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予定調和 第九章

世の中は視覚で補える情報量は物凄く優先順位が高い。

五感と言うだけあって、世の中には視覚の他に沢山あって目で情報を補っているから結果的に目で見たもので脳みそは騙される傾向にある場合がある。

試しに、目隠しをしてから自分自身以外の誰かに天然100%のジュースと人工甘味料のジュースを用意して貰って。どちらがどちらなのかを知らないままで飲んでみよう。もしかしたら、両方とも同じ様な味に感じるかも知れないし、全く違うかも知れない。


パッケージングと言うのは、とても大切だったりするのである。

 男性側の意見からすれば「こんなに可愛いのに男っ? いや、でもまだ事実かどうかは……」などと無駄な妄想にふけっているものが大半であり。女性陣側の意見からすると「物の道理がわかってないと思ったら、こう言う事だったのかあ……目が眩んだ男ども、ざまあ!」と言う所だろうか?

 幸か不幸か、この室内に居る者の中には男の娘と湾曲に言ってるだけの女装趣味とかオカマとか性同一性障害と言う言葉はないのだろうと枝織は思う。思うだけで口にしなければ説明を求められる事がないのは、この数十年で学んだ事だ。

 故に、十中八九の確信を持って枝織の語った言葉のうちほとんどが理解不能な単語で埋め尽くされていただろうに。その事について誰も疑問を持つ事もなく放心状態……疑問を持つ前に理解不能と言う脳内停止状態になっているのだから無理もない。だが、結果的に枝織にとって都合の良い展開になっているのは確かだ。後になって誰かに聞かれる事もあるかも知れないが……それまでには、枝織に対しての「意味不明な存在としての神官」から別の評価へと変わる事だろう。

 沈黙は金、とはよく言ったものである。

 とは言っても、あくまでも枝織の視界で反応する人達を心情的に解釈してみただけの話。

 それもミカが実佳だった頃の話で一度死んでおり。現在は、別に女装した男ではなく体の作りも構造的にしっかり女性ではある……かも知れない。子供を製造出来る機能があるかどうかまで枝織は聞いていないが、そんなものは当事者の問題で枝織が関わるべき問題ではないと言う事で脳内の懸案事項から削除する。

 神はそのあたりを率先して言おうとしなかった事と、ミカも率先して聞こうとは思わなかったと言うのがこの話の事実だ。故に枝織はミカの身体構造については全く知らない。ミカ本人だって知らない、6歳のベッドの住人だった男の子に難しい医学用語や生物学的な用語を理解する機会は無かったとは言わないが認識くらいで終わったと言うのもあるし、それよりもピンクとレースとドレープとお化粧と装飾品とドレスとお姫様に御執心だったからだ。

 でも、それを責める必要はないだろうと枝織は想う。

 それは、同情かもしれないし別の感情かも知れないが……。

 単に、それだけの話だ。

 これから先に、進める話を止める意志も理由も事情にもならない。


「さて……私はこれから三つの事を行う為に神殿から出てきました」


 しばしの合間をもって―――周囲の人々が再起動するまで待ったのは。枝織の言葉を理解出来て貰わなければ勝手に事を進めたと言われるのが億劫だからであって他にこれと言った理由はないのだが。それでも、枝織は口を開いた。静かに。

 それは厳粛的な神殿にあって、確かに数十年を過ごした上級神官と言われても遜色のない言葉。

 声は高く、少女の様……枝織の自己申告が確かならば中身は中年か壮年と言う年頃のはずだが子供と言われても納得してしまう姿をしている。

 言葉とて、特に難しい事を言っているわけではない。

 ただ、そこにはあっただけだ。


「一つ、ミカから植木の遺伝子を抜き取る事」


 仕草もそうだが、シリーの言動は特にこれと言っておかしな事ではない。

 そこにあったのは、単なる威厳と呼べるものだっただけだ。


「遺伝子と言っても意味不明だろうから簡単に言うけど、人の体の中にある血液に含まれる成分の一部及び形作っている物質。人それぞれによって異なるけれど、親から子に脈々と受け継がれる物質でもある。それによって、人は顔形や体質が似たような感じになるんだけど……これは本来はミカの体の中にあるべきものではなかったから、事故の後始末的な意味があるわけ。すでにミカは元の世界に帰らないと神に宣言しているから同時に御子としての能力を放棄する名目と同じ意味を持つんだけど、これは周辺諸国へミカを使って牽制を行わないって言う。この国の宣言でもあるから当然よね。その為の西の領地だし。

 ああ、国王と女王と王太子には最初に話を通してあるから。神殿の勝手な意向ではないからね。

 もっとも、別にそのあたりを何とかして貰おうと思って彼女を用意したわけじゃないんだけど……まあ、それはともかく」


 半ば独り言に近い状態になるのは、恐らく枝織の癖なのだろう。

 未だ扉付近に居たエリンを含めた一行ではあるが、その脇をすり抜けて枝織は客間の応接セットまで進み。

 座った。

 本来の行儀からすれば、部屋の主……この場合はミカの招きがあるわけでもなく押しかけ、あまつさえ勝手に室内をうろつきソファに座って寛いでいるのだから大変お行儀が悪いと窘められても当然だが、神殿預かりの者で上級である場合はその限りではない。特に、第一級神官ともなれば世界の代表者であり場合によっては一国の王如きに指図される(いわ)れは無い……それでも、必要最低限の礼儀は必要だと思われるが。

 実際、もし彼ら……ミカの一種信者と呼ぶに相応しい彼らが正気を保っていたとしたら貴族関係の者達は睨みつけたり怒鳴りつけたかも知れない。神殿関係者でも複雑な気持ちを内包しながら他の者達に追随して文句を投げつけたかも知れない。

 もっとも、その彼らは今現在において半ば放心状態だ。騙そうと思えばチョロイにも程があるだろう……恐らく。


 故に、普段ならば私生活ならばともかく礼儀には大変五月蠅いエリンは口を出すべきかどうか瞬時に迷い、口をつぐむ事を選んだ。


 枝織が第一級神官である事を疑う余地は、幸か不幸かない。

 国王や女王にとっては幸いかも知れないし一部女性達にもとってもそうだろう……しかし、これから起きる事を思えばミカの信者にとっては不幸だと嘆く事は想像に難くない。

 まず、室内に居た神殿関係者は軒並み顔色を悪くさせていたと言うものが一つ。これには元第一王子などは気が付かなかったが、元魔法士団長や騎士団長には理解出来ているのだろう。特にこれと言った反応がないと言う事は、偽者だと口にしない時点で判りきっている。


「二つ、ミカをこの世界に定着させる事。

 これはミカが無駄かつ中途半端にこの世界の人々を振り回して、あげく何人もの女性を泣かせた後始末。

 それにしても……貴方達もこれから大変よね、ミカにうつつを抜かしていた件が王家を通して実家にバレたから、婚約者の女性の実家は怒って婚約破棄を申し出た為に色々な政略がパア。その責任を取れって、貴方達はほとんど実家から勘当されている……もう聞いた人も居るみたいね。ミカに(すが)るしか手段が無くなった人もいるんじゃない?」


 言われて、心当たりのあるものとないものとでは表情が全く異なる。

 とは言っても、大なり小なり心当たりは誰にでもあるのだろう……真っ青になっているか真っ白になっているかの差でしかない。

 すでに左遷を言い渡されてる者は態度がふてぶてしいが、現実として受け入れられる様になるのは、むしろこれから先だろう。

 誰にだって各々の物語(ドラマ)があるだろうし、それを見てみたいと思った者はいたりいなかったりするが……それは別の話である。


「王家にしても、ミカにうつつを抜かしていた為に仕事を放棄した為に下男からやり直すか城から立ち去れって言ってるし。仕事が出来てもやらない奴と、仕事が出来ないけど頑張ってる奴は全然違うものね、

 これでミカと一緒に西の領地へ旅立つのも有りよね、無理に押しかけてブチ切れられたら行く所なくなっちゃうね。まあ、だとしても……それが楽な道になるかどうかは知らないし興味もないけれど……言っておくけど、神殿には来るなら来ても良いけど全員叩き出す様に指示してあるから心積りして置いてね。楽しみだわあ」


 にっこりと向けられた微笑は、実際の所を言えば目が笑っていない。

 口角は上げているし、こちらを見つめている。順々にミカの信者の顔を見つめている様はどちらかと言えば『手前ぇらの(ツラぁ)忘れねえからな』と物語っている様に見える。

 そうなのかと勇気ある者が聞けば「嫌だなあ、そんなわけないじゃない。そんなつもりだったら全員まとめて面倒みちゃうわよ」と口にした。どうやって信じたら良いのか、答えられる者は存在しない。




続く


世の中には感覚の一つが他の感覚より優れている人も居れば逆の場合もあるが、その場合は他の感覚が発達する傾向にあるのだそうだ。

そして、含まれない第六感…どこかではシックス・センスと呼ばれていたりする(主に英語)が、どうか怯えないで欲しい。

何故なら、五感以外で取られる、知覚する事が出来る世界は確実に存在しているに過ぎないのだから。

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