十三話 ダミアンと進展する仲
示し合わせてマスカレードに参加し、ダミアンと会う。
「デイジー、僕と一曲踊ってくれるかい?」
「ええ、ダミアン」
焦げ茶色の髪をしたダミアンに手を引かれ、マスカレードで踊る一組となる。
こうして会う度、ダンスする度に、だんだんと関係が深くなっていく。
でも、アイリスと友人になったことで気付いてしまった。
マスカレードでの仮面越しの触れ合い、会話では相手の深いところまで知ることはできない。
いつかは仮面を外して、外で交流する必要があるのだ。
そうでなければ私たちの仲は進展したとは言えない。
けれど、仮面をつけているからこそ湧く勇気もある。
アイリスは同性だから、まだ心を開くことができた。
それと同じことを、このダミアンに、或いはルイスにできる?
正直にいえば、怖い。本当の私を受け入れてくれるのか。
仮面をつけているから、それだけの、一夜の幻のような付き合いだからこそ、こうして笑い合えるだけじゃないのか。
仮面を外すということは、夢から覚めるということだ。
本当の自分を晒す勇気を出すということだ。
「ねぇ、ダミアン」
踊り終えて、ゆっくりとした時間を過ごしながら。
恐る恐る私は彼に声を掛ける。
「どうしたんだい、デイジー?」
「ええとね……。ちょっと、その」
マゴマゴともたついてしまう私を、ダミアンは待ってくれる。
私は深呼吸してから、彼に願い出た。
「もう帰るから、馬車まで送ってくれない?」
「……、……いいよ!」
私の提案に怪訝な表情を、おそらく浮かべたダミアン。
でもすぐに切り替えて受け入れてくれた。
そして、そのまま馬車へ向かう私たち。馬車の前まで来た私は。
「ダミアン」
「うん」
私は勇気を出して、仮面を外した。
「……! デイジー!?」
「……これが私。仮面を外したデイジーよ、ダミアン」
急にこんなことして、驚いたかな。でも。
「あのね。もちろんマスカレードで踊ったり、話したりするのは素敵な時間なの」
「……うん」
「でも、その。それだけじゃあ物足りないって気づいたの」
アイリスと友人として過ごした時間は、とても輝いていた。
あの時間があったからこそ、私は勇気を出せる。
「だからね。貴方がよければだけど。……仮面を外して、マスカレードの外で会わない?」
心臓がバクバクと音を立てる。緊張と不安で足が震えそう。
でも、どこか期待を胸に彼の反応を待つ。
「わかった。デイジーが望むなら外で会おう」
ダミアンはそう言ってくれた。
私は嬉しくて笑顔になる。ダミアンも笑ってくれる。
「じゃあ、外での待ち合わせの場所は、僕が決めてもいい?」
「え、ええ! もちろんよ!」
ダミアンは仮面越しに、ニッコリと笑った。
「じゃあね、王都の、少し外れになるんだけど……」
ダミアンの指定した場所は、王都の中央からは外れた、静かな場所らしい。
アイリスと会ったカフェテリアは中央に近く、人通りもそれなりにある場所だった。
「……わかったわ。そこで……あ、でも、いつがいい?」
「んー……。明日はいきなり無理だろう?」
「そうね」
「だったら来週、いや、三日後とかどうかな?」
「三日後! 早いわね、ダミアンは平気?」
「はは、気持ちが熱いうちにデイジーと会いたいからね」
「そ、そう。じゃあ、三日後に、そこで」
「ああ、待っているよ、デイジー」
外で会う約束ができた。それだけ私は満足してしまう。
何もかもこれからなのに。
「デイジー」
「どうしたの?」
ダミアンは私の手を取って口付けをする。
「ダ、ダミアン……」
「ふふ、また外で会おう、デイジー」
彼はそう言いながら、私を馬車の中に入るようにエスコートする。
ゆっくりと私を乗せた馬車が走り出すのを、ダミアンは笑顔で見送ってくれた。
「…………」
少し離れたところで、彼の顔を見れば、笑っているように見える。
「まだ、最初の一歩。そう、最初よ」
ああ、そういえば。
私は仮面を外したけれど、結局ダミアンは仮面を外してはくれなかったな。
仕方ない。
私の覚悟や勇気だったとしても、同じものを相手に押し付けるのはおかしいもの。
「来てくれるかしら」
私は三日後を待つ。それは、きっと運命の日だった。
「……」
「……」
「……」
マスカレードに関わる人々との交流で、幸福感を得るとは反対に。
家の中での私は、相変わらず姉妹との距離を置いていた。
それでも食事は家族で一緒に取る。
ウォーゼル男爵家の食堂では相変わらず飽きもせずに甘ったるい空気の両親と、無言で食事をする姉妹の構図ができていた。
「ねぇ、いい加減に機嫌をなおしてよね、デイジーお姉様」
「私は適切な距離を置いているだけよ、ジャスミン」
「……そんなことないわよ」
「貴方は何も気にしなければいいわ。今までみたいに、私の気持ちなんて」
「だから、あれは……」
「もういい? 私、部屋に戻るわね」
ダリアお姉様も、ジャスミンも何かを言いたげな様子だった。
でも、私は彼女たちを無視する。とにかく今は、余計に二人と関わりたくない。
せっかくマスカレードの外でダミアンと会う約束を取りつけたのだ。
お願いだから放っておいてほしい。
「ダミアン……?」
「……デイジー、来てくれたんだね」
「ええ!」
待ち合わせ場所は、静かな住宅街といった風情で、その区画に用意された公園だ。
そこにあるベンチで待っていたのは焦げ茶色の髪の男性。
ダミアンの素顔を、私は初めて見る。
「ダミアン、貴方、そんな顔をしていたのね。あ、ごめんなさい、失礼なことを」
「はは、仕方ないよ。今まで隠されていた部分だからね。気になるのは当たり前さ」
近すぎず、遠すぎない、そんな距離を保って紡がれる会話。
気持ち、マスカレードよりも距離を感じるのは、きっとこれが私たちの本当の距離なのだろう。
ダミアンと他愛も無い会話を続けていると、彼が聞いてきた。
「ところで、デイジー。一人で来られなかったのかい?」
「え?」
何を言われたのかわからず、私は首を傾げる。
「私は一人で来たわよ?」
「……ふぅん?」
何かしら。ダミアンが少し剣呑な雰囲気を滲ませる。
「じゃあ、君、誰かに尾行でもされたみたいだね」




