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何もしなかった私と進まない話。飲酒は言葉の潤滑剤。

転生の醍醐味はあらかじめ持っている知識や体験を使って、前世より『うまい生き方』をすることだと思う。

この際新しい体で異世界に転生していたとか、死んで赤ん坊からやり直すとか、トラックに轢かれたと思ったら見知らぬ土地にいたとか、リスタートの手段は関係なかろう。重要なのは、その世界が自分の知識・体験を活用できる場であるということ。地球の料理の知識を使って、ちょっと変わった料理屋を開いて成功する。地球の商品や技術、商法を用いて、各地を巡る商人をする。勉強の重要性を知っているので幼少期から勉学に励み、優秀な人材となる。幼いころから言葉を理解する能力があり、天才と呼ばれる。農業等の体験から異世界で農地改革をする。経営の体験から領地改革をする。等等。


挙げればきりがない。


その中でも乙女ゲーム転生というのは『うまい生き方』の出来る最大の転生法ではないだろうか。


前述したとおり、転生の特典で『うまい生き方』は出来る。経済的にも勉学的にも身分的にも効率的にも。だが、そこに足りないもの。たいてい転生してもうまくいかない、自分で動かなければならないものがある。

それが、恋愛である。

どんなに人生勝ち組でも、恋愛はその転生先で体験して『あの天才も、人らしいところがあったものね。恋愛にごとには不器用なんだから』ってな具合で言われる、そんなパターンが多い。@佐藤苹果統計。

乙女ゲーム転生は、その恋愛の要素までも前世知識でカバー出来るのだ。自分の好きな人間を好きにさせる方法を知っている。

恋愛は難しく、非常にエネルギーが要るというのは昨今どころか昔昔からの鉄板である。その一方で、それだけの労力を費やしても構わないほどの価値があるのだ。だから、人は恋をすることを厭わない。フランスのスタンダールなんかは、『情熱をもって恋したことのない人間は、人生の半分、それも美しいほうの半分が隠されている』とか言ってる。うっせぇ、お前は黙って人妻とのNTR(ネトリ)小説でも書いてろ特殊性癖野郎、と言いたくもなるが、ネット小説なんかで擬似的に味わう恋愛ですら甘美なのだ。悔しいしむかっ腹も立つがスタンダール、認めてやろう。恋愛とは素晴らしいものだな。私もNTRものは大好物です。でも純情ものの方がもっと好きです。


ともあれ、色々語ってしまったが、始めっからこう言っておけば良かった。





乙女ゲーム転生こそが、乙女にとって至上最高の幸せ!




そして、もう一言。



幸せを見過ごしてた私の大馬鹿野郎!!





「りんごちゃん…飲みすぎじゃない?」

いえす、しー・いず・めがみ。

目の前にいる少女、葛城愛美の輪郭がぼやけております。ぼやけていても美少女だと分かるのが怖い。私の脳内認識に視覚というツールを通さず直接リンクされる美しさ。

「……ぼやけているのは酔っているからです」

うむ。怒った顔もイケる。そなたは美しい。

「黙れりんごちゃん」

心の中のボケまでつっこみを入れられるとは何というハイスペック。そもそも愛美という名をつけた親御さんブラボー。まるで成長した愛らしく美しい娘の姿を見てから名付けたみたいにピッタリな名前だ。まさかあなたの親御さんは未来人か。

いや、この美しさは地上の神秘だ。だとすれば宇宙人?それとも…この中に、宇宙人、未来人、異世界人がいたら、あたしのところに来なさい

「以上」

台詞のちょっとした改変に皆さんはお気づきでしょうか。それよりも。

「――葛城さんって心読めるんですかね?もしかして妖怪サトリ」

「りんごちゃんが全部口に出しているだけです」

「あと、愛美は立派な地球人だ。…酔いすぎだな」

あらら、話に割って入った方もまた地球人を超越した美しさで――


「「だから、二人とも地球人だって」」


今は(・・)普通の地球人か。ちょっとからかいすぎたな。


息が合ったユニゾンを聞いたところでおふざけは終わりにしよう。そして、紹介タイム。

先ほど完璧に同タイミングでツッコミをした彼らは婚約を間近に控えたカップルである。このカップルは私の高校の同級生であり、本日からこのマンションに越してきた隣人である。そして今更思い出した私の前世の知識を活用して加筆するのであれば、彼らは私立神薙学園高等部を舞台とした乙女ゲーム『神様もみてる』の主人公と攻略キャラクターなのである。通称『神みて』。私はゲーム内の彼らが好きだった。

……現実の神薙学園では彼らと話したことないけどね!ゲーム主人公の葛城さんとは会ったとしても事務的な会話とか挨拶だったし、生徒会メンバーにいたってはどなたとも話したことない。攻略キャラで話したのって、かろうじて担任の先生くらい?挨拶と授業と三者面談ってことで。

ゲームの距離感と変わらなかったよ。住む世界が違う人たちだった。

しかし現在。

私のことを呆れたような目で見て、語りかけて、笑いかけてくれる会長と編入生は、完全に、ゲームじゃない。

それに二人の親密な様子から、ここは現実で肝心のゲーム部分からもう5年経っていると思わされた。

5年の月日は長いと見たらいいのだろうか。

「地球人(仮)の二人が5年の間に愛を深め、結婚しようというのだから、5年って長いのかねぇ」

「…りんごちゃん、『愛美』って呼んでよ」

「佐藤。俺のことは『恭輔』以外ならどう呼んでもいいぞ。まぁ、名字で呼ぶと、これから『神宮寺さん』になる愛美とかぶるけどな」

「き、恭輔…!」

あー、始まったぞ。引っ越しと再会の縁で我が家に御二方をご招待させてもらった――普段なら『ありえないぞこんなの私じゃないお前宇宙人か!』とノンブレスで断言できる行為である。他人を自分のテリトリー内に入れるという自殺行為をしたのはひとえに彼らが乙女ゲームの主人公組で、エンディング後のキャラクターに興味があったからだ――が、何度この展開に砂糖を吐きそうになったか。佐藤なだけに。泥酔しているだけに。

大量に空いた缶ビールと葛城さん用のジュースの匂いが先ほどから気になるのは、飲みすぎている証拠だ。甘いのと苦いの。

一通り葛城さんで遊んだ会長が私のことを思い出したかのように見た。葛城さんには嗜虐的エロチシズムな眼差しを向けていた彼は、今は例えるならばおもしろグッズ試用品に向けるような目である。試してみたらどうなるんだろう、楽しいに違いない、みたいな。

「これで甘いとか言っていたら神居(かむい)たちとは会ってられないぞ」

えてして会長の言った言葉は、それだけではすぐには理解できませんでした。私の理解能力なめんな。神居というのは確か副会長のはずでしたが、はて?どういうことだってばよ。

「神居くんとゆかりちゃんって本当に仲良いよね」

第二ヒントは女神から。

ゆかりちゃんとは、家柄のみで選ばれた副会長の婚約者でありながらも、会長に恋する乙女だ。

副会長の神居くんは全てにおいて自分より勝っており、婚約者の心までもが会長にあると気づいていて、非常にツンケンした態度で会長に接していた。だが、主人公の存在で人と他人を比べる自分からの脱却し、会長と和解。婚約者を会長と張り合うための物差しにしていた自分に気づく。周囲の関係が改善する中で主人公に恋した副会長は、自分が婚約者のことを愛していると誤解している主人公に猛烈アピール。しかし、会長も、副会長との仲を取り持ってくれた主人公を気にし始めて――築いた友情と愛情の絡み合う四角関係ラブストーリー。

……じゃなかったっけ?

「お二人が言うことをまとめると、副会長と婚約者さんがお付き合いしているように聞こえるのですが」

副会長と婚約者はゲーム内では、お互いの恋愛を応援する良き友人だったはず。

くっつくなんてありえないカップリングであるが、まさか。

「ああ、佐藤は知らなかったろうが、あの二人」

会長が目の前の缶ビールをあおる。グラスワインが似合いそうなものだが、我が家にそのようなものはない。本当に申し訳ない。




「結婚したんだよ」




申し訳ないついでに、あなた方にのどちんこ晒してもいいですか。

開いた口がふさがりませんので。

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