予定調和 第二章
所変われば品変わり、人も環境も変わる。
ただし、時代が異なれば常識だって変わって来る。
古いもの、新しいもの。
どちらが良いとも限らない。
ただ、どちらも良いな愛がある。と言う、だけ。
世の中には「規則」が存在する。
例え、それを知らない人や起源を知らない人から見て理不尽だと嘆かれたとしても守らなければならない。そして守らなくても大丈夫だと思い込んでしまうもの。
たまに違うのもあるが、大体において定められた規則と言うのは必要だから生み出されるものが多い……時には、本当に「なんで?」と言いたくなるものが存在するのが。
まあ、そこはそれ。
「大人の事情」と言う便利な言葉で括っておけば問題は少ないだろう……ないとは言わないが。
御子とは、異なる世界から突然現れた存在である。
まず、侍女が悲鳴を上げた。
上級職である女官ならともかく、侍女は身の回りの世話こそするが、簡単ではあるが貴族や客人と直接出会う事など欠片もない下女ほど地位が低いわけではなく。さりとて王族や御子などと言った高位の人々に平気で相対できるわけではない。
そもそも、侍女はほとんどが少し生活が安定していて収入がきちんと存在し、周囲における風評が決して突出しているわけでもなく悪評は当然存在しない家の娘さんがなるものだ。ちなみに、これが男性だと文官や武官、騎士団や魔法士団に入団する事になる。
ちなみに、武官と騎士団は所属の違いだったりするが両者の仲は決して悪いわけではない。お互いの領域さえ勝手に踏み込んで争ったりしなければ、仕事上がりに一杯呑みに行く事だって普通だ。
文官と侍女と女官は仕事内容が異なる……侍女は上級職の人々の身の回りの世話をし、文官はメインの書類仕事が基本で女官は文官の補佐的な立場だ。いずれは女官の中で男性顔負けの者が出てくるかもしれないが、未だ女官制度が生まれて片手の数で足りる程度の時期では先の話と言って良いだろう。下女や下男は説明するまでもないだろう。
次に女官が頭を抱えた。
女官は、制度が確立して数年と言う期間ではあるものの。この国では最も名誉と位の高い職と言っても過言ではなく。彼女達に言わせれば、中級以上の貴族で実力のある者しかなる事は出来ないが。実力さえあれば下女から始めなくてはならないと言う貴族の女性にはいっそ侮辱であると抗議されてもおかしくはない、しかし他に女官になる事は出来ないと言う、誇りある職業だ。
最初のメンバーこそ最初から女官になったし、中級以上の貴族の。生まれてから人に膝を折られて頭を下げられてきた彼女達が洗濯や調理、庭掃除や家畜の世話などを行い。常ならば煌びやかな世界に生きてきたと言うのに使用人専用の暗くて狭い通路しか使えず、と言った生活を送ってきた貴族のお嬢様達にしてみれば根性が座るが為に実力はお墨付きで。決して大きな赤ん坊の後始末をする為の存在ではない……ミカの傍若無人で厚顔無恥、ものを言われても反省せずに若い男に色目を使うと言う評価を下すのに時間は掛からなかった。
続いて、下女達が恐慌状態になった。
この国の身分制度は非常時と異常時を除けば明確に区分されており、上位者からの許可がなければ更なる上位者からの命令があろうと言う事を聞かなくても良いと言うのが不文律である。下女達の上位者であるまとめ役の上級下女からの許しもなく、御子様の部屋に入ったり視界に入ったり、あまつさえ食べ物を恵んで貰ったりお話し相手になるなどと言った言動は言語道断だ。
無論、中には心中で小躍りするほど喜びまくったり明日からの生活が改善される事を夢想した者とて一人や二人ではないけれど。今の所、今日まで下女だったものが突然侍女として取り立てられたという話は聞いた事がない。
加えて、大体において下女や下男と言った存在は基本的に生活の安定と少しの向上を求めるのが通常で野心などと言った大層なものは持たないのが普通だ。昨今では女官狙いの女性は若干増えた様ではあるが、さりとて長い時間をかけて国全体に掛けられた男尊女卑の呪い……女王はそう評し、払拭する為には下の者の意識を改革する必要があると言って女官制度に下女を組み込んだ。
下男の場合は実力や功績によっては文官や武官への道が開けない事はないが、それでも男女の区別はなく「今より悪くならなければいいじゃないか」と言う者が大半だったりする。
だが、ミカの出現で彼ら彼女らは己の立場を大きく揺るがされる事となる。
身分制度など欠片も存在せず……ミカ本人は下にも置かぬ風にも当たる事のない生活を送っていたらしいと会話の端々から判ったけれど、傍若無人に振舞う事が赦された生活を送ってきたミカは、やはりこちらの世界にあっても傍若無人でしかなかったと言う事が判明したのだ。
それらの結果、貴族の奥方やご令嬢、王女殿下達に女王陛下にまで話が行ったのは長い時間はかからなかった。
この国は男女同権が基本であり、国は異なるがいとこ同士であった国王と女王は分権している。
ミカの扱いは本来は神殿預かりだが、ミカの希望と第一王子の後押しのせいで城内に留まっているので基本は女王側の管轄となっている……当然、王子の扱いは国王の管轄となっているが、最近は枠組みがかなり踏み荒らされていると言う事で議会でも話題になっている。
これに難色を示したのは大臣職と上位貴族と一般人からなる議会……この国の政治は王政と議会制の分権制度を持った半民主主義を掲げている。一見すると貴族主義からすれば国家転覆的な意味で危険に見えるがより綿密な情報を行き来させると言う意味では理想的に近いと言うのが、国内での評価だ。
ただし、戦などの緊急時はその限りではないけれど……専門分野の知識や決断が必要な場合において、権力者が掃いて捨てるほど存在しても話は進まないと言う事だ。
でも、今は即時決断が必要な状況ではない事と、ミカと王子とその他の人々の思惑により問題は拡大の一歩を辿っていた。
けれど、本当の問題はそこではなく。
どちらかと言えば、ミカ一人が傍若無人であるが故の混乱であると言うのが大多数の意見だったりするが。
実際の所を言えば、風の噂的に「そんな昔からある法律がいつまでも通用すると思ってるのってどうなの?」と言う意見もあったりするのだが……それについては、案外黙殺されていたりする。
無論、その傍若無人さを赦してしまった周囲も。状況を理解する事を放棄したミカ自身も、誰もが問題を抱えていたりするという現実があったりするのだが。
とかく、規則とはそんな感じで。
好かれる事は基本ないけれど、嫌われるかと言えば微妙なラインに存在するもの。
だったりする。
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事件が起きたのは、とある日だった。
何時かと問われたら「いつでもあるが、いつでもない。今日であり明日であり、されど昨日ではない日」としか言い様が無いくらいの、とある日だ。
あえて言う事が出来る事があるとすれば、その日は。
誰かにとって始まりであり、終わり。
誰かにとって構築であり、破壊。
誰かにとって終焉であり、降臨。
そう言っても、良いのかもしれない。
少なくとも、それは始まりであり終わりであり、一つの区切りである。
権力も財力も遠く及ばない、それこそ神の奇跡の御業の前に矮小なる一個人が何をどう抗う事が出来るだろうか?
例え、神の御子として人々に認識されている存在であり。神自身が御子であると認められたものとして神殿からお墨付きを貰ったミカが相手であったとしても、ましてやミカは固定の信者を持ってはいるが国が全面的な協力をするわけでもなく。加えて、国家が仮に背後にあったとしてもミカの信者はほんの一握りにすぎないと言うのに。
続く
まだまだ話が前哨で申し訳ありません。
以前はこの話を100文字×100…足りない、4000まで引き上げましたが前後編で収まらない。無理。
そう思った過去もありました…




