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予定調和 第十一章

年末に向けて更新の行進、まずは第一弾行きます。

「別に構いませんよ、すでにミカと神との契約終了の申し出は受理されてますから」


 言うと、枝織はふいに片手を持ち上げる。

 と、そのまま手を下ろした。


「終わりました」

「もう、でございますか?」


 エリンが目を丸くするというのは珍しいものではあるが、枝織には特に興味を引かれるわけではないのだろう。

 これが全く関係のない他人事で外側から見ていられるのであれば楽しいイベントであっただろうが、当事者である以上は笑い事では済まされない。

 この場合、笑っていられるのは涙が滲んでるマーシャと。状況を理解しきれていないながらも、せせら笑ってるエリン、お咎めを喰らっていない唯一の騎士団長の三人が上げられる。


「第一級神官様、恐れ入りますがよろしいでしょうか?」


 枝織はこの世界において、一般的にはシリーと呼ばれている。

 何故かは知らないが、枝織が知る限り飛ばされた世界ではいずれも日本人の名前や発音と言ったものを上手く出来ない人が多い。それでいて、こちらの言語は固有名詞を除けばきちんと翻訳されている。と言うより、飛ばされた先の世界に存在しない「概念」では音がそのまま聞こえると言った所だろうか? だから、不思議と言えば不思議……話が逸れたが、わざわざ現役騎士団長が名前や通り名ではなく役職名で呼んだのだから何か思う所があると言う事は理解出来る。ないかも知れないとは、思わなくもない。

 単に枝織と言う名前が発音出来なかっただけ……と言う可能性については、王命により第一王子と召喚された御子の護衛と言う本人にとっても不本意な状況に少なくはない時間を強制させられた彼の誇りにかけて、否定しておこう。こっそりと。


「……何か用ですか、騎士団長?」


 神殿預かりの存在の場合、世俗の身分制度に捕らわれる必要はない。

 枝織も、ミカも本来は同様だ。二人には権力的な後ろ盾と言うものが「物理的」には存在しない……枝織には神殿全体と言う存在が、ミカには元第一王子及び下僕共と言う存在が居るが、かと言って彼らには枝織やミカに従い保護する義務も責任もない……本来ならば。

 まあ、神殿でそれなりどころか結構な立ち位置を築き上げた枝織にしてみれば、ちょっとやそっと喧嘩を吹っかけられても自力で何とか出来る要素は存在する。それがミカとの違いだ。

 かと言って、所詮中身は人類にすぎないので居丈高になる必要はない。無用の敵を作る必要はないのだから。

 声をかけられるとは思って居なかったらしく、枝織は反応が僅かに遅れたが素知らぬ顔をする。

 呼ばれ慣れていないから、と言う話については思い切り明後日の彼方へ投げ飛ばして置く。


「少々マーシャ殿とお話がございまして、先に退席をさせていただきたいのですが」

「それは……私ではなくエリン殿に言うべき事ではありませんか?」


 この場において、絶対的な立場の上下で言うのならば枝織だろうが、王族から勅命を受けたのはエリンだ。

 権力と言う意味で言えば王家と一派は女王の縁戚関係にあるマーシャを見つけ出し、保護し、女王に知らせ、送り届け、その後においても世界の命運を分ける事態やミカの出現の予言をした枝織への信頼度は高い。場合によっては、枝織が勝手な事をしても「ある程度の事態」まではエリンも「おや、今何かございましたでしょうか?」的に仕方がないとばかりに目を瞑るだろう。

 もっとも、枝織は「面倒くさいから余計な事はしたくない」と言いきっているので可能性としては高くはない。

 ちらりと枝織がエリンを見つめると、エリンは鷹揚に頷いた。


「騎士団長様、この方々の後始末に騎士団の力をお借りしたく思います」


 全身で、正面から騎士団長に向き合ったエリンの言動は心の底から本気だ。

 残念ながら、対する騎士団長としてはエリンや枝織、部屋全体に薄く引き延ばされている気の様なものは存在しても、濃度や密度で言えばマーシャを中心としているあたり残念感が漂ってきて仕方がない。

 一応……将来性などを踏まえて、侍女や女官や下女から絶大な人気を持つ、今をときめく騎士団長としては残念でたまらないと言うべきか悩む。


「彼ら程度ならば、特別に拘束するわけでもなく騎士を使う必要があるとも思えないが?」


 マーシャには頭の回転が届かず、エリンは何となくそうかなと思い、枝織は知っている。

 騎士団所属の騎士を使うと、騎士団長である彼自身が動かなければならずに面倒だから嫌がっているのだと言う事を!


「なに、そう何日もかかるわけではありません。

 まずは近衛に王宮から外宮まで皆さんを出していただいてから引き継ぐ、と言う事でいかがでしょう?

 この様な事となったからには、これから男手も何かとご入用でしょう……彼らも仕事を放り出してまで心を寄せた方々の手足となるには喜ばれる筈。今すぐに対応をさせていただきたく思います」

「それは、正式な手順を踏んだ上で彼らを王宮から送り出すと言う事ですね……と言う事は、法を踏まえると言うつもりですか?」

「まさか……その場合ですと、マーシャ殿を犯罪に関わった者として晒さなければならい事になります。

 王家の皆々様は、それはそれはマーシャ殿の心の傷を憂いておられます……その様な行為、断じて赦されるものではございません」


 きらりとエリンの瞳が光を帯びて、殺気すら漏れ出しているのを感じる。

 複雑な事情から王家の人々にも覚えが目出度いマーシャの存在は、すでに色々な意味で王家から正式に侘びを申し出るレベルの話にまでなっている。マーシャ自身はすっかり意気消沈している関係で、今にも落ちる花の様だと王太子第三王女などに言わせると儚さを覚えると言うが。

 そんな複雑に事情が絡み合っているマーシャにまだ何か言うのかと、エリンの目つきが鋭くなると言うのも無理からぬ話であり。


「いえ、その様な事は誰よりも私が赦せない事となりますが……。

 確かに、今の言葉は私の失言でした。お許し下さい」


 この国では、その地域で行われた犯罪は大きければ大きいほど犯罪に関わった関係者は練り歩き晒されると言う事が起きる。被害者は顔を隠す事が赦されるが、加害者は顔を晒す事により当人及び一族郎党、関係者は王家の力を示す道具だったりお互いを監視する事で再犯や犯罪の感染拡大を封じる意味合いを持つ。

 特に、犯罪当事者である加害者は現場及び故郷で晒される事が通例で、本来ならば王宮で解雇されるほどの言動……仕事をサボってミカに懸想していた事ではなく、元第一王子に組み敷かれ謀反を企んだとされた者としては厳しく外宮、城下町、当事者それぞれの故郷で拘束の上引き回されるのが通例だ。被害者は馬や馬車に乗る。

 だが、今回の場合はミカを王宮からも神殿からも外して多数の処罰者を出すと言う事になれば民から不審がられる事も可能性として捨てきれない。よって、彼らは辞職扱いとされる。

 実際には、こんな数十人にも渡る奴らをいちいち処罰しているのも面倒くさくなったと言うのもあるが、それは言わない方が良いだろう。


「騎士団長様、お話と言うのはここで伺うわけにはまいりませんか?」

「マーシャ殿……」

「私は、私の意志で今この場におります。

 この事態を引き起こした原因の一つは、私にもあると思っています……」

「そんな事は……!」

「お聞き下さい。

 ですから、私はこの様な無様な姿を隠す事もなく。ミカ様を慕われておいでになる皆様の行く末を、見定めたいと思っております。

 騎士団長様、なにとぞ私の我侭をかなえてはいただけませんでしょうか?」



続く


まとめて複数予約投稿って出来ないものですかねえ?

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