七話 再会
「あ、もしかして貴方は?」
「え?」
三度目のマスカレード参加。
楽しいけれど、そろそろ誰かとお近づきになりたいな、と思う頃合い。
そんな時に彼と再会した。
「もしかして……ダミアン?」
「ええ! 覚えていてくれましたか、デイジー」
再会したのは最初のマスカレードでダンスを踊った男性、ダミアンだった。
「再会を祝して、どうでしょう? このあと一曲」
「ええ、喜んで」
私ももう慣れたもので、まずはダンスから。
このマスカレードではこれが一番、話のきっかけにしやすい。
「それにしても嬉しいです」
「え?」
「デイジーと再会できるなんて」
「……まぁ、そんなこと」
この場でダンスしながらそんなことを言われると、ドキリとしてしまう。
最初の日に踊った相手だし。
特別な運命というものを少しは感じなくもない。
いつものように短い音楽で踊り終えたあと。
「このあと、お話しでも?」
「……ええ」
私はダミアンと交流を深めることにした。
会話は他愛もないものだ。互いに正体を隠しながらだから深い話はできない。
もし、もっと仲よくなりたいのなら、どちらかが踏み込む必要がある。
「……デイジー」
「なんでしょう? ダミアン」
「この仮面舞踏会ではみんな、本名を名乗らない。君以外はね?」
「……それは」
つい本名を名乗ったことを思い出して、恥ずかしくなる。
「僕もね。名乗りたい本名があるんだけど、名乗るのが難しい」
「難しい?」
「ああ。君は察してくれるかな。つまり、まぁ、家名を名乗ると、ね?」
「……なるほど」
ダミアンも貴族なのかもしれない。
前回出会った銀髪の男性のようにわかりやすくはない。
ダミアンは焦げ茶色の髪をしていて、それなら平民にだって多くいるからだ。
でも、私が黒髪であるように貴族であってもそういう髪色の人はいるだろう。
「でも、ちょっと……ね」
「どうしたの?」
「ほら、あちらの方。出会いを求めるというより商談をしているだろう?」
「ああ、そうね」
マスカレードの参加者の目的は、私のように出会いを求めるばかりじゃない。
商談を進める場や、情報収集の場として活用している人たちもいるのだ。
「ほんの少し前は、僕もあちら側だったのだけど」
「え? どういうこと?」
「……ちょっと失敗しちゃってね。ここの招待状もどうにか手に入ったものなんだけど」
私は少し離れたエリアの人々を見る。
その雰囲気はやり手の商人たちが集まっているような。
あるいは高位貴族が集まり、重要な話をしているような。
そんな様子を感じられた。ダミアンは、あんな人たちの一人だった?
「……何があったの? あ、もちろん言いたくなければいいのよ」
「ん。いや、デイジーなら……よければ聞いてくれるかい?」
「……私でよければ」
そうしてダミアンの話を深く聞いてしまう。
ある程度、伏せた内容だったけれど、要約はこうだ。
ダミアンはおそらく貴族か、有力商人の跡取り。
で、婚約者がいたみたい。でも今はいない。
どうも相手の女性が別の男性と駆け落ちしてしまったとか……。
「……彼女のことはショックだった。僕なりに婚約者として誠実に対応してきたつもりだったし、たとえ政略結婚だったとしても、夫婦としての信頼関係を築けると思っていたからね」
「……ダミアン」
仮面で表情の半分は隠れているけれど。落ち込んでいる様子が伝わってきた。
私はうまく何かを言ってあげることができず、ただ彼の背中を撫でた。
「はは……。ありがとう、デイジー。ごめんね、こんな話を聞いてもらって」
「いいえ、いいのよ。誰にだってつらいことがあるわ。話して楽になるのなら力になる」
「デイジーは強いね」
私は、別にそんなことはない。
そう思ったけれど、今は気落ちしたダミアンを元気にしてあげることの方が大切だろう。
「そうして婚約者がいなくなってね。でも、すぐに新しい相手なんて見つからないだろう?」
「……そうね」
「だから、このマスカレードに来たってわけさ」
「そうだったのね……」
みんな、いろいろな事情を抱えているのね。
「デイジーはどうしてマスカレードに来たの?」
「ええと、私は……」
言いづらい。我が家の事情を話せば、それはそのまま私の正体につながる。
いくら貴族の中で男爵家が一番多いといってもだ。
フローラお母様のような武勇伝を持つ夫人がそうそう他にいるとは思えない。
「あ、もちろんデイジーが話したくないなら……」
「ううん。私も事情は違うけれど、交際相手が、その。結婚してくれる相手を求めてマスカレードに来たのよ」
「……そうなんだ。僕と一緒だね」
「ふふ、そうね」
そうして二人、沈黙する。
回りはざわめきと音楽が溢れ、煌びやかな雰囲気のまま。
私たちだけが、しっとりとした空気に包まれた。
「ねぇ、デイジー。また会える?」
「え」
「初めてのマスカレードでダンスを踊ったことも、今日再会して、同じ事情を抱えているって知れたことも運命……いや、そこまで強い言葉は言わない。『いい縁』だって思うんだ」
「それは……そうかもしれないわね」
「だろう? だからさ。また、ここで。今度は偶然じゃなく、約束して会わない?」
ダミアンからのアプローチだ。
彼もマスカレードに結婚相手を探しに来ている。
私と同じ事情で、こうして知り合えて、会話をして。
……うん。
「そうね。わかったわ、ダミアン。また会う約束をしましょう?」
「やった!」
ダミアンは仮面越しに無邪気に笑ってみせた。




