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八方ふさがりで、開かずの扉。会長の申し出。

前世のあらすじ。

おそらくその終わりは高校生だったと思う。ランドセル時代を終えて、二種類目の制服に手を通したあたりだったから。ブレザーからセーラー。リボンをしてたからきっと女子生徒。高校生から先は記憶がない。死んだのかもしれないし、私の記憶力じゃそこから先の人生を転生後まで覚えてられなかっただけかも。名前は…曖昧で思い出せないが、多分今と同じくらいありふれた佐藤とか田中とかいう名前だったのだろう。高校時代までの科目の知識は薄くあるが、それは現世で得たものと混同しているだけかもしれない。まぁ、もう勉強で評価される時代もそういう機会もないのだから、あっても意味がないが。

そんなあやふやな私だが、数々の乙女ゲームの内容は覚えている。それが私の趣味で、生きがいだったから。ネット小説で乙女ゲーム転生を読むことが趣味の今の自分と大して変わっていない。

では、前世を踏まえて前回のあらすじ。

乙女ゲーム『神様もみてる』に転生しました。『神様もみてる』は私の好きなゲームだった。現世の母校、私立神薙学園高等部を舞台としているゲームだ。八百万の神々に愛された家とそれを支える旧家が存在する学園。無論そんな特異な方々は一部で、私は何も知らない一般人だった。よく器物破損が起こったり急に中庭の草が伸びる停電する等怪奇事象が起きたりする学校だったが、それはうまいこと隠されていた。詳しく語ると長くなるのでカットする。乙女ゲーム転生をした私は、ところがどっこい、気づいたときにはゲームは既にエンディングを迎えており、主人公と攻略キャラである会長は入籍秒読み、攻略キャラである副会長は結婚済みということが判明して、絶望した次第です。本当に前世の知識あっても意味がない。

「……ちなみに、会計の神風(かみかぜ)先輩は?」

平凡な容姿の神風先輩。

過去にあった出来事のせいで風の神に愛され愛されまくって病的に保護されまくっている彼が、少しでも感情を乱すと風の神様や精霊たちが総動員でそれを排除しようとするのだ。学校では、感情を動かさないように人と関わらず、目立たないように生きてきた。関わるとすれば同じく神に愛される一部の生徒。それも一般生徒のひがみを受けないように彼らの目が届かない生徒会室のみ。

寂しく窮屈な彼は、容姿に関係なく生徒会メンバーに平等に扱い、しつこいまでに彼を一人にしない主人公に惹かれていった。現実じゃ、生徒会の中で彼は一番人気なかったけど、それでも一途に愛美さんを想って頑張って生徒会メンバーと競っている姿は好感が持てた。愛美さんとくっついてほしい人物第一位は彼だったし。平凡×美少女×純情ラブストーリー。

「あいつは世界各地を巡ってるよ。写真家として有名になってきてるところだ」

「神風先輩の写真には、見えないはずの風が見えるの。私一枚もらったんだけど、すごく空気が澄んでいて、つんとした匂いや肌にしみる感覚が分かるの!」

世界を巡るなんて、高等部在籍中ならありえないことだ。

心を動かさない彼が、他人との関係をこばんでいた彼が、旅をしているということが。

「……じゃあ、筆記兼補佐の映神(えいしん)兄弟は?」

美術部所属の二人は双子。自分が感じた美しさや心象風景を水鏡のように絵に写す力があった。だが、二人は何者かにある日絵を売られる。その次の作品も、また次も。高額で売られ、それが何者か分からない。尊敬する美術部の先生か、同じ部活の仲間か、学校内の誰しもが可能性がある。疑心暗鬼、不安、怒り、悲しみが募り、絵はどんどん醜いものになっていく。犯人を捜し、彼らの心と尊厳を守るサスペンス系ラブストーリー。

「二人とも今大学生だが、卒業したら結婚したいらしい」

「相手も双子ちゃんなんだって!美術品の鑑定士さんと映像広告の会社員さん。すごいよね」

アンビリーバボー。

「あと大和先生はね、数学の及川先生覚えてる?あの人が気になってるみたいー」

「大和は俺たちより年上なんだから早く結婚した方がいいだろ」

「そ、そう」

「うーん、それで」

「もういいです……皆様、お幸せなんですね……」

お腹いっぱい。胸いっぱい。

前回に加えて分かったことは、皆様幸せになっていますということ。いよいよ私の前世知識は意味がないということ。


というか、攻略キャラが攻略不可なんて、なんて……!




現実(リアル)なんてクソゲーだああぁああああ!!



そこから先は猛烈に飲んだ。飲みまくった。

飲んだ勢いで途中

「具合が悪いので、明日と明後日お休みさせていただきます」

と上司に電話し、

「私だって恋愛してみたいんです。でも、出来ないのは何でなのかな?実は異性じゃなく、同性が恋愛対象なの?愛美さん、どうしたら」

「え?えっ?え?」

「佐藤、落ち着け!そして愛美を離せ近寄るな!」

「愛美さんのこと…私、高校のときからきれいだなって、思ってたんだ……でも近くで見ると、ずっと、きれい……」

「りんご、ちゃん……」

「おいー!!!!」


そこから先は記憶が、ない。







朝の目覚めはなかなか爽快だった。言いたいことを全て言ったように。夢のように、神様に浄化されたかのようにすがすがしかった。

目の前にはその神様がいる。既に力を失った神様。神様の愛を一身に受けながらも、自分自身の考えを貫いて別の愛を選んだ神様の愛の化身であり、抜け殻。

白いかんばせとその中央にすっと通っている鼻、長いまつげとふっくらとしたまぶたに秘められた群青の瞳は嗜虐的にも優しくも光ることを私は知っている。薄く開いたカーテンからは朝の陽射しが導かれ、彼の漆黒の髪を温かく照らした。淡い桜色の唇から溢れる吐息が、私にわずかに残っていた目覚めの気だるさをすくいとり――


ええ、目が覚めました。神宮寺恭輔会長サマのお顔が、寝ている私の前に横たわっておりますね。一緒のベッドに横たわっておりますね。朝チュン?朝チュンなの?今も攻略可能なの?フラグも何もないと思うんだけど?

確かにNTRも好きだが、現実のNTRはちょっと。


停止しそうな頭を必死に動かして思考を手放さないようにしていると、腰に回されている腕が私を抱きなおした。そのまま後ろに引き寄せられる。


え?そこまでいくと私……

って、待って。


前に会長がいるのに、後ろに引き寄せられるとはこれいかに?

機械仕掛けになったような首をカクカクと小刻みに動かして背後を見ると、

眠りを吹き飛ばす、少女と女性のラインを綱渡りしているようなド迫力の美しさがあった。部屋の隅に2袋に分けられたお酒の缶と小奇麗に整理された部屋。ダブルベッドには会長と愛美さんと私。全員が悩ましいラインまで胸元を緩め、愛美さんのスカートは見えるか見えないかの黄金ゾーンで揺らめき、会長はその手を蠱惑げにシーツに絡ませている。川の字のセンターに抜擢された私は、手も足も出せず、


3P?いや、私の言っちゃいけないデリケートゾーンは少しも痛くないし突破されてない。

20歳ごろまで光り輝く『処女』という価値ある称号は徐々に重くなり、私の枷となっているが、今はあって良かった。


等と考えていたのであった。



会長と愛美さんが目を覚まし、昨日私が泥酔して愛美さんを襲い、それを会長が止め、「男には多分興味が持てないんですよ!愛美さんお願いします!私に新たな扉を!」と私がぬかそうが止め、「愛美さんならイケる!為せば成る!為さねば成らぬ何事も!」と血走った眼で私が愛美さんとベッドインしようが止め、必死に寝かしつけ、そのまま疲れて全員でベッドの上で就寝したと聞くまで、考えは止まらなかった。思考停止。

だが、会長の更なる一声で、私の脳は再びフル回転で考えることを再開し、バーストしそうになるのであった。




「佐藤、お前に男を紹介しよう」

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