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仮面舞踏会【マスカレード】でつかまえて!  作者: 川崎悠


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十六話 姉妹

「…………」


 私は顔を押さえて、言葉を失う。

 思い出に浸ろうにもそんなものはなかった。


「まだ会って間もないわ。信じられる根拠なんてない。そんなの当たり前……」

「そうね」

「……でも」


 ここで、ダリアお姉様を、嫌悪だけで突き放せたら。

 かつてのことを引き合いに出して、『今さら何よ』と怒って部屋から追い出して。

 そうして、私はどうするの?


「…………ダリアお姉様」

「ええ」

「殴っていいとか。修道院に行くとか。家督を譲るとかは……嘘ですよね?」

「……それは」


 言い淀むダリアお姉様。

 まぁ、それはそうだろう。お姉様だって人生そのものが懸かっている。

 提示された条件は、どれもお姉様にとっては譲れないものばかりのはずだ。

 だけど、あえてそれを条件に出した。私をどうにか止めるために。


「デイジー」

「……少し待ってください。感情を整理する時間だけ……」

「……ええ」


 顔を上げられない。ダリアお姉様のことを見られない。

 本当は言ってやりたい。

 また私から奪うために、そんな嘘までつくのか。

 私が交際しようとしている彼の悪口を言わないで、と。

 感情に任せて、そんな言葉が言えれば、どれだけ楽だろう。

 でも、それはきっと間違いだ。ダリアお姉様の懸念は正しい懸念だから。


「……私は」

「ええ」

「…………その懸念を、心配を、ダリアお姉様の口から、聞きたくありませんでした……」

「……デイジー」

「本当に心配してくれているのもわかります。お姉様の感じた嫌な予感は、否定できない。でも……せめて、ダリアお姉様は〝悪者〟のままで、いてほしかった……!」


 どうしようもない、そんな。怒りのままに怒れない。

 かといって素直に感謝もしたくない。

 そういう苦しみに苛まれる。本当に楽じゃない。


「……そうでしょうね。だから」

「ええ、ダリアお姉様があそこまで言ってくれたんでしょう。本当は何も譲るとか、捨てるなんてしないくせに」

「そうね。でも、別にデイジーだって、ウォーゼル家を継ぎたいわけじゃないでしょう?」

「…………はい」

「家督を継げるといえば聞こえはいいけど、所詮は男爵家だものね。むしろ、いいところに嫁げるのなら、私よりずっと貴方たちの方が幸せになれるし、身分も上がるかもしれない。それが男爵家の跡取りなのよ」

「……うまく相手を見つけられればの話です」

「それもその通りね」


 わかっている。ダリアお姉様に関しては、私だって押しつけている面もあるってことを。

 姉妹だから。互いに思うところなんていっぱいある。


「それでも今回は口出しさせてもらったわ」

「……はい」


 ダリアお姉様は私にとって意地悪な姉だ。

 それでも、私に迫る身の危険を放置できるほど情がないわけじゃない、家族だった。


「……はぁ」


 私は深く、深く溜息をついた。

 胸のうちにある、黒くて、モヤモヤした気持ちを吐き出すように。


「……涙さえ出ません」

「ええ」


 いっそ泣き出してしまいたい。この、なんともいえないモヤモヤ。

 振り切れない感情。怒りも、憎しみも、感謝もある。

 複雑に絡んだ糸のような、気持ち。


「……落ち着いてくれた? デイジー」

「…………はい、ダリアお姉様」


 私は顔を上げて、ダリアお姉様を見る。


「約束は守ってくれるわね? 次に彼と会う時は、きちんと警戒して、対策をとって行く」

「はい、ダリアお姉様」


 私がそう答えるとお姉様は安心したように、私の隣に座ってきた。


「話は終わりじゃないんですか、ダリアお姉様」

「そうねぇ。デイジーがきちんとしてくれるなら終わり。そう言いたいところなんだけど」

「まだ何か?」

「…………」


 ダリアお姉様が言葉をためらう。さっきまでの方がよほど軽快だった。


「本当に何かあるんですか?」

「あのね、デイジー。本当に嫌なことを聞くんだけどさ」

「はい」

「……ジャスミンが諦めると思う?」

「……! それは」


 ダリアお姉様は今回の尾行で、ダミアンに警戒心を、疑念を抱いた。

 だから私を心配して、こうやって無理矢理に話を聞く手筈を整えたのだ。

 私は、思うところがあってもそれを受け入れられる。

 ダリアお姉様の心配は正しい、と。これまでに苛立ちを飲み込んで、正しく理解できる。でも。


「ジャスミンは……」

「貴方と会っていた彼、ダミアン? って人の顔を見たはずよ、あの子も。顔立ち、けっこう整っていたでしょう?」

「……ええ」

「あの子は私と違って、家督を継ぐことに縛られない。美形の異性であればそれでいい。よくない部分でフローラお母様に似ているし、よくない部分でアンソニーお父様と同じお花畑。それが私とデイジーにとっての、彼らの評価よね」

「……否定はしません」


 フローラお母様は、かつて若い頃の現国王、宰相閣下、騎士団長から求愛された女性だ。

 それらを受け入れながら、男爵令息にすぎなかったアンソニーお父様を選んだ人。

 現実的な判断でそうなのかというと、そうは思えない。

 ただ、好きだから、お父様を選んだのだ、フローラお母様は。


 でも、普通に考えて、そんなとんでもない男性たちと交流を続けていたなんて、まともな精神ではやっていられないだろう。

 少なくとも私には無理だ。ダリアお姉様も無理だと思う。

 けれど、ジャスミンだけはやりかねない。

 ジャスミンが髪色だけじゃなく、性格や性質も、一番フローラお母様に似ている。


「デイジーが警戒して彼に会わなかったとしても、ジャスミンが暴走して会おうとしてしまう……。そんなふうに思ってしまうのって私だけかしら?」

「……私も、そう思います」


 ダリアお姉様は、なんだかんだ私たちのお姉様だった。よくわかっているのだ。


「……どうしたらいいと思う? デイジーは話を聞いてくれたけど」

「ジャスミンには逆効果な気がしますね……。とくに私が言っても聞くとは思えません」

「そうよね。私もそうなの」


 どうしてジャスミンのことを考えないといけないのか。

 いっそのことダミアンが怖い人ならジャスミンを、なんて。

 考えてはいけないことを考えてしまう。

 ダリアお姉様のように、最後の一線を越えずにいられる心の強さが私にはないかもしれない……。


「まぁ、デイジーはまず目先のことを考えるといいわ」


 ダリアお姉様がベッドから立ち上がり、部屋から出ていこうとする。


「……はい、ダリアお姉様」

「なに?」

「殴ってもいいって言いましたよね」

「え」

「言いましたよね?」

「……その話、続ける?」

「私が殴らないと思っていたとか」

「いえ、その、あの。デイジー?」


 私も立ち上がって、ニコリと、笑顔を作る。

 今日一番の、飛びっきりの笑顔で。


「家督はいりません。修道院に行かなくてもいいです。彼と別れなくてもいいです。でも」

「デ、デイジー?」

「殴るのは別にナシにする必要ないですよね」


 ダリアお姉様が怯えたように私を見る。

 こんなお姉様の姿を見るのは初めてだ。なんだかそれだけで上に立てた満足感がある。


「ふふふ」

「デ、デイジー、早まってはいけないわ……!?」


 珍しく私に怯えるダリアお姉様を、私はじっくり堪能させてもらった。


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― 新着の感想 ―
とりあえず、問題はダミアンと妹? 姉とは仲直り…というか、薄情でも冷徹でも無いけど、恋愛は距離を置きたいタイプ?な家族。 妹…少しくらいなら、痛い目にあっても良いような?
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