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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第7章 琉球

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第8話:第7章及び第1部 終幕

 “鳴金”の音が響いた直後、二人の周りの景色が急速に変化した。海水と貝殻でくすんだ部屋は輝きを取り戻し、祭壇は豊かな色彩に彩られた布を纏う。置かれているのは燭台だろうか。ゆらめく一対の光が視界に入る。そして、何よりも驚いた顔をしているのは……立派な衣装に身を包んだ数人の男たちと、中央に座する巫女の姿であった。


 祭壇の前に立つ真理と桐生。打ち寄せる波の音に混じり、潮の香りが鼻腔をくすぐる。小さな部屋で二人を見上げているのは数人の男性。男性はいずれも色鮮やかな着物を纏い、口髭を蓄えている。中央の巫女は両手を掲げたまま、待ち望んだ者を見るような感動と少しの涙を湛えていた。

「ここは……?」

 戸惑う真理に先頭の男が破顔して語りかける。

「もしや、“門”をくぐられてきたのか?」

「え?は、はい、多分……」

 真理の返事に他の男たちもどよめく。

「皆に伝えよ……“ニライカナイ”に稀他人まれびと至る、と!」

 入り口に近い男たちが頷き、広間に向かって走る。先頭にいた男が真理と桐生の手を取り、広間へ誘う。

「いざ、参られよ!“門”をくぐりし稀他人のお二方!」

 未だトランス状態から抜けていない巫女にも声をかける。

「ノロよ、戻って参れ!いつまでもそのように立ち尽くすものではない!」

 ノロ、と呼ばれた女性はハッと我に帰り、二人に続く。

 通された広間は派手さはないものの、ガラスや金銀で彩られた調度品が上品に配置されており、テーブルには多くの人々が着座していた。

「皆、稀他人である!これより西の神殿にて、“天地の義”を執り行う!」

 歓声が上がり、皆立ち上がった。真理と桐生はまだ状況をよく理解できていない。

「えーっと、ここは……」

「海の果て、ニライカナイである!」

「……あなたは?」

「申し遅れた。我は火神ひぬかんと申す。これよりお二方を東方大主あがりかたうふぬしのおわす西の神殿へとご案内する。そこで“天地の義”が執り行われるであろう!」

 真理も桐生も度肝を抜かれた。東方大主といえばニライカナイの最高神である。

 洞窟につながる橋を渡り、森を抜けると輿が待っていた。

「いざ、西の神殿へ!」

 火神の掛け声と共に、屈強な男たちが輿を持ち上げる。何やら歌のようなものを皆で歌いながら、西へ西へと進む。



◇◇◇



「……これ、どういう状況?」

「何か、ニライカナイに来ちゃったっぽいっすね。んで、今から偉い神様のもとで“儀式”が行われる……」

「そもそも今って、いつの時代なんだろ?」

「俺に聞かないでください!」

「だよねえ……何か、理解が全然追いついてこない……」

 二人の会話が聞こえたのか、火神が豪快に笑いながら答える。

「ニライカナイの時は流れぬ。ここはいつの時も変わらずニライカナイなのだ!」



◇◇◇



 悩める二人を乗せた輿はどんどん進み、やがて“西の神殿”に到着した。

「稀他人が参った!東方大主に“天地の義”を行う旨、お伝えして参れ!」

 火神の言葉を受け、小柄な男性が飛ぶように神殿の奥へと走っていく。

「さ、稀他人のお二方。これよりしばしご足労いただく。ついて参られい」

 火神に促され、輿を降りた二人は“西の神殿”を見る。先日見た薄い石造りの建物と形は同じであるが、そこに風化の跡はなく赤と緑を基調とした鮮やかな色が広がっていた。

「いざ、東方大主の元へ!」

 見覚えはあるが初めて見る景色に戸惑いながらも、神殿のさらに奥へと進む。内部に入り、壁画の廊下を進んだ先の祭壇の前に佇むのは、壁画の最後に描かれていたのと同じ人物。誰よりも立派な衣を纏い、美しく流れるような髭を蓄えている。一目見て、人ではない事が分かる強烈なオーラ。

「稀他人よ、よくぞ参った。これより其方らは、“天地の義”によりことわりの生まれ出ずる場所にてその命を果たす。創造神、アマミキヨの加護があらん事を」

 話の展開についていけないが、つまりここから何だか凄そうな場所に送られるらしい。

「七つの門を開きし者よ。地を天に至らしめる、神の和音を唱えよ」

 何ことか分からず困惑するが、桐生が真理の手にある“コトノハノ鏡”に起きている変化に気付いた。

「先生、“コトノハノ鏡”!七つの星みたいなのが光ってる!」

 真理が手元を見ると、確かに“コトノハノ鏡”に刻まれた七つの星のようなものが光っている。東方大主に促され、真理が鏡に告げる。

「和音を、神に!」

 真理の言葉に応えるように、それぞれの星から“音”が飛び出した。初めは低く、移ろうほどに高くなるその音色は重なるごとに天上の和音を奏で、やがて二人を取り巻く光景が急速にはるか下方に流れて行く。重力は感じず、ただ目の前を光の線が流れ続ける。

 流れはやがてゆっくりと、綿毛が降り積もるような緩やかさを取り戻した。

 目を開けた真理と桐生の目の前に広がっていたのは、天空にあるはずの“星々”。それらは瞬きながら、手を伸ばせば届く位置に降りてきていた。

 “地が、天に至る”

 奇跡を祝うかのように、七色の鐘が美しいハーモニーを奏でた。



◇◇◇



 現実離れした光景に二人は息をするのも忘れて見入っていた。宇宙の深淵を思わせる闇の中、無数に煌めく星々の輝き。真理は何気なく、手元にある小さな星に触れた。星は優しく真理の手を包み込み、瞬きの意味を伝える。

 “これは、私たちが瞬いているのではない。宇宙そのものの揺らめき。人は、その瞬間を瞬きとして捉えるのです”

 星は真理の手を離れ、元いた場所で煌めき続ける。目の前に、一際明るく輝く星が現れた。真理の耳に、懐かしい声が聞こえる。

「SOPHIA……」

 声が告げた。“その星を手に取りなさい”と。

 桐生と目を合わせ、軽く頷く。二人が触れると同時に星は輝きを増し、真理と桐生はその中に溶け込んでいった。


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