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仮面舞踏会【マスカレード】でつかまえて!  作者: 川崎悠


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十話 マスカレードの光と闇

「あ」

「ん? どうしたんだい?」

「約束していた男性の姿を見かけたのです」

「ああ」


 ダミアンだ。おそらくあの後ろ姿は間違いない。


「では、デイジー。また」

「あ、はい。……約束はしなくていいですか?」

「約束? ああ……。デイジーは次にいつ頃来る予定かな?」

「私は、頻度が上がったとしても七日に二日ほどなので……」

「彼とも約束しているんだろう?」

「はい」

「では……」


 ルイスとはダミアンと合わない日の約束を取り付けることになった。

 なんだか悪いことをしている気分になる。

 でも、これくらいならローランドと交際しながらカルヴァンとも交流していた私だ。

 いえ、あの時も多少の罪悪感は抱いていたのだけど。

 でも、ああでもしないとダリアお姉様やジャスミンに奪われると思っていたから。


 ……男性からすれば言い訳よね。


 私はブンブンと首を振った。

 ここは出会いを求める場だもの。これくらいは相手だってわかっているわ。

 現にルイスはダミアンと交流することだって怒らなかった。

 単に彼は結婚相手を求めているわけじゃないからかもしれないけど。

 そこはもう考えたって仕方ない。


 私はダミアンに歩みよっていく。

 仮面はいつもと同じ。ただドレスを変えた。

 ルイスは、あのたった一度の交流で気づいてくれたけど。

 ダミアンはどうかしら?

 ドキドキしながら、彼に近寄る。でも、こちらから声はかけない。


「おっと……」


 ダミアンが振り向き、私の少し斜め辺りの位置にくる。

 ちょっとだけぶつかりそうになった。


「すみません、レディ」

「…………」

「失礼、人を捜していますので」


 ダミアンが軽く頭を下げてから、去っていこうとしてしまう。

 流石に今の一瞬じゃ気づかなかったか。


「貴方、よければ私と踊りませんか」

「ん?」


 ちょっと残念だけど、このまま立ち去られたら、せっかくの機会を失う。

 なので私は悪戯心を滲ませつつ、話しかけた。


「ええと、失礼ですが、僕は今日、約束の相手がいるのです。レディ、またの機会に……」

「ダミアン」

「……ん?」


 痺れを切らした私は、彼に教えてもらった名前を口にした。

 そこでようやくダミアンの目の焦点が私に合う。

 それから視線をズラして、おそらく私のドレスを確認した。


「もしかして、デイジー?」

「ふふ、ええ。仮面が同じでしょう? 髪の色だって」

「ああ、デイジーか! なんだ、声をかけてくれよ」

「意外と気づかないものなのね? なんだかおかしかったわ」

「まいったなぁ」


 ダミアンはドレスを変えた私に気づかなかった。

 ちょっと残念だけど、でも怒るほどじゃないわ。

 人間の認知なんて、ほとんどが顔に依存するってことよね。


 私はそれからダミアンと会話し、踊って、また次の約束をして、その日を終えた。



 また次の日。

 今日はダミアンではなくルイスとの約束の日だった。

 ルイスに言われてから、またマスカレードの姿が変わった気がする。

 私が今までいたのは煌びやかな光の世界。

 でも、ルイスが追っているのは、その影に隠れた闇の世界だ。


「……本当に何か事件が起きているのかしら」


 私が知るマスカレードの世界は、誰もが新しい出会いと交流を求める場だ。

 そんな私の知らない世界がこの影に隠れている?

 それはたとえばどこで?


 私はいつもとは違う場所に視線を巡らせる。

 何かが起きるのなら、普段の私が使わない休憩室の方かな。

 ふらふらと私はそちらに足を運ぶ。

 別に深追いするつもりはない。ただルイスがああまで言うことが信じられなかった。


 もしかしたらルイスの目的も私と同じで、捜査なんてことはただの建前かもしれない。

 そう思うと……。思うと? なんだろう。


 自問自答しながら、私は休憩室への道を進む。すると、その先で。


「え?」


 そこには、複数人の男性に取り囲まれている一人の女性の姿があった。


「まさか」


 このマスカレードでは、誰もが自分の正体を隠している。

 それはやっぱりどこか怪しさを感じさせるものだった。

 でも、その分、魅力的でもあって。

 ここの空気に酔いしれていた面もある。


 だから、一線を越えてしまいそうな男女が現れたとしてもおかしくはない。

 でも、あれは……。


「…………」


 注意深く観察する。彼らに気づかれないように。

 何事もなければそれでいいのだ。

 ルイスと合流できればもっといい。

 だが、そのどちらも私の願いは叶わない。


 男性たちに囲まれた女性は怯えていた。

 怯えて、それだけではなく、急にフラリとその体が傾いた。

 仮面をつけた男性たちが、倒れた彼女を心配するフリをして支える。

 だけど、仮面の下部に見える口元は笑みを浮かべていた。

 目の前で女性が意識を失ったように見えたのに。

 ニヤニヤと笑っていて。


 ……アレは、ダメだ。


 たとえ、どういう事情であったとしても声はかけるべきだ。

 それで彼らも去ってくれるかもしれない。

 私はバクバクと鳴る心臓の音を聞きながら、足早に一団に近付いていく。

 怖い。はっきり言えば関わりたくない。

 でも、あの一団の異変に、意識を失ったらしい女性に、気づいたのが私だけなら。

 私が助けなければ、彼女がどうなってしまうのか。


「……あの!」


 私は怖いと怯えながらも、勇気を振り絞って彼らに声をかけた。

 彼らは休憩室の方へ意識を失った女性を運ぶ様子を見せていた。

 それがただの善意なら問題ない。どうか、そうであってほしい。


「そちらの女性、もしかして気分が悪いのではありませんか?」

「…………」


 男たちはすぐには答えない。

 互いに顔を見合わせて、どうするかを決めかねている様子だ。


「よければ私が彼女を連れていきますよ。同性の私の方が、彼女も気が楽でしょう」

「……あー……」

「ふふ、心配ありません。こう見えて……」


 何か。彼らに言っておいて、牽制になるようなことはないか。


「私も知人と来ているんです。力仕事や荒事で、頼りになる仲間たち、いえ、友人たちなんですよ。今日はもうみんなで帰るつもりだったので、すぐに合流します。皆さんは彼女のことは私に任せて、マスカレードの続きを楽しんでください」


 私はグループで来ていることを仄めかす。もちろん嘘だ。かろうじてルイスと約束しているけど、私の姿がなくて、わざわざ捜しに来るとは考えにくい。

 彼とはまだ口約束をしただけの関係。その約束だって一度もまだ守れていないから、来なければ約束が不意になったと諦めるだろう。

 私は鼓動が早まった状態で、背中に冷や汗をかきながら笑顔を続けた。

 できるだけ自然体に見えるように心掛ける。


「……いえ、俺たちも、そこまで。そうだ、せっかくなら彼女と一緒に休憩室へ来てくれませんか」

「え」

「友人がいらっしゃるんでしたよね。どのような方か教えてください。俺たちが、貴方のことを伝えておきますから」


 ヤバい。どうしよう。この返しは考えていなかった。

 彼らの目線が私を疑っているとわかる。

 とってつけたような嘘は全部見破られている?

 このままだと意識を失った女性が連れ去られるような場所に行くことに……。


「やぁ、ドヌーヴ! 待たせたね、どうしたんだい?」

「え?」


 そこでさらに横から私に話しかけてくる相手がいた。

 え? ドヌーヴ? 誰?


「え、貴方」

「あはは! ボクだよ! 君のボディーガードのセントラルさ!」


 私の横に立っていたのはルイスだった。

 でも、なぜか互いの名前が違うものを示している。それになんだか雰囲気が違う?

 以前に会ったルイスは真面目で、誠実そうな雰囲気を纏っていた。

 けど、目の前にいる彼は、なんだか軽薄そうな様子だ。……演技?


「ん? 彼らがどうしたんだい? ドヌーヴ」

「ええと。彼女の具合が悪そうに見えたから、同性の私が介抱するって提案していたの」

「へぇ?」


 ルイスがあんまり興味のなさそうな雰囲気で彼らを見据える。


「まぁ、ドヌーヴがそうしたいならいいよ! 貴方たちもマスカレードを楽しんでね!」


 そう言いながらスタスタとルイスは彼らに近付いていく。ニコニコと笑顔を浮かべながらだ。

 男たちはそんなルイスを警戒してなのか、距離を取る。


「よっ。お任せあれ!」


 ルイスが彼女の肩を抱いて支えた。とぼけたような笑顔のまま。

 彼らは目配せをしてから『ありがとう』と言葉だけ残して去っていった。


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