そして人は放たれた 前編
神様が男三人、女一人の人間を創造して天国にある楽園という保護区にすまわせていた頃の昔々のお話です。
人間たちは楽園で育ち、もう少年少女を過ぎようという頃でした。
人間たちは、男がアダム、ロパ、マクル。
女がエバと名づけられていました。
人間たちの教師役には、天使ルシファーがその任に着いていました。
今日もルシファーは人間たちを集めて、色々な事を教えようとしています。
ルシファーは聖衣を着ていますが、人間たちはみんな裸です。
人間たちは神の似姿に創られたとはいえ、動物である事に変わりありません。
ルシファーを見つめる人間たちは、みんなニコニコしています。
ルシファーは人間たちが怒ったり、争ったりするのを見た事がありません。
ルシファーにとって人間たちは愛すべき者たちでした。
それだけに心配でたまりませんでした。
他のすでに地に放たれた動物たちは、牙や爪を持ち、あるいは毛皮や厚い皮膚に覆われ、早く走るもの、空を飛ぶものなど、地上で生きていく術を持っています。
しかし、楽園で育った人間たちは、とても弱々しく闘争心もありません。
楽園には木の実や果実が絶えず実っており、食べる物に困りません。
楽園の真ん中に二本の木があります。
一本は善悪を知る木、もう一本は生命の木です。
神様はこの二本の木の果実だけは食べてはいけないと、人間たちに言い聞かせてあります。
今、地上は長い冬の時代を迎えていますが、神様は春の時代になったら、人間たちを地に放とうと考えておられます。
ルシファーは、それまでに人間たちが地上で生きる術を教えなければいけません。
しかし、人間たちは他の動物よりは賢いのですが、ある程度の言語を理解するだけで、とても地上の王となれるようにはルシファーには思えませんでした。
ルシファーは人間たちに言いました。
「今日は火というものを教えるよ。本当なら火のおこし方まで教えたいとこだけど、そこまでは無理だろうから、火という便利なものがある事だけでも分かってほしい。」