隠れ家レストラン まんまと戦場に行かされた件スピンアウト 散文詩
奥山紅葉との出会い まんまと戦場に行かされた件 抜粋
ドラマを詩のように書いて能の幽玄ぽい世界を作りました。散文詩として発表します。
これで、興味が出たら本編もお楽しみいただければ嬉しいです。
入口は薄暗く、奥が明るい。
だからロビーを動く人影は光の中を泳いでいるように見えた。
受付の向こうに壁一面のガラスを隔てて一坪ぐらいの小さな中庭がある。その坪庭から差し込む光が逆光になって、人形のシルエットをひときわ濃くしている。
充分に全身の動きに「涼しさ」を取り戻したと感じて八十島が颯爽と受付に近づく。
ロビーの坪庭には六、七本の逞しい孟宗竹が生えていた。
竹は砂浜を模した白砂利から眩しく輝く空へと伸びていて、その光鮮やかな緑の葉を風が揺らしていた。
『日本を意識した日本風の作りやな』
さっきの人形の黒い影が八十島の方に向かって丁寧に頭を下げる。
そして頭を上げる。
黒い影の中で何かが一閃した。
『何だ?風か?
風が光ったのか?
爽籟?』
デスク上の盆栽の楓が揺れる。
姿勢の良い人がいる。
「いらっしゃいませ」
若い女性の声が「凛」とロビー全体に共鳴する
日本人の発する日本の言葉だ。
八十島は、そこにいかにもきびきびと動けそうなブレザーとズボンに身を包む背の高い日本の娘がいると知った。
『男装の麗人?
時代が時代やったら国色天香といったとこやろ
僕は美しいものと古典が好きや。笑顔にも自信がある』
八十島海人は単刀直入に用件を言う。
「とりあえず、安い部屋でひと月ほど」
麗人は、楓盆栽の横で、すまし顔をにこりと綻ばした。
「ひと月、ですか」
楓の葉が揺れて光った。
『美人を見ると直ぐ恰好つけんのは僕の悪い癖や、今さらきついからしとうもあれへんけど、僧侶としての修行が足れへんと思うとんのや』
八十島には、フロントデスクのあっち側にいる光の麗人が、言葉を発する代わりにその高貴な笑みで
『どうして、説明をして』
と言いっているように感じた




