が柔らかく微笑み、

「ありがとう」

「いいや…俺だってご飯まで頂いたんだから、こんなことは当たり前だよ。それで、まだ相談ごとはあるの?」

「いや…もうないかな。ありがとう」

「こちらこそありがとう、とても楽しかったよ。二人にお礼言わなきゃ」

俺はそのあと二人にお礼を言った、二人はいつでも来ていいと言ってくれた。暖かい家庭だ。

「じゃあね。はなさん」

「アドバイスありがとう。一人で帰れる?」

「うん。意外とここから家近いし」

「「今日はありがとう。気を付けて帰ってね」

「じゃあまたね」

「また来てね」

「うん」

少し歩いて、俺は振り向くと、はなさんが家に入っていくところだった。

なぜか悲しさを感じさせる背中だった。


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