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予定調和 第三章

洗脳と言う言葉がある。

文字面だけで見れば「脳みそを洗う」と言う事になる。

それまでの常識を全て覆し、別の常識を植えつける事。

される本人が気づいていたり気づいていなかったとしても、作り変えられる世界の全て。

洗脳を果たすモノは、それがどんなものかを知っているのだろうか?

でも、それは何の関係もない。

洗脳をされるモノは、それを許容する意味をわかっているのだろうか?

でも、それは何の意味もない。


だけど、全ては時間だけが鍵を握っている。

 つい先日、陳情書(ちんじょうしょ)がどっさり上がってきていた。

 侍女や女官、下女からの沢山の陳情書だ。

 常日頃は無駄としか思えない羅列される規則の数々に辟易しているのは仕事の面倒くささや不満をぶちまけるのに標的とするのに狙い易い存在であるが。

 人と言う生物は、困った時に頼りたくなると言う存在だったりする。


「失礼致します。第一王子殿下、法務大臣閣下」


 その日、護衛と部屋の使用者の許可を得て入室したのは女性ばかり三人。武官は物の数には入らないが、武官が従っていると言う事は護衛が必要な地位に居る存在と言う事になる。

 一人は法務省の大臣付き文官の娘、地味な格好をしているが顔立ちは凛々しく美しく、女性でありながら滅多に動かない表情と制御された理性の事を尊敬と揶揄(やゆ)を踏まえて鋼鉄の魔女、氷の貴婦人と呼ばれているマーシャ。

 一人は神官服を着ているのとフードにより顔が見えないけれど、どうやら下級神官と言うわけではないのだろうと思わせるが、三人目が問題だった。


「マーシャ! エリン! 遊びに来てくれたのね!

 まったくもう、何度誘っても中々来てくれないんだもの……マーシャは、そりゃあガミガミ言われた事は今でも嫌だけど。でも、もうそんなに怒ってはいないのよ? あんなにガミガミ言われなければ……と、もう一人は誰?」


 広い部屋は諸外国の上級使節が泊まる時に使われる部屋で、年に何度も使われる事はなかった。

 彼女が現れた当初は別の部屋を与えられていたものだが、彼女が腰を据えて住む事になってから第一王子によって与えられた……最初は王太子妃の部屋を使うと言う話もあったし、神殿にだって未だに王宮に住み着いた彼女の為の部屋が何時でも住む事が出来る様に用意されているが……自由にカスタマイズさせた部屋が気に入っているのかいないのか、部屋を移動するつもりは無い様だが、気まぐれに内装を変えさせている理由は誰も知らない。調度品に限らず、使用した食器や袖を通した服に関しては一度使ったものは二度と目に入れたくないとまで言い張る始末……ただし、あまりにも純粋すぎるのか、うっかり同じ食器や目に付かない所にあったりする服に関しては気が付かない事もある。ただし、宝石に関してはその限りではない。

 彼女の使っている部屋のかつての姿を知っている者にしてみれば、以前は嫌味にならない程度に設えた、見る者が見ればシンプルながら素晴らしい技術を駆使して作られたレイアウトに感嘆のため息を洩らす事だろう。それこそ、部屋に飾ってある皿の一枚でも売れば高額すぎて闇マーケットでも金額をつけにくいと最悪の場合は断られる一品を平気で飾っている……いたと言うのが正しいのか。

 確かに高額ではあるが、少々……否、かなりけばけばしいと言いたくなる模様替えをされていた。目に痛いといっても過言ではない。こう言う類の物はシンプルな中に一点を置くとかならばまだしも、どれもこれも似たような派手なデザインだと日常に使う気になるのが逆に凄いといえるだろう。

 正直、女官や侍女の趣味を疑われかねない部屋になっていた。

 部屋の奥は1階でもないのに狭くはない中庭があり、それでいて空が閉鎖されている感じはなく「今日のお茶はガーデン・パーティにしましょう」と言う彼女の一存で青空の下で広げられている。


「マーシャ……貴様、私がミカと茶を楽しんでいるのを押し入るとは何事か!」


 大きなテーブルには、そこかしこに人数分のお茶と高級な菓子が山の様に積まれている。

 テーブルの周囲には、ミカと呼ばれた少女と見目麗しい男性陣が居る。

 ミカの背後には侍女が控えているが、その目が笑っていないのは一目瞭然だ。流石に女性を世話するのに男性では色々と具合が悪く、ミカにしてみれば男性の方が色々と言う事を聞いて貰えて都合が良かったのだが男性の世話役だと訪れる面々の機嫌が悪くなるので痛し痒しと言う所だ。それでも、何故に上級職である女官ではなく侍女が着いているのかと訪れる面々は女官長と侍女長に意見をしたが「女王陛下のお決めになった事に逆らうだけの理由を、国王陛下の承認を得た上で王太子殿下に申し上げていただきたい」と言われて引き下がった経緯があったりする……もし、そのまま押し切ろうとしたら女官長と侍女長は王家に逆らってでも完全に敵対しただろうと言うのがひしひしと伝わってきた。引き下がる理由までは掴めなかったが、女官長と侍女長は別れてから舌打ちして残念がったと言う。


「閣下、この度は私……最後のお願いとして参りました」


 城に上がる者は、役職についた時点で基本的に実家の名前は捨てる。

 捨てきる事など出来ないので、結果的には実家の影響力と言うものは色濃く残る事になる。

 それでも、社交界にデビューする前であったりすれば家の影響力は少ない。ただでさえ、マーシャと呼ばれた―――泣いた直後だろうと思われる顔を隠そうともせず、凛と背筋を伸ばした彼女は背景が一切を秘匿されている……王家に関わりがあると言う話が有力ではあるが、それ以上の調査を禁じられている為に手が出せないと言うあたりは苦々しいと思われる人物だ。

 ただし、その揺ぎ無き完璧な制御がされてる感情と冷静さ、とにかく優秀な能力の為に黙認されていると言うのもある。


「……どう言う事だ」

「そうだね、それにエリンが居るのも気になる。

 王太子の筆頭女官が、どうして法務省の大臣付きの文官のお供をしているの? 神官を伴って」


 流石に「最後のお願い」と言われると法務省の大臣―――彼はあくまでも法務省の大臣の一人であり、法務大臣ではない。そんな彼は一瞬、ミカの存在を脳裏から消え去る程度には驚いた。

 彼にとってマーシャとは、面白味のない真面目一辺倒で仕事は正確で、せめてもう少し愛想でも振りまけばもっとモテるだろうにと密かに心配すらしている女性。まあ、それでも実家の関係で幼馴染との結婚が決まっていると言うのだから心配する事もないだろうとは思っていた。

 けど、そんなマーシャは一向に結婚の話が出てこないのも内心では思う所があったのも事実。

 関係はなくても同僚として、上司として案ずると言う程度に感心はある。付き合いは決してない……これは本人達の社交性の無さもさる事ながら、そんな甘っちょろい関係を構築出来るほど法務省と言う場所そのものが容易くはないと言うのもある。人間らしさを求めるのであれば、法務省は選んではならない職場のトップクラスだ。

 結婚をする為に法務省を辞すると言うのであれば、何もこんな所で言う事はないと思うし常識的なマーシャの性格から考えると非常識な事はしないだろう。王太子殿下である第三王女の筆頭女官エリンが(そそのか)したとしても、マーシャの気質ならば断るはずだし何より意味がない。


「どうかお願いです、閣下……もう手は尽くしました。事態は私の手には負えません。

 もう……どうしようもないのです」


 あまりにも。

 あまりにも悲壮な空気を(かも)し出したマーシャを見て、流石に何かがおかしいと法務省の大臣は思った。ただし、その脳裏に「どうしたらミカに良い所を見せられるか」と言う打算が生じてしまったのはどうしたものか。


「そんな顔をミカに見せないでくれる? 文官ならジョーシキくらいあるだろうに……」

「こら、そんな子供みたいな事を……マーシャは十分常識的な人だ。少なくとも、魔法士団を玩具の様に扱うお前よりはマシな人材だよ。判っているだろう?

 一体、何があったんだい?」


 他の男性も銘々に「おや?」とは思ったし、マーシャの事をよく知らない男性神官も周囲の状況からただならぬ事態であると認識していた様だ。


「閣下……私は、閣下に何度も進言いたしました。

 どうか、御子様に訪れる時間を減らして業務を行っていただきたいと。何度も注進(ちゅうしん)致しました……私には可能な限りの手段を持って閣下の仕事を減らす努力を行いました。

 でも、もう……もう、遅いのです」

「マーシャ……一体何を……?」


 流石に状況がおかしいと思ったのだろう、困惑の顔を隠せない法務省の大臣は。己付きの女官であるマーシャの実力を高く評価していたけれど、常に冷静であろうと頑張る姿をしていたマーシャは泣き崩れる事はしていなかったが許せば大声を上げて泣き叫んでいたのではないかと思われる。


「まったく……法務省の大臣ともあろう者が仕事を放置してきたのかい?」


 ため息混じりに吐き出した言葉の主は、格好からして騎士団長だ。

 誠実を絵に描いたようだと言われる彼は、何故に未だに独身なのか不思議だと評判だ。本人に言わせれば「俺は成り上がりだから、嫁に来たら苦労させてしまうのが忍びなくて」と言う事だが、それでも似たような成り上がりと過去の栄光以外を持ち合わせていない家と娘さん達からのラブコールは鳴り止まない。どうしようもないのが、当の騎士団長はリップ・サービスだと決め付けているところだろうか。


「そーゆうお前はどうなのさ?」

「お前や殿下と違ってきちんと業務は終えてきたよ、溜め込んだりさえしなければローテーションで済む……最近は特にこれと言った問題も起きていないからね」


 魔法士団長と言われた少年……彼は三人の中では魔力が高いために最も童顔だが、見かけに引き摺られるのか一言で言えば子供だ。自己申告的に身長が100cm程の外見だが年齢で言えば推定、第一王子と騎士団長より若干高いのではないかと言われている。騎士団長は出自が平民である為に不明な事項が多いと言うのが理由で。故に事情をよく知らない人物からすれば子供を相手に結婚したいと思う家はないし、事情である高濃度の魔力保持者故の成長速度の遅行を知れば己が年老いて醜くなって行くのに童顔なままなのが許せないと言われる。ある意味で哀れな存在だ。


「えっと……ほら、僕は部下を信じてるから」

「殿下は?」

「……そのうちにやる」


 ああ、こりゃ部下も苦労するわな。

 誰かが思ったかも知れないが、流石に口にするだけの度胸を持ち合わせている者は存在しなかったらしい。

 仮に顔を隠した唇が呟いたとしても、音声として届かなければ意味はない。



続く


事態が少し動き出しました。

あえて言うのならば、坂の頂上に止まった車を後ろから押し出した感じでしょうか?

削ろうとした時にはあんなに項垂れて困っていたのに、書き足そうと思えばキータッチは軽やかだぜ!とばかりに続く×2.

説明長すぎじゃないかー!と台詞で吼えたくなります。

別に文字数を伸ばして何かをする予定は今の所……別に、やっても良いけどね。


さて、これから加速度を付けていきますか。

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