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予定調和 第五章

世界が不変だなどと、誰が思うのだろうか。

毎日が変わらないなどと、誰が考えるのだろうか。


世界は変わる。あっけなく変わる。

それこそ、つい今までそこに居た誰かが別人に代わってしまう程度には。

それこそ、つい今まで立っていた場所が知らないどこかである程度には。


彼らは一体、何をしたと言うのだろうか?

『ついでに出来の悪い馬鹿兄……今や弟と言うか、アレを血縁者だと認めるのは心の底から腹立たしいと言うより、その時点で罪悪よね。罪よね。馬鹿馬鹿しい茶番よね、当然王家の系譜から抹消して熨斗つけて脳足りん破廉恥馬鹿娘にくれてやるわよ。無能って言葉は一応は今まで使えたから我慢して置いてあげない事もないわ、でも義務を怠れば即効で無駄飯ぐらいって名前に……無駄飯ぐらいが哀れだから名前は世界中に広げておいて上げるのが親切ってものよね、そうよね? そうでもないかしら? まあいいけど。王妃にでも似たのかしら?

 とか言いつつ、国王にそっくりな所が方向性が違うだけで叩きのめしてやりたいわよね、でも素手や靴でも腹が立つわね。おまけに空しいどころか余計な体力を使うだけで勿体無いわ。

 そうそう、罪状はそうね……王位簒奪の意思あり、及び職務放棄を含めた威力業務妨害って所かしら?』


「私が申し伝える事はすでに先刻承知ですので……以上でございます。

 つまり、すでに第一王子殿下は王家から名を消されております。どこへなりとも出奔しても構わないけれど、国外へ出るには旅券が必要なので無理ですね。王族には基本戸籍がありませんので業務以外で他国に赴かれる事は出来ませんし、通常ならばともかく元第一王子殿下の扱いは罪人ですので戸籍の発行など有りえませんし」


 エリンの言葉に、王子は……元王子は目の目が真っ暗になった。

 真っ白と言うか……ともかく「信じられないことを聞いた」と言う感じだ。夢だろうか? と思ったとしても無理はないだろう。

 何にしても、エリンは一字一句間違いなく伝えるようにと最初に言われていたので口から零れ出た言葉は全て王太子第三王女殿下の言った言葉を吐き出しているにしても……言いたい放題で他人事ならば苦笑さえこみ上げてくる者が不敬罪だと判っていても数人いた。理解出来ない者はきょとんとしているし、理解出来てしまったものは蒼白な顔を隠す事さえ忘れている状態だったりする。


「御子様も元王子を唆したと言う話もございますが……その辺りは寛大な処置と言う事で。これまでの功績もございますし。特に何とも申されておりませんでしたので、まあ慣例に則りと言う所でしょうか?

 元王子、貴方もお言葉には気をつけたほうがよろしいですよ。すでに遅いですが」


 言いながら、エリンが懐から取り出したのは魔法の道具だ。

 数センチ大の丸い透明な玉で、録音された言葉や映像を決められた言葉により玉の外に出す事が出来ると言う代物で特別なものでもなんでもない。ただ、一定のキーワードを誰かが口にすれば一定時間を逆算して録画すると言うもので城内の至る所に仕掛けられている。

 当然、周知の事実的黙認をされているので城に上がる者達が最初に聞かされるのが記録装置の事になるだろう。

 下手な事を言えば、そこからどんな風に足元をすくわれるか判ったものではない……管理及び保存は王家が行っているし、専門機関がきちんと管理しているとは言っても下手をすれば裏切り者が出ないとも限らないのは、いつの時代どんな場所でも変わりはない。

 エリンの持っている玉から出てきた映像は、元王子の声と姿で「国王か……俺なら相応しいな、確かに」と言っている。これだけでは証拠として薄いと言われそうではあるが、実際に親衛隊と呼ばれる王族の一人一人が持っている私設軍隊が強化されれば十分だ。


「違う、王位簒奪など……!」

「言い訳は無用ですよ、元王子……なんて不甲斐ない事でしょう。それでも栄えある王太子第三王女殿下の血を分けた双子の君の言動でいらっしゃいますか、情けないにも程と言うものがございます。

 マーシャ殿が泣いて懇願されたからこそ、国王陛下も女王陛下も王太子第三王女殿下も、皆様が貴方に寛大な処置を施されているのです。そのご厚意を無駄にするなど……例え王太子第三王女殿下が捨て置けと命じられても王太子殿下筆頭女官のエリンが性根を叩き直すのは、もはや義務と言うものでございます」


 静かにきっぱりと言いきられた姿は、言葉の外側に「手前ぇら、それでも逆らうなら(タマ)張る覚悟は出来てるんだろうなあ、あぁん?」と言う意思を感じた。

 恐ろしい、きっとやる。


「あと、魔法士団長は謹慎及び降格、魔力提供の処分が下されました」

「えぇ~~~なんでえ~~~?」


 不満そうに唇を尖らせるが、表情は笑っていない。

 これは、本気で怒っている証拠だ。


「当然の事でございます、国家予算を使って禁術どころか禁呪まで情報を集めるだけでも警告対象だと言うのに実際に行うのですから……これは『知識の塔』でも庇いきれません」

「そんな『知識の塔』如きで僕を庇えるなんて最初から思ってないよ、あんな奴らに何が出来るって言うのさ?

 ちぇ……いつか、ミカが元の世界に帰りたいって言い出したら出来るようにしようって思っただけなのにい……てゆーか『知識の塔』は僕が何をした所で利権を主張してがめつくもぎ取る以外の何をするって言うのさ」

「魔道士が一度は入る塔の恩恵を賜った事がないのでしたら、その台詞も雄雄しいものであると申し上げる事も考える事はやぶさかではありませんが……自ら(もたら)し最も恩恵を強奪されている場合には当てはまらない言葉ではないかと思われます。また、それでしたら神官になればよろしいのですが、対象者の魂を別の対象者に縛り付ける呪や。一定の空間を直接繋げる術などが乱用されて空間に齟齬をきたしている方のお言葉とはとうてい思えないのですが?

 あ、言っておきますが魔力封印はすでになされております。禁呪及び禁術も効果を失っておりますので、王家へ反旗を翻したところで元士団長御自身の魔力によって返り討ちにあうだけでございますよ」


 この世界では、魔法使いや魔道士などになる際は生まれた土地や就職先の国や団体に対して誓いを立てるのが慣わしで、これがなかなか洒落にならない。

 例えば、生まれた時から魔力が高かったり途中で伸びたりすると所属していた町や村、教会に学校と言った所で登録をされる。その場合、もし手配書などが回ったら居所が即座に知られたり魔力を封じられたりと色々と面倒な罰を請ける事になる。

 これは、後天的に魔力が跳ね上がると言う前例が出た事がないからこそ出来る制度だ。潜在能力の上限は誰しも生まれた時点で決まっており、工夫する事が出来るのは使用時に放出する魔力量と言えば良いだろう。

 つまるところ、生まれた時に一定の魔力容量が確認出来て一度に使えるのがコップ一杯分かバケツ一杯分であるかの差だ。魔力を全て使いきる事は基本的に生命に直結しているので不可能、使用しようとした時点で気絶をする事で保護安全装置が働く事になるが、やはり最初に決まった魔力用量が変化をする事はない。

 魔力を持っている人物を統括する組織、それが魔術学園を兼ねている通称を『知識の塔』と言う。

 もし、町や村に登録されない人物が現れたとしても、代わりに国から受けられる恩恵を一切享受出来ないと言う欠点がある。犯罪者であろうが役人であろうが、生まれた場所で登録されるのに問題はない……もっとも、魔法に関わる存在にしてみれば首輪に鈴を付けられた状態になるのは否めないが。


 元魔法士団長は禁呪と禁術を使った罪で持っている魔力を王家に搾取されて供給と言う名前で当分の間は結界などの維持に使われる事だろう。もしかしたら城内の魔力全てを賄わされる可能性もある上に士団長の地位を取り上げられたら色々と面倒な事になる……当分は大人しくしている他はないだろう。


「言っておきますが、研究の全面凍結及び禁シリーズは廃棄ですから」


 エリンの言葉を聴いた瞬間、元魔道士団長は両手で己の頬を押さえて奇声を上げないようにするだけで精一杯だったらしい。

 咄嗟に、何かの魔法を使おうとして発動しなかった……正確にはその分の魔力が吸い取られる感覚を持って替えさせられたというのが正しい。


「酷いやっ!」

「何が酷いものですか……相手の了承も得ないで禁呪や禁術をかける気まんまんだったじゃありませんか。法的に罰を受けるだけでありがたく思わなければなりません。

 死罪程度で済むなどと思われれば王家の威信に関わります、せいぜい魔力供給器として搾り取られて下さいませ」


 そこで「にやり」と笑うからありがたみがプラスマイナスで相殺されるのではないだろうか、と思う者もいたがここは敢えて沈黙を保つべきだろう。



続く


彼らは罪人(つみびと)である事を知らされた。

彼らは罪ある存在として国が決めた。


彼らの罪状とは……。


恋に焦がれ、愛に溺れ、ただ捧げる事のみで体の中をいっぱいにして。

他の事をしなかった。


後に、当時の王太子はこう記している。

「彼らの罪とは想う事に突き進み、人として生きる全てを投げ出した事である」

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