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仮面舞踏会【マスカレード】でつかまえて!  作者: 川崎悠


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十五話 姉からの謝罪

 その日の夜。私の部屋のドアが、控えめにノックされた。


「……はい?」

「デイジー。私よ、ダリア」

「ダリアお姉様?」


 途端に昼間の嫌な記憶が蘇る。

 せっかく外で会う約束をしたダミアン。

 けれど、姉妹が私を尾行するなんておぞましいことをした。

 どうして、放っておいてくれないのだろう。

 勝手に幸せになればいいのに。私から奪わなければ気が済まないのか。


「……今、話したくないわ」


 ドア越しにダリアお姉様に答える。


「そうだと思った。でも、デイジー。どうしても顔を合わせて話して。本気よ」

「……?」


 ダリアお姉様の声色が今までと違う。

 今まではどこか調子の抜けた、上から目線で、腹の立つ声だった。


「……なに?」

「…………」


 ドア越しには話せないってこと?

 このようなやり方で、こちらから折れたくはない。

 今まで我慢してきた分、私にだって怒る権利があるはずだ。


「デイジー」

「……わかったわよ」


 私はしぶしぶ、ドアの鍵を開ける。

 ダリアお姉様は、まっすぐに私を見ていた。

 やはり、どこかいつもとは雰囲気が違う。


「……入っていい?」

「……ええ」


 ダリアお姉様を部屋に招き入れる。


「悪いけど、鍵を閉めるわよ」

「え? ええ、いいけど」


 何? 怖いわ、ダリアお姉様。いったいなんなの?


「デイジー」

「……はい」


 ダリアお姉様は、口をハクハクと開閉しては、何かを言いかけて止める。

 私は何を言われるか待つしかなく、しばらくそうしていた。

 やがて。


「ごめんなさい、デイジー」

「え?」


 ダリアお姉様は私に頭を下げた。


「お姉様?」

「今までのことを謝るわ。ごめんなさい、デイジー」


 私は驚きのあまり、頭が真っ白になる。

 ダリアお姉様はプライドの高い人だ。美しい容姿をしていて、自分に自信を持っている。

 もちろん、それでも男爵家の娘にすぎないので、上には上がいる。

 でも、妹の私にこうして頭を下げるなんて、意外だった。


「……今さら、なんなんです? どういう風の吹き回しですか?」


 謝られても、すぐには許せず、私はそう言葉を続けた。


「少しでもデイジーに私の話を聞いてもらうためよ。本当は本題から話したかった。でも、貴方が聞く耳を持たず、ましてや家を出るようなことになったら私は一生、後悔する。だから頭を下げるの。私はデイジーの姉だし、家族だから。貴方の死……まではかは正直わからないけど。とびきりの不幸なんて望まない。絶対に。貴方に不幸になってほしいわけじゃない。それだけは私の本当の気持ち」


 ……どういうこと?

 ダリアお姉様からは茶化すような様子は見受けられない。

 お姉様は真剣だ。本気の言葉で、そう言っている。


「いったい何を言っているのですか?」

「……うん。デイジー、私を許さなくていいわ。それでも今、この瞬間は最後まで私の話を、真剣に聞いて。私は嘘を吐かない。貴方を騙さない。ただ事実と、私の感じたこと、それだけを離す。判断するのは貴方。けれど約束してほしいことがある」


 ダリアお姉様の切羽詰まったような、そんな。ここまで真剣な表情は初めて見る。

 私は怒りを忘れて、頷いた。


「……わかりました」


 そう答えると、ダリアお姉様はホッとした様子を見せる。


「いい? デイジー。貴方にとっては謝罪の真意とか、これまでのことの方が重要かもしれない。或いは、新しい関係の方が重要だし、私のことなんて、もう知らないと思っているかもしれない。それでも聞いて」

「……なんなの?」


 怖いくらいにダリアお姉様は真剣だった。


「今日、私たちは貴方を尾行した。これは事実」

「……ええ」


 結局、昼間の言い訳か。私は失望してしまう。


「誤解しないで」

「はい?」

「尾行したことの言い訳はしない。謝りはするけれど、それは本題じゃない」

「……はぁ」


 本題じゃないって。私はそのことに怒っているんだけど?

 これまでと違う誤魔化し方をするつもりなのか。


「ここからは、ただ私が感じたことだけを話す。デイジーは怒るかもしれない。怒ってもいい。なんだったら私を殴ってもいい。私を殴ってもいいから、今から私の言う言葉を、嘘だと思わずに真剣に受け取って」

「え、ええ……? 何をそこまで……!?」


 ダリアお姉様がそんなことを言うなんて。

 意外すぎる。私はだんだん冷静に、いや、怖くなってくる。


「私とジャスミンは昼間、貴方を尾行した。馬車と護衛代わりの御者を連れて、移動した」

「……はい」

「その途中、私はこう思ったの。『人通りが少なくなってきたな』って」

「……?」


 人通りが少なくなってきた?


「はぁ……。確かに中央通りに比べれば、静かな場所でしたけど」

「……あくまで、これは私の感じたこと。続けるわね?」

「は、はい……」


 ダリアお姉様の真剣さは変わらない。


「もし、自分が男性で、女性をデートに誘うなら、この場所はない。デートスポットとは程遠いし、センスもないし」

「…………」


 何? まさか、私の選んだ相手を貶したいの? バカにしたいのだろうか。

 でも、ダリアお姉様の表情からは、そんな気持ちでの発言には思えない。


「そして私はこう思った。『こんな場所、女に一人で来させる場所じゃないでしょう。だって危ない。もし、何か起きた時に、どこに、誰に助けを求めるの?』」


 ダリアお姉様はそこで言葉を区切る。

 真剣な表情で、私を見つめたまま。


「それ、は……」

「デイジー。貴方が望むなら、私は家督を手放すわ。ローランドと別れろと言うなら別れる」

「え、ええ!? 何を言っているの、ダリアお姉様!?」

「それほど真剣に、貴方に今、話しているということ。貴方の信頼を、今からでも無理矢理に勝ち取るためになら、すべてを手放すわ。私は姉妹に……不幸が起きて、後悔する未来を望まない」

「……ダリアお姉様」


 ダリアお姉様は本気だった。本気の言葉だった。この言葉は疑えない。

 姉妹として、家族として育った私の経験がそう伝えてくる。


「……もし、私の警戒心をデイジーに伝えただけなら、これまでのことがあるから。貴方は耳を貸してはくれないでしょう。『またデイジーの見つけた男を奪うつもりなのか』と。そんなふうに思われたら、貴方は頑なになってしまう。だから。私はすべてを手放すわ。修道院に行けというなら……本当は嫌だけど行きましょう。でも、その代わり、今だけでいい。私の言ったことを真剣に考えて」


 私は力が抜けていく。フラフラとした足取りで、ベッドの端にポスンと座った。


「デイジー」

「……ダリアお姉様は、ダミアンを警戒している?」

「ええ。でも、彼に会うなとは言わない。だって私には証拠がないから。ただ危険かもしれない、そう思っただけ。けれど、今度会う時は準備をしてから会いに行って」

「準備……?」


 私は首を傾げ、立ったままのダリアお姉様を見上げる。


「護衛を数人連れていくこと。離れた場所からでもいい。行く先と、時間を家族だけでなく、他の信頼できる人間に周知してから行動すること。彼が二人きりになりたいと言っても、絶対に護衛を遠ざけたり、見失わせたりしないこと」


 それは私への心配だった。

 あのダリアお姉様が。いろいろなものを投げ捨てると言い放ってまで。

 もちろん、口約束だ。いくらでもあとから撤回できるかもしれない。

 けれど……。


「……もし、普段のデイジーだったら。私たちとあんなことがある前のデイジーだったら、もっと警戒していたと思うの。でも、最近の貴方は頑なだったり、浮かれたりしている。それを責めたいわけじゃないのよ。いい出会いがあったというのなら、それでいい。笑い話になってくれればね。でも初デートであの場所はない。もちろん、彼の性格も、貴方たちのやり取りも知らないから、どうしてあそこが待ち合わせ場所になったのか私は知らない。ねぇ、デイジー。貴方があの場所を指定したの?」

「……いいえ」


 あの場所を指定したのはダミアンだった。


「二人の親密なやり取りがあって、あの場所がいい、あの場所に行ってから、どこかへ行こう。そんなふうに約束した?」

「……いいえ」


 待ち合わせをすることになって、ダミアンがあの場所を指定しただけ。

 それは目的地を決めた待ち合わせではなかった。


「……もし、どこにも行く予定が決まっていなかったのなら、王都の中央通り近くに行くべきだと思う。だって、あの付近でデートに適した場所はないわ」

「それは……」

「デイジー、貴方はそのダミアンという男の人を、どこまで信じられるの?」


 それは致命的な質問だった。


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― 新着の感想 ―
…今更何? …やっぱり取ったらポイの又いらん男だったみたいですね今彼 …妹、姉見て育ってるのよ、そっくり ……家督くれ修道院行け…主人公が言わないとわかってて言ってるのがわかるー 本当に謝るつもりな…
お姉さん…本気で心配してくれてますね…。妹はともかく、ダリアお姉さんとは家族として続けられそう?そして、やっぱ、ダミアンはヤバソウ!
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