予定調和 第六章
僕達の世界は、基本的に質量保存の法則で成り立っていると言われている。
個人的解釈だと平均値に収まろうと世界が行おうとしているものだと勝手に思っている。実際には調べた事がないから判らない…と思ったけど少しだけ調べてみると「化学反応の前と後では質量は変わっていないと言う事」的な事が書いてあった。ある意味近い。
かと言って、必ずしも等価交換が適用されるとも限らないのが僕らの世界の疑問。もっとも、それは物質や現象に対して適応される物事が必ずしも同じ結果を出すわけではないからだろう。
「次、法務省の大臣は降格。武官見習いに格下げ、当分の間は騎士団寮住まいとなる関係で給料は相殺扱いですね。地位向上に努めてせいぜい死なない程度に頑張って嬲られて下さいませ」
ここで、誰かならば「BLは弊害的後遺症が大きいからおススメしないからね」と言わないのは何と言うべきなのだろうかと。己で想像しながらげんなりしてしまったりする。
個人の趣味については影響が無ければケチも文句も少ない(ないとは言わない)が、かと言って「男に襲われそうだから護身術を極めるのは丁度良いんじゃない?」などと言っても、平素ならばまだしも今の混乱中に言った所でどれだけのダメージがある事やら……。
マーシャの直属の上司でありながら、この為体を引き起こした張本人の一人であると言う認識な為に、返す返すも悔やまれてたまらなかった人物がいる。この場に居なくても、この場に居ても。
今回は大規模な人数と環境が相手だったから一人ひとりに与えるオシオキに力を入れることは出来なかった……時間もなかったし、何より一気に攻め落とさなければ気がすまなかった。
ため息を付きたいくらい、誰かにとっては手ぬるい事態だ。
でも。
「な……私は文官なのだが……」
と言うより、驚きすぎてどこから何を言えば良いのか判らない。
給料の全面削除、降格、部下の辞任に独身寮への強制引越し、大臣の解任……後は何があるかなど想像もしたくないと言う状態なのは今更だ。
法務省と言う場所柄、政治にも明るく実力も高く代々続いた権力を持ってしても今回の失態を覆すだけの理由には一切ならないだろう。特に、女王陛下と王太子第三王女殿下の直属であるエリンが出てきている次点で言い訳無用。今この場で切り捨て御免とされても文句は言えなかっただろう。
何しろ、他人の目から見れば第一王子の右腕、作戦担当頭脳労働、良心を氷で固めたのは氷の魔女の上司だけあるとか言われていたりするのだ……本人は力いっぱい否定するだろうが。
ちらりと元大臣がマーシャへ知られぬように視線を向けては見るものの、不思議と今の時点でマーシャへの怒りが沸いて来ない。マーシャがこちらを、赤く染まった目で視線を逸らさずに現実を受け入れようと、それでも必死に耐えながら見ているからかも知れないし、そうではないのかも知れない。確かに、無表情が基本設定のマーシャを見慣れている身の上からすれば、大変めずらしい現象であるのは否定出来ないが。
自業自得……そんな言葉が沸いてきたのはあるが、かと言って他にどうすれば良かったのかと正直。エリンに詰め寄って詰りたい気持ちはある。怒りの部分ではなく、さりとて感情が伴っていないと言うわけでもなく。
ただし、そんな事をした日には即座に「義務を怠り仕事を放棄した分際で処分されない事に対する返礼、しかと頂戴いたしました」と言った上で後日「何か」をしでかすに違いないと思うと行動に移す気さえ起きない。
怖いのは、何をするか想像が付かない所だろう。
「肩こりや眼精疲労に悩むのでしたら、生活習慣病の解消には血反吐を吐いて尚肉体を鍛える事で養われるだろう健全な精神があれば。肉欲も食欲も失せて、聖人並になる事も夢ではございません。
よろしゅうございましたね」
嫌だ、そんな鍛え方!
と、誰かと言うより大多数の男性陣は似たような顔で思ったらしい。
元大臣も、やはり引きつった顔の中でそんな顔になっていた。
確かに、文官の基本的共通の悩みとしては慢性的に起こる生活習慣病で武官と異なり体を動かすことなく必死こいて机に向かって書類仕事をしているのだから、固まらないほうがおかしいと言うもの。かと言って、書類を運ぶ以外の労働など普段はやらないのだから、当然の事として体の不調と動きたがらないと言う現実を天秤に掛けて「また今度」と言って逃げる輩も少なくはない。
法務省の場合は、大多数はやはり意識的にはそんな感じだが。元大臣率いる部署に関しては「気絶しても仕事しろ、血反吐吐いても出勤しろ」がスローガンになっているので、それ以前の問題である。
「後の雑魚な皆様は神官を除き、各部署に戻って上司に指示を仰いでください」
ちなみに、エリンに言わせればあくまでも手抜きではないそうだ。
何しろエリンは王太子付筆頭女官であって、一部署の一職員を相手に王太子第三王女殿下が沙汰を下すなどと暇な事はしていられないのだ。そんな物は各々の直属の上司がすれば良いだけの話……単に、元第一王子と元魔法士団長は上司となる相手が宰相か王族級にしか居なかったからと言うだけであって些細な話に王太子第三王女殿下の名前を持ち出すだけでも十分エリンには不愉快だったのは聞かれないから言わないだけの話だ。
「エリン、騎士団長は~? 僕らがこんな目に合わされるんだから、このスカした顔した憎い野郎だって色々されるんだよねえ?」
「いえ、騎士団長はお咎めなしです……と言うより場合によりましては褒章を頂く事になるでしょう」
「なんでっ?」
元魔法士団長は、その性格と外見に合わせた口調や態度を取る事が多い。
本性は腹黒で人に見せられるものなど皆無だが、それでも今は被っていた皮を脱ぎ捨ててしまう程度には驚いたのだろう。
「騎士団長は結婚しているので、この事態には係わり合いがございません。
また、騎士団長が御子様のもとへ日参されていたのは御子様と元第一王子が毎日会っていたからです。国の重要人物が二人きりで会うなんて事は基本、あってはなりません」
真面目に考えれば判る事だが、もし二人が国家転覆を謀ったり二人まとめて侵入者によって傷つけられたり誘拐されたりすれば、国の面子以前の問題となる。
これが、もし片方だけだったら少しは話が違っただろう。護衛達は添え物であり主の指示がない場合は言動の一切を許されないのは確かだ。ミカも基本的には侍女達にフレンドリーに話を振る事もあるが、かと言って機嫌の悪い時には笑顔で鞭打つ事もあるし、何よりミカ以外の人々はフレンドリーなど許すはずもない。
ミカにも元第一王子にもそれぞれ専属の護衛がいないわけではないのだ、ミカの場合は見目麗しい男装の麗人を探すまでは酷く苦労した経緯がある……若い男では護衛どころか下僕になってしまうし。女性では何だかんだケチをつけて話にならないのだ。それでは護衛の意味がない。
「なんで結婚していたら係わり合いがないんだ?」
元第一王子の疑問はもっともで、室内にいた大多数の視線がエリンに集中する。
「それは……」
説明を求められたエリンが口を開こうとした、瞬間。
すっと進み出た人物が居る。第三の人物。
そう、先ほどからずっと
「私が説明しましょう、皆さん。
私は、神殿の第一級神官のシリーと呼ばれています。
正確には植木枝織、こちら風に言えばシオリ・ウエキになりますかね……家名は良いのですが」
ミカの信者のうち、何人か……神殿関係者と思わしき者達は蒼白な顔になっている。
一体何があったというのか、中には絶対者にでも会ったかの様に震えている者まで居る。
ミカを見れば頬を赤らめていた乙女な野郎達が、枝織を見ただけでガタガタと震えて今にも倒れそうだなどと……なんとも対極の反応だ。
続く
例えば、髪の毛をある特殊な肯定を行えば鉄が取れる。
髪の毛の主成分はたんぱく質だそうだが、これは肉なんかにも含まれている。かと言って、手足などは髪の毛とは全く違う構造だ。つまり、主たる成分も異なれば含まれた異分子も異なると言う事になる。
髪の毛から鉄分を取り出すのだって、髪の毛50kgから5g取れたという実験結果だった。
少し似たような話で、これからレアアースの加工工場では加工後の廃液からレアアースを搾り取ると言う機械を導入する会社も出てくるかも知れないらしい。
つまり、だ。
彼らが色恋に溺れたツケは。
決して安くはないと言う、事。




