彷徨う男
ある男がいた。
男はもうずっと当て所なく彷徨っていた。
一所に留まることを許されずだただた彷徨い続けていた。
どれほどの時を彷徨っていたのか、もうわからなかった。
男はもう彷徨う事に疲れていた。
どんなに疲れ果てようと男は彷徨い続けなければならなかった。
それが、男の運命だから。
彷徨って彷徨い続けて男は焼けた大地と燃え盛る炎が吹き出す地へと辿り着いた。
そこはおよそ生き物が住む事の叶わない大地だった。
男は、熱気を放つその地から逃れるように早足に進み続けた。
その時、ふいに男に声をかけるものがあった。
男が、声の主を確かめようと周りを見回すと、今まで炎の壁だと思っていたものが動き黄金の瞳と目が合った。
全身を炎に覆われた獣だった。
「彷徨う者よ、お前は安寧の地は欲しくはないか?彷徨う事なく一生を一所にと止まり続けたくはないか?」獣は男に問うた。
「欲しいとも。私はもう彷徨うことに疲れた。」
男は疲労の為か生気の感じられない淀んだ眼差しをし大地の熱に煽られながら獣に答えた。
「彷徨う者よ、我の望みのものを捧げるならば、其の望むものを与えよう」
その言葉に男の目に少しばかりの光がやどった。
「炎の主よ何を望む?私はそれを捧げよう」
男がそう告げると獣は悠然と微笑み望むものを口にした。
再び男は再び彷徨いだした。
だが、今回のそれは今までのそれとは違っていた。
男は天の門を目指しながら彷徨っていた。
長い時、セカイを巡り続けた男には知らぬ地などなかった。
逸る気持ちを抑え男は天の門をくぐり求めるものを探した。
求めるものはすぐにみつかった。
それは、人目でわかる程に神々しかった。
そう、獣が望んだものは、天に住まう女神だった。
男はすぐさま女神の手を取り天の門を抜け、炎の大地を目指した。
女神は何の抵抗もなく男に従い連れられるままに供に彷徨った。
女神は慈愛に満ち疲れた男を身を労り心を癒した。
供にあるうちにいつしか男は女神と離れがたくなっていた。
ついに、男と女神は炎の大地へと辿り着いていた。
獣は、女神を連れた男を嬉々として迎えた。
だが、男は女神を捧げることをせずに、安寧の地を得るべく獣へと戦いを挑んだのだった。
獣は怒り狂い女神を奪おうと男を応戦した。
女神もまた、加護の力をもって男を助けた。
男と獣と女神はいつ果てる事のないと思われる戦いに身を投じたのだった。
長く激しく続いた戦いの果て、ついに男は獣を制することができた。
息も絶え絶えの獣は男に言った。
「我を制した其にこの地を預けよう。其の血に連なる者が治める限りこの地は安寧の地となるだろう」
そのまま獣は炎となり地中へと消えていった。
だが、戦いの間ずっと男を守るべく力を使い続けた女神はすでに力つき弱り果てていた。
男はなす術もなく弱りゆく女神を見守る他なかった。
女神は悲しみに暮れる男に最期の力を振り絞り言った。
「いつの日にか、再び輪廻の輪が接する時にまた会いましょう。それまでしばしのお別れです。」
そしてそのまま男に手を差し伸べながら静かに目を閉じたのだった。
大地を灼いていた赤々と燃え盛る炎は消え去り清涼な風が吹き渡り剥き出しになった大地には女神の亡がらを中心に緑が広がっっていった。
新たに生まれた豊穣の大地に男は一人立ち尽くしていた。
ただ一つの約束を胸に、男は二度と彷徨う事なくそこにあり続けた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
実はこれは昔考えた話の中に登場する建国神話として考えたものだったりします。本編は終わりが見えなくなって放棄したので、これだけサルベージしてみました。
読んで少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
誤字脱字などありましたら教えて頂けるとありがたいです。
では、宜しくお願い致します。